社長の仕事

岡本 裕明

少し前の日経ビジネスにファナックの特集があり、社長の稲葉善治氏がこう述べています。

「仕事はプロたちがしていくので、社長は『雑用係』でいいのです。雑用係はしょうがないから矢面に立つ。」と。

日本では石を投げれば社長に当たるといわれますが、「雑用係」でよいといえるのはファナックのもつ強さから出てくるものでしょう。私も極小の会社の社長でありますが、自分を雑用係とは表現したことはありませんが、雑用が多いのは事実です。そして社長だから雑用をやる余裕があるのかもしれません。

ファナックという会社はNC装置(世界シェア5割)、産業用ロボット(同2割)、ロボドリル(同8割)で売上高営業利益率が4割、ROE16%、平均給与1000万円、1億以上の報酬者は10名ととにかく日本の常識を圧倒しています。この会社のトップが雑用と称するのは本業以外の面倒くさいところは社長がやってください、という事だと思います。

通常、優秀な社員を抱える大企業の場合、社長の取り巻きである「御家人」がいるものです。その為、社長はトラブルがなければ案外楽なポジションで全部仕事を部下に投げてしまえます。私も秘書という御家人をサラリーマン時代にしていましたので大企業におけるその「重層の社長保護システム」はある程度知っているつもりです。

しかし、実態としてはその雑用を御家人にやらせると完璧ではない、思った方向と違うなど不満も多いようで私もずいぶん小言を言われました。ちなみにその小言とは社長や会長から言われるばかりではなく、取締役や部長クラスからもぶつぶつと呪文を唱えられたこともあります。

そんな経験もあってか私は社長になってからは御家人を持つことはなく、(今後もないでしょう)、全部自分で出来る能力を日々、磨いています。

私が思う社長の仕事とは起業や新規事業がゼロのスタートで100がアフターケアだとすると始めの10と残りの10を社長が先頭に立って陣頭指揮すべきかと思います。例えば新規案件の場合、非常に詳細に自分が直接詰めます。契約し、仕事の振り分けをしたら自分の役目はほぼ終わりであとは自動で流れますし、スタッフがフォローできるでしょう。

また、最後の10のアフターケアとは不満なお客様がいらっしゃった時の対応、会社の顔としての仕事、プレゼンスであります。アフターケアもスタッフレベルで解決できないものを社長として絶対に未解決で終わらせない気持ちで処理します。私の様に極小企業ですと顧客が社長と話をしやすい環境に置くことも大切かと思います。自分は偉いんだとゴルフ三昧、美食三昧の余裕は一切ありません。

そういえば海外駐在員が本社帰任が決まると残り1か月は接待とゴルフ漬けの人をよくお見受けします。特にトップクラスにポジションの方にその傾向があり、現地法人の社長さんが週4回ゴルフとはさぞかし余裕があるのだろうと思ってしまいます。私からすれば「時代ズレ」としか思えないのですが。

先日のトヨタの常務役員の逮捕に関して豊田社長が異例のスピードで記者会見を開いたのは正に「雑用の社長係」の典型であります。あのタイミングで記者会見をすると決めたのは豊田社長のあの苦いアメリカの「レクサス暴走事件」での対応の遅さが体験としてあったのでしょう。あるいはエアバックのタカタの社長がいつまでたっても表舞台に出なかったことが不信感を増長させたこともその対比例としてあったと思います。

雑用係の社長とは言い換えればフットワークの軽さであります。それゆえに5時間近くも遠隔地のゴルフ場で拘束されることは基本的に緊急時対応が十分に出来ないことになります。私は24時間臨戦態勢。先日も午前3時に電話でたたき起こされ、ある事件処理に走りました。社長とはマニュアルにないことを最もスムーズにこなせる潤滑油であるともいえましょう。

社長の器とはこんなものです。「言うは易く行うは難し」とはこのことかもしれません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月12日付より