次のターゲットは日章旗

svg9人が犠牲になった、アメリカ、サウス・キャロライナ州、チャールストンでの教会銃乱射事件(6月17日発生)をきっかけに、アメリカ南部でいまだに広く利用されている南部連合の旗を「レイシスト(人種差別主義者)の旗」として糾弾する運動が起こりました。結果として、サウスキャロライナ州の州都コロンビアでは、州議会の前に掲揚されていた南部連合の旗が降ろされました。

svg南部連合の旗はアメリカの南北戦争の折(1861~1865)、開戦当時の旗があまりにも星条旗に似ていたことから戦闘中の判別をよりしやすくする目的で発案されましたが、このデザインは南部の諸州の部隊旗の一部にフィーチャーされ、愛用されてきました。

南北戦争終結後、南部連合の旗は違法化されましたが、南部諸州が自治権を回復すると同時に息を吹き返します。そして1960年代にキング牧師などのリーダーシップの下に市民権運動が高まると、南部連合の旗は反動的な人種差別主義者たちのシンボルとして悪用され、イメージが悪化します。

結局こうした一部の時代錯誤で反社会的な人々による悪用が前面に押し出され、そのイメージが定着し、今回の南部連合の旗の排斥につながっていったことになります。

かつては祖国愛と自治権のために犠牲となった南部兵たちへの敬意と、その子孫たちの郷土の歴史に対するプライドの象徴であった旗も、現代の心ない人々の悪用によって泥をぬられる形になったのです。

もちろん、当時の南部諸州が奴隷制経済に立脚した人道的に許しがたい政権だったのだから、そのシンボルである南部連合の旗が排斥されるのは当然だ、という議論にも一理あります。しかしそれをいったら、歴史上なんども大虐殺の正当化に利用されたキリスト教の十字架や、他の宗教シンボルも同じ理由で同様の排斥対象にされるべきでしょう。

やはり今回の南部連合の旗の問題は、そのオリジンが問題なのではなく、それが現代というコンテクストでどのように利用されていたかということが問題とされたといえます。

そう考えますと、日本人としては今回のサウス・キャロライナの対岸の火事が、我らが日章旗に延焼しないか、心配になるわけです。

すでに中・韓両国においては日章旗はタブーとされ、これをナチス・ドイツのスワスティカ(鉤十字)と同様にみなすという姿勢をとっていますし、これを世界的なスタンダードな見方にしようという働きかけも行っています。そして今回の一連のアメリカの動静から、南部連合の旗の問題と日章旗を同列に扱う記事も見受けられるようになってきました。

我々の祖先が祖国愛の象徴としてこれに殉じていった旗を守るためにも、これを現代において悪用することを禁じる手立てを政府はなぜ打たないのでしょうか。「八紘一宇」という言葉の意味するところを本当に理解していれば、日章旗の下に外国人排斥を叫ぶヘイトクライムが許されざることぐらい自明の理だと思うのですが、ネトウヨ的自民党議員の思慮はそこまで到達していないようです。グローバル・メディアが醸成する世界世論にとりのこされたあとで、日章旗を世界遺産登録するつもりなのでしょうか。

オマケ
今回の南部連合の旗の排斥は、アメリカの政治家たちがその先頭に立ってこれを推し進めましたが、これは銃乱射事件を受けて、これが銃規制への動きにつながるよりは、旗の問題にしてお茶を濁そうという意図が働いているように見受けられて、他の国のこととはいえ個人的には非常に不快なものがありました。公民権運動に反抗するジェスチャーとして州議会に掲揚された旗を降ろすことはいたしかたないとしても、市民の安全を二の次にして、自分たちの歴史遺産を正当に継承する努力を放棄した彼らの政治家としての誠意というものに大きな疑問を抱かざるを得ないのです。共和党陣営で来年の大統領選挙に向けてトップを走っているジェブ・ブッシュ氏は排斥運動の先陣を切っていましたが、民主党陣営で弱小候補として奮闘しているジム・ウェッブ氏(南部ヴァージニア州出身)は歴史的遺産としての旗を擁護していました。私はウェッブ氏の勇気と誠意を尊いと思うのです。