原子力規制委員長「恫喝」への疑問-関電美浜審査をめぐり

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規制委員会の審議の様子

東田八幡
環境法研究家

委員長発言は明白な行政手続法違反

7月2日付の各紙の報道によれば、7月1日の原子力規制委員会での審議とそのあとの記者会見の場でまたまた、とんでもないことが起こっている。(参考・「規制委が美浜原発の審査打ち切り示唆  関電、基準地震動見直しの岐路」)

それは関西電力の美浜3号機の安全審査に絡んで田中委員長が、「基準地震動が8月までに確定できなければ、審査の中断も含めて考えなければならない。事業者は自覚する必要がある」といった趣旨の発言をしたことである。規制当局者としてとんでもない発言である。

これを受けて、翌日の新聞では、「地震想定の見直しを要求」「審査中断示唆」「審査打ち切りも」等々といった見出しが躍った。規制権限を行使する当局者としてあるまじき言動である。事業者に対する「恫喝」と言っても言い過ぎではない。

田中委員長は、規制権限の行使、公権力の行使ということの意味や重大性をわきまえているのであろうか?戦前や昭和40年代以前ならいざ知らず、いまどきこんなあからさまな恫喝行政は見たことがない。しかも20年前に「行政手続法」が制定され、行政の、特に規制行政の横暴を回避するための措置、手続が色々と講じられ、行政庁には様々な縛りが掛けられているのである。

「行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない」。行政手続法には、「第4章 行政指導」という項がわざわざ設けられていて、行政機関が事業者に対して理不尽な要求をすることのないよう、いろいろな歯止めを掛けている。

まず第33条では、「・・・内容の変更を求める行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続することにより当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない。」とある。

当局の裁量で事業者を従わせるのは違法

これを美浜のケースに当てはめると、まさに事業者が地震想定の仕方について科学的理論的に当局と議論しているときに、科学的根拠や理由を示すことなく文字通り有無を言わせぬ言い方で、無理やり当局の考え方にしたがわせようとしているのである。この条項で禁止しようとしていることを、規制委員会は現にしているのである。しかもこんな法律違反のことを公然としているのであるから、なおさら驚きである。

さらに第34条では、「許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を有する行政機関が、当該権限を行使することができない場合又は行使する意思がない場合においてする行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、当該権限を行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない。」とある。

この条文ははっきり言って一般人には非常にわかりにくいので本件に置き換えて解説をすると、地震想定を変えなければ不許可になるとは言えない状態であるのに、当局の言うことに従わなければ、不許可になりますよ、もう審査を継続しませんよ、ということをあからさまに言っているのであるが、これはまさにこの条項にある『不許可にしますよ』の旨を殊更に示すことにより事業者にそれに従うことと余儀なくさせる」ようなことをしているのである。

法律で明確に「してはならない」と言っていることを、明示的に「している」のであるから、こんな明白な第34条違反はない。驚くべき事態である。

事業者は泣き寝入りをしてはならない

以上見てきたように、今回の田中委員長の発言は規制行政の基本行動原則たる行政手続法に真っ向から違反するものであり、事業者も安易に妥協したりしてはならないものである。

この法律は、その法目的(第1条)にはっきりと書かれているように「国民の権利利益の保護」のための法律であるから、国民たる事業者は保護してもらう立場にあるのである。そのために、この法律では念には念を入れて、第32条第2項で「行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取り扱いをしてはならない。」とまで規定して、事業者を保護することを明言しているのである。

だから、事業者は自信を持って規制当局に対し毅然とした態度で臨むことが求められているのであり、事業者自身も決して安易に恫喝に屈してはならないものであることを肝に銘じなければならない。