独大衆紙の「誤報」が提示した問題は --- 長谷川 良

2015年07月30日 13:26

ドイツのメルケル首相(61)が意識不明に陥ったというニュースが流れた。発信元は独大衆紙ビルド(電子版)だった。メルケル首相は観賞中のオペラ第1幕後の休憩の時、「突然、意識不明」となったというのだ。ギリシャの金融支援問題や殺到する難民対策で昼夜、奮闘する首相だけに疲れがたまり、倒れたのかもしれない。メルケル首相の容態を知りたいので続報を待っていたら、ビルド紙が数時間後、「メルケル首相倒れる―は誤報だった」と修正記事を掲載した。

メルケル首相は25日、同国南部で開催されたバイロイト音楽祭でオペラ「トリスタンとイゾルデ」(リヒャルト・ワーグナー作曲)を観賞し、休憩時間にレストランで椅子に座ったところ、倒れた。それを大衆紙ビルトが「メルケル氏が意識を失い倒れた」と速報したたために大騒ぎとなった。
政府報道官は、「首相は意識を失っていない」と述べ、急病説を否定した。ビルト紙は26日未明、「意識を失ったのではなく、椅子が壊れたために首相が倒れただけだ」と訂正記事を掲載して“夏の誤報”劇の幕を閉じた。倒れたのは古かった椅子で首相ではなかったわけだ。

参考までに書くと、同音楽祭で倒れて救急車で運ばれた政治家はやはりいたのだ。独週刊誌シュピーゲル(電子版)によると、バイエルン州のキリスト教社会同盟(CSU)のゼーホーファー党首がオペラ観賞中に気分が悪くなって会場を出、病院に運ばれていたというのだ。同党首は翌日には退院し、日常の職務を行っている。「オペラ会場が暑く、気分が悪くなっただけだ」という。

「メルケル首相倒れる」はビルド紙の誤報で終わったが、首相が本当に倒れた場合を考えざるを得なかった。欧州連合(EU)の主役であり、経済大国ドイツを主導するメルケル首相にもしものことがあったら大変だったところだ。英国のキャメロン首相はEUに留まるかどうかで国内を統一しなければならないし、オランド大統領のフランスは国民経済が揺れ出している。EUを指導するだけの経済力もない。

メルケル首相の後継者はやはりドイツから探さなければならない。現時点ではメルケル首相の後継者レースでは同じく女性のウルズラ・ゲルトルート・フォン・デア・ライエン国防相(56)の名前が挙がっている。医者であり、労働・社会相など閣僚経験も豊富だが、国防相となってからは自動小銃G36の精密度に関する問題が表面化し、その対応で苦労している。もちろん、メルケル首相の後継者は必然的にEUの指導者となるから、EU諸国から支持が得やすい政治家が望ましいことはいうまでもない。

東西両ドイツの再統一を果たしたコール元首相は旧東独出身のメルケル女史を自身の後継者に育てていった。メルケル首相の場合、与党「キリスト教民主同盟」(CDU)内にこれといったライバルはいない。メルケル首相に健康問題が生じた場合、ドイツは後継者の選出で頭を悩ますことになるだろう。

メルケル首相は過去、3度の総選挙で勝利し、今年11月で任期10年目を迎える。今月17日に61歳となったばかりだ。健康に問題がない限り、メルケル首相は次期総選挙にも出馬できるだろう。コール氏の戦後最長任期16年間を破ることだって夢ではない。しかし、明日、何が生じるか分からない世の中だ。メルケル首相の後継者問題も考えておかなければならないだろう。独大衆紙ビルドの誤報はその切っ掛けを提供した、という点で意味があったといえるだろう。

蛇足だが、メルケル首相はレストランの椅子が壊れて倒れたが、ドイツのメディア報道では「首相は2分間、立ち上がれなかった」と報じていた。それを聞いた友人が「2分間はかなり長い。その間、付き添い人やボディ―ガードは何をしていたのか」と首を傾げていた。誤報というものは、考えればボロが出てくるわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年7月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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