市場原理を歪める中国株式市場のPKO

何でもありの国、中国ならでは、といえばそれまでですが、激しい下落の続く上海株式市場を舞台に中国政府が捨て身ともいえるPKO(Price Keeping Operation)を実施することとしました。それは、

上場投資信託に総額1200億元(2兆4000億円)を6日午前11時までに市場投入開始
上海総合指数が4500になるまで買い支え(現在3600ポイント台)
IPO(新規株式公開)は全部保留

実際には官民の総力戦で市場を支える体制となるので目標の4500ポイント奪取はあり得るのかもしれません。しかし、それは市場心理を操ろうとする小細工にしか映らず、むしろ、市場を歪める可能性の方が高いことは確実です。

月曜日にギリシャが緊縮派の勝利(YES側)で終われば市場はもともと買い圧力がかかりやすいところですから、このPKOは明らかにゴムまりのような反応となるはずです。市場参加者の心理は3割近くほぼ高い確度で上昇するのが分かっているわけですからボーナスのようなものになるのです。

ただ、問題はその目標の4500ポイントをつけた時、市場がどういう反応を示すか、であります。個人の「やれやれ売り」が押し返す動きとなれば市場が再び不安定になる可能性は高く、予断を許しません。

ましてやギリシャ問題が反緊縮派(NO側)の勝利にでもなれば市場の動きは全く予見できなくなります。先週末もまるで催促された如く、中国は利下げに動いたもののギリシャ問題で週明けの市場は世界的に攪乱され、上海市場も下落しました。今週のシナリオと構図は一週間前と全く同じであり、ここからの予想は困難であります。

では私が気にしているのは何か、というと中国政府がなぜ、ここまでして株式市場に注力しているのか、であります。不動産バブルが去り、理財商品のブームも去るなかでマネーが大好きな中国人が向かったのは忘れ去られていた株式市場だったという事になります。2007年末に上海総合の指数は6000をつけたあと激しい下落で2000を割り込む水準まで暴落しました。

それからは2000ポイント台中心の比較的レンジ内の動きだったのですが、2014年の夏から急騰、一気に倍化しました。私には海外から疑問視されている中国の本当の姿を見せない為の「飛ばし」の様にも見えるのです。それぞれの損失を補てんするために作り上げる人為的な上げ相場であるとしたら株式市場は非常に都合のよい利益創出が可能です。が、一点、上海市場が外国人投資家に開放されていない以上、そのゼロサムゲームは中国人の間で新たなる付け替えにしかならないという事にも留意する必要があるでしょう。

株式は経済状態や経営状態のミラーであります。その中国経済は株価が暴騰し、熱狂するほど好調かいえばほとんどの方は首を横に振るでしょう。GDPも7%成長が維持できるか不明瞭です。不動産市場の調整は相当長引くことになるでしょう。そんな中で中途半端なPKOは市場が本来あるべき調整能力に違うバイアスをかけることになり本来あるべき姿が映し出されなくなる可能性が高くなってしまいます。

私は上海市場がそれほど柔なものだとは思っていません。潜在的市場価値はそこそこあるはずで今はうわずみの調整だと考えています。どこまで下がるのが適正かは別として指数が際限なく下がることはないのでどこかで必ず下げは止まるものです。そこまで待てなかった中国政府の心理とは何だったのか、そしてよりによってギリシャ問題が二週続けて絡みつくような状態の中でのPKO発表は皮肉としか言いようがありません。

日本も以前株式市場のPKOをしたことがありますが、それが功を奏したという印象はありません。あるいは為替において市場介入をすることが為替市場に健全だったかといえばNOであることはほぼ間違いありません。投入した介入資金はわずか数日で水の泡という事もありました。確かに韓国やスイスでは為替の市場介入を今でもしていますが、日本や上海の市場は巨大でそのマグニチュードが全く違います。力で押し返せるようなものではないことを察するべきでしょう。

このPKOのニュースは実に不安な気持ちにさせると共に全くしっくりこないこの決定の裏に何が隠されているのか、そちらのほうに大きな興味があります。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月5日付より