商品価格下落がもたらす経済リスク

岡本 裕明

4-5年前に持てはやされた金銀銅。オリンピックではなく、商品相場の話です。どんどん価格が上がるその理由は中国からの爆買いも大きな理由の一つでありました。資源国であるオーストラリアやカナダは潤い、世界中の投資家は当然、その成り行きに注目しました。原油が高かったのもその頃であります。

ところが、工業用用途の多い順でまず銅相場が一番初めにつんのめり始めました。中国での住宅関連需要が細り始めたからです。そして銅はストックヤードに一杯でもう置くところがない、という状態が顕在化し、その価格は下落に次ぐ下落となったのです。更に今週にはNYの銅相場が6年ぶりの安値を記録し、ロンドン金属取引所の指定倉庫の銅在庫は今年に入って92%も増加したと報道されています。

一方の金も24日金曜日に5年ぶりの安値を記録し、一時1オンス当たり1070ドル台を付けました。現在、先行き積極的に買われる見通しはなく、1000ドル割れどころか一部アナリストは800ドル台を目指すとしています。

果たして本当にそこまで下げるのでしょうか?

金は工業用需要よりセーフヘイブンとしての投資需要、あるいはインド、中国などを中心とした宝飾としての需要が高く、銀、銅になるとほとんどが工業用の需要となっています。(昔は金がそれほど採取できず、金本位制度が維持できなかったため、銀本位という時代もあったのですが、遠い過去の話です。)

先日、日本に滞在していた際にセールスの電話で「金を買いませんか?今、金が大ブームでお客様は大行列を作っていらっしゃいます」という実にいい加減なことを言われたので、「あなた、ニューヨークの相場はご存じ?」と返したら失礼しました、と言って切られてしまいました。

日本の金の場合、米ドルとの関係が一つのトリックです。金価格の一般的表示はドル建て。よって、金価格が一定だとして円安になれば円建ての金の価格は上昇します。件のセールスマン氏は円安になれば金はお得、と言いたかったのでしょう。事実、為替の見通しは円がドルに対して更に弱くなるとみる向きが強く、その点は当たっています。しかし、金の価格はそれ以上のペースで下落している点を見落としています。

今、カナダの新聞の経済欄では深刻な景気問題の記事が目につくようになってきています。第2四半期のマイナス成長の可能性は高く、その場合、二期連続となってしまうためリセッション入り間違いないと言われています。そのため、資源など産業界からの悲鳴、更にはそれが伝播して関連産業も厳しい経営を余儀なくされています。

産金会社が多いカナダでは産金コストが大手でも一部の金鉱が赤字になるとみられ、中小ではさらに厳しい状態が続いています。そのため、一部金鉱の閉鎖が今後、始まる可能性があり供給がグッと絞られそうです。その一つの境目は金価格1000ドル割れではないかとみています。これを下回れば中小の産金会社にとってそれ以上の赤字は体力的に不可能で産金を止めた方が得になります。

以前にも申し上げましたが、商品相場は需給関係で価格が決まるのであり、供給が止まれば価格下落も止まります。金はその生産調整がもう間近に迫っているとみて良いかと思います。

銅価格は今や1ポンド(454㌘)250円程度と野菜の単価よりも安いと言われる状態でこちらも生産調整が進んでいます。あとは中国などでの需要回復を期待するしかないのですが、目先、世界中どこを見ても強い回復力を持った国はありません。特に中国に限らず、BRICSで知られた国々の経済があまりにも弱々しく、今後数年間の目覚ましい回復は期待薄とみています。

そうなると「風が吹けば桶屋が儲かる」の話ではありませんが、アメリカの利上げムードに対する向かい風がやや強まる可能性はあります。今年一度ぐらいは利上げをするのでしょうが、継続的に何度も利上げをする状態にはならない気がします。事実、金曜日のNYの株式市場は160ドル余り下げたのですが、その理由がコモディティショック(商品価格下落ショック)であります。

特に隣国のカナダは今月の利下げに続き、もう一度利下げをせざるを得ないと言われており、経済先行きは厳しいトーンとなっており、政府へのボイスも高まり始めています。地球儀全体で見ると原油価格も新たな下落トレンドに入り、アメリカシェールも更なる痛手を負うと見られており、良い話があまりないのが実情です。

個人的には穴を掘ればお金が湧いてくるという資源は経済創造力からするとどうなのかと思います。日本の様に資源が今のところ何もない国は必死で働き、創造し、売り込まねばならないという経済構造ですが、それが結局、一番安定しているともいえなくはありません。震災や原発問題を乗り越え、汗をかいて頑張る日本が地球全体ベースでは今、なんだかんだ言っても安定感抜群に見えます。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月26日付より