バロンズ誌:中国株安を侮るなかれ --- 安田 佐和子

2015年07月12日 11:30

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バロンズ誌、今週の特集は債券ファンドです。利上げ開始がジリジリ近づくなか、1981年に開始した債券ブル相場に幕が下りる可能性も。当時、米10年債利回りは15.84%でピークアウトし2013年5月には1.63%まで低下しました。しかし2012年に投資の神様ウォーレン・バフェット氏が指摘したように、債券価格の上昇は危険水域に入ったとも考えられる。リッパーによると、今年1-5月は地方債を含む債券に750億ドル(約9兆2000億円)の資金流入を確認したものの、6月には流れが変わり170億ドル(約2兆円)の流出へ転じたといいます。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今回は中国株安がテーマです。欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁がユーロ圏を死守するため「必要なあらゆる手段を講じる(do whatever it takes )」と発言してから約3年を経て、中国がなりふり構わぬ支援策を矢継ぎ早に放ちました。その手法は、自由主義経済とかけ離れていましたが。

6月12日の高値から30%近く落ち込んだ8日までのたった約4週間で、中国株式市場から約4兆ドル(約490兆円)とインド経済の2倍に相当する資金が吹き飛んでしまいました。中国は利下げから始まって「悪意ある」空売りへの捜査など広範囲にわたって株安食い止めに着手しており、まさに「あらゆる手段」を駆使しているといっても過言ではない。中国当局の支援策を称賛するアジアの大手機関投資家の一角は、株式市場そのものが当局の政策ツールという認識に賛意を表すかのようです。

米国をはじめ欧州、日本が決して真似しない方策に反応し上海総合は9日に5.8%高、10日に4.5%高と続伸し、週足で5.2%上昇するに至りました。香港に拠点を置くリオリエント・キャピタルのスティーブ・ワン主益エコノミストは、空売りがピーク時から75%も急減したと指摘。同氏は「中国側の政策が不完全でまとまりがなく、かつ批判を浴びるものだったとはいえ、当局に逆らうのはリスク・リワードの観点から意味がないと判明した」との見解を寄せています。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチによると、8日までに中国A株の上場投資信託(ETF)に130億ドル(約1兆6000億円)と過去最高の資金流入を記録していました。

上海総合、中国当局の介入により200日移動平均線で下げ止まり。
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(出所:Stockcharts)

中国株安の影響は9000万人の個人投資家に影響を及ぼしただけで、10億人以上の国民には何の関係もないように見えます。しかし、商品市場へのインパクトは明白です。ヘッジファンドであるガルテアの創業者で最高投資責任者(CIO)のレネ・ハウグラッド氏は、商品先物下落の一因が「テクニカル」と指摘。銅やその他の先物は株式取引をはじめ融資の担保として使われており、中国株安で持っていかれたに違いありません。もうひとつ忘れてならないのは、ファンダメンタルズ。特に世界経済のエンジン役である中国経済が向かい風に直面しており、多くの産業財の中核を担う商品先物は金融危機に揺れた2008年以来の水準近くまで落ち込んでいます。

バロンズ誌のコモディティ担当であるテレサ・ヴォッゾ氏によると、銅先物が2011年2月の高値から45%下落し2009年近くの水準へ沈みました。鉄鉱石先物はピーク時から75%落ち込み、2009年近くの水準へ下落。銀先物は2011年4月の高値から68%、金先物も2011年9月の天井から39%下振れしたといいます。原油先物は2014年6月から、50%値下がりしました。

原材料を輸入に頼る中国にとって、商品先物の下落は朗報と見る向きもいることでしょう。しかし原油先物の下落が米国の供給拡大と世界経済の鈍化を背景とすれば、世界の工場たる中国にとってプラス材料ではありません。

中国株が底打ちしたとしても、前例を見ない株安対策は当局と改革への信用を著しく損ないました。長期的な弱気派で知られるソシエテ・ゲネラルのアルバート・エドワーズ氏は、レポートで中国への信頼が揺らいだと著しています。問題は「極端な手法」と「空売り投資家と海外勢こそ急落の引き金を引いたと非難する国営メディア」ではなく、国営メディアを旗振り役にバブルを煽動させた政策であり、一連の支援策の効果は短命に終わるとの見方を示していました。

2014年11月からの中国株高は、利下げなど緩和政策の賜物。実体経済は注意信号を発していたものです。取引停止の銘柄が市場に戻って来た時にどうなるか、その時こそが正念場でしょう。

Grimbo——シティグループが「ギリシャ(Greece)」と「辺獄(limbo、キリスト教では洗礼を受けてない死者が行く天国と地獄の中間の場所)」を掛けて作った言葉そのままに、ギリシャは新提案を国際債権団に提出した後、12日まで第3次支援を受けられるか否か未定となっています。JPモルガンとバークレイズは、国民投票後に「Grexit=ギリシャのユーロ圏離脱」こそ基本シナリオと位置づけました。仮にそうなればドラクマの再導入に合わせカリフォルニア州のように「借用証明書(IOU)」が出回ると考えられます。

ニューヨーク証券取引所(NYSE)でも8日、ソフトウェアの更新に伴うシステム障害で取引が中断され「limbo(宙ぶらりん)」の状態の陥りました。そのNYSEで取引が無事再開し、13日週は銀行決算が相次ぐなど決算シーズンが本格化します。グラスキン・シェフのデビッド・ローゼンバーグ主席エコノミストは、株価収益率(PER)の「E(利益=earinings)」が「P(price=価格)」に追いつくかが試されると言及。ただ株価は15%の上昇を演じたものの利益は5%以下と出遅れており、75ヵ月にわたる強気相場にブレーキが掛かってもおかしくないと予想していました。

決算だけでなく、15~16日のイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長による旧ハンフリー・ホーキンス証言も見逃せない。10日の講演から逸脱しなければ、年内利上げを掲げてくるでしょう。むしろ海外情勢の不透明性を受け、マーケット関係者の焦点は利上げ開始に踏み切る要因あるいは先送りする条件への回答に集まること必至です。

ストリートワイズも、ギリシャを忘れて中国に注目せよと提言した上でアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートとともに慎重な見解を寄せます。まず、中国経済は政府の目標7%を下回るペースで減速しつつある。株式市場のバブルで目を逸らすことはできてもうず高く積み上がる負債や産業の過剰生産能力は否定できず、株式市場ともに実体経済に打撃を与えかねません。

9000万人の個人投資家が中高所得者層であり、中国経済のけん引役という点も忘れるべきではないでしょう。消費・内需主導型経済を担う中高所得者層の資産が傷めば、成長が阻害されかねない。中国株式市場が10日に続伸し安堵感が流れるなか、中国汽車工業協会(CAAM)が2015年の新車販売台数見通しを従来の7%増から3%増へ下方修正したことは、偶然ではないと考えられます。

中国ウォッチャーで知られるJキャピタルのアン・スティーブンソン—ヤン氏いわく、9000万人の投資家のうち高値をつかんだのは国営企業や民間企業の取締役でした。彼らはイージーマネーとも言える株式を設備投資の資本として、あるいは融資担保として活用するつもりでいたわけです。銀行が一軒一軒訪問し売り歩いた資産運用商品にも、中国株は組み込まれているに違いありません。中国株が流した血は、経済に滴り落ちかねない。多大な債務を削減するための手段を失えば、なおさらです。

(カバー写真:TorrentButler


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年7月11日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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