バロンズ誌:中国が北京冬期五輪にこだわった理由 --- 安田 佐和子

2015年08月03日 13:08

china11

バロンズ誌、今週の特集はウェルズ・ファーゴ・アドバイザーズのダニー・ルーディマン元最高経営責任者(CEO)の新たなミッションに光を当てます。ルーディマン氏は2013年秋、15年にわたって務めたCEO職の退任を発表すると同時に「自分の時間を100%使い、他人のために尽くしたい」と打ち明けました。まもなく、彼はたった5人から成る非営利団体(NPO)”プロジェクト・コープ”の一員となり、元服役者の社会復帰を支援する職に身を投じたのです。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、テーマはオリンピックです。とはいっても、2020年開催の東京五輪ではありませんよ。2022年の冬期五輪は、アフガニスタンの一騎打ちを経て北京に白羽の矢が当たりました。恐らく同国の関係者は「寒くなくても雪が降らなくても、問題なし!(No cold, no snow? No problem!)」と大風呂敷を広げたに違いありません。2008年8月8日という中国にとって縁起の良い日に開幕した北京夏期オリンピックの大成功こそ、国際オリンピック委員会(IOC)に信用を与えたのでしょう。環境汚染に一時的にフタをするというかたちだったのですが・・。同じことがBRICsの一角を成すブラジルでも、当てはまります。AP通信は、2016年開催のリオデジャネイロ五輪で水泳およびボート競技の参加者が水質汚染の影響に直面すると報じていました。

いずれにしても、北京五輪で建設した施設を活用できるほか雪不足も人口スノーで解決するはずで北京冬期五輪は実現可能と言える。その裏で中国株安は再燃の兆しを見せ、7月27日に上海総合が8.5%も急落し週足で10%安、月足では14%安と2009年8月以来で最大の下げ幅を記録していました。なぜ中国は株安という問題に対処する傍ら、冬期五輪開催にこだわったのでしょうか?

中国ウォッチャーとして知られ、中国株バブルに警告を発してきたJキャピタルのアン・スティーブンソン—ヤン氏は、顧客向けレポートでこう指摘します——「中国共産党の歴史的な記憶の奥深い所に植え付けられているのは、軍事的キャンペーンの構造である」。あらゆる資源をひとつの目的のために集結させ、北京五輪当時のように滞りなく遂行する。まさに「前例のない中国の勃興と、共産党の絶対的な優位性」を象徴する機会となり得るわけです。スティーブンソン—ヤン氏は、わずか2週間のため大気汚染の抑制を目指し工場閉鎖も厭わないだろうと付け加えます。

冬期五輪開催が景気対策として機能する点も、見逃せない。2008年の北京五輪当時も景気減速を乗り切る上で活用され、五輪成功は1949年に誕生した中華人民共和国の60周年を祝う2009年に恩恵をもたらし、2010年上海エクスポ、深セン・オリンピアードと続いてきました。そう、中国共産党はイベントで景気刺激を与え大衆をマヒさせるという戦略を繰り返していたのです。いわば中国当局は価格下落と不良債権ヘの答えは、計算する前に壮大なエンターテイメントで目くらましさせること。株価は一分一秒ごとに価格をチェックできますが、中国の金融市場でより重要性を持つ土地はそうもいきませんから。

歓喜に沸く市民達、チャイナ・レッドの装いで満面の笑み。
Performers cheer ahead of IOC's announcement of the winner city for the 2022 winter Olympics bid, outside the Birds' Nest, also known as the National Stadium, in Beijing
(出所:Reuters via CBS News

ジェローム・レヴィ・フォーキャスティング・センター率いるデビッド・A・レヴィ氏いわく、中国の株式市場は「バブル経済を構成する余剰のひとつに過ぎない」。その上、中国は「行き過ぎた輸出稼働率の拡張をはじめ、不動産市場、銀行債務、シャドー・バンキングの債務などに苛む状況」で、それぞれ金融市場の脅威となり得ます。北京冬期五輪が決定しようが遅かれ早かれ、深刻な縮小へ向かい厳しい調整段階に入る可能性が高い。事実、中国当局の努力も空しく中国の実質金利は世界経済でも最も高い水準にあります。リオリエント・フィナンシャル・マーケッツのマネージング・ディレクター、デビッド・P・ゴールドマン氏によると、中国当局は現状のドル・ペッグ制にこだわって引き締め寄りの政策を採用するより、ベン・バーナンキ前米連邦準備制度理事会(FRB)議長を見習ってどんどん金利を下げていくべきなのでしょう。ただロシア、インド、タイ、韓国のように金利を下げたからといって、望ましい効果がすぐに現れるとは限りませんが。

世界第2位の大国として、中国は伝統的な金融政策と株式市場への介入の他に「パンとサーカス」という手段に訴える時がやってきました。少なくとも、2008年当時より人民の目を楽しませるハードルは上がってしまっています。

アメリカに視点を移して。

米7月消費者信頼感指数は2011年8月以来の大幅低下を示し、共和党の米大統領選レースでは不動産王で数々の失言で知られるドナルド・トランプ候補がトップに立っています。一部ではトランプ候補が勝利した恐怖シナリオを先取りしたと指摘していましたが、見通し指数で落ち込みが目立ったように将来への漠然とした不安が立ち込めてきたのでしょう。米4-6月期雇用コスト指数まで0.2%の上昇にとどまり、1-3月期の0.7%から大幅に減速したのも懸念材料。ハンバーガーチェーンの最低賃金が15ドルに上がった半面、石油採掘リグ稼働数の減少に現れるようにエネルギー関連を中心とした高収入の職が減ってしまったことが一因とされます。石油産業の1人の年収は、バーテンダーあるいはバリスタ4-5人に相当しますから。

エバーコアISIが「ファースト・オーダー・エフェクト」と呼ぶ商品価格の下落効果としてアングロ・アメリカンは5300人を人員削減を決定し、シェブロンは1500人、ロイヤル・ダッチ・シェルは6500人のリストラを断行してきました。その次に来る「セカンド・オーダー・エフェクト」は、消費者に向かって押し寄せててくる。エバーコアISIは、そう予想しています。

肝心要は、Fedの金融政策。7月28-29日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、FF金利引き上げには労働市場が一段の改善ペースが「いく分(some)」強まれば良いとの解釈が加わりました。ただし米雇用コスト指数の低下を受け、マーケットは9月利上げ織り込み度を後退させ米2年債利回りも上げ幅を巻き戻したものです。次の注目は米7月雇用統計であり、モルガン・スタンレーは20万人増を予想。2015年上半期の平均値20.8万人に近い数字を掲げています。米7月雇用統計の前夜となる木曜には、共和党の米大統領候補がディベートを予定するとあってお茶の間を楽しませてくれるだけでなく、センチメントを押し上げたり・・しないかもしれませんね。

ストリートワイズは、強気相場が続く楽観的な理由を挙げています。ペルシア戦争でギリシャ軍は、少数精鋭のスパルタ軍の活躍もあって勝利の果実を手にしました。現在の米株相場も、数少ない強気派が弱気派を撃退しつつあります。

足元で、相場を押し上げているのはアマゾン、ウォルト・ディズニー、ギリアド・サイエンシズといった特定の銘柄という状況。上昇銘柄の乏しさこそ、弱気派の吠え声が響く理由のひとつです。しかしながら、強気派VS弱気派の勝負がついたとの認識は時期尚早。確かにS&P500を均等加重した場合、過去1ヵ月間の上昇率はわずか0.88%で本来の2.3%を大きく下回り一部の銘柄が指数をけん引していると判断され、弱気派に分があるように映ります。ただし、下落銘柄の広がりが必ずしも強気相場の終了にはつながりません。2014年9月4日から10月13日にかけ、S&P500は均等加重の上昇率を1.5%上回っていました。しかし、その後の3ヵ月にS&P500は8.5%も上昇していたものです。

シティグループのトビアス・レフコビッチ米国株担当主席ストラテジストは、7月15日までに米株ファンドから115億ドルの資金流出を確認したと指摘していました。実に2011年以来え最大を記録していましたが、ブル相場という恍惚状態でこうした流出は発生する傾向は低い。モルガン・スタンレーのアダム・パーカー米国株主席ストラテジストも、景気減速こそ強気相場を終了させるトリガーと説きます。現状、米4-6月期国内総生産(GDP)速報値が堅調だったように、米経済は巡航速度で拡大中。インフレが伸び悩みFedも利上げに急ぐ気配はみられず、ブル相場はまだ続くと期待を残します。

——アップ・アンド・ダウン・ウォールストリートが引き続き中国をめぐる慎重姿勢を掲げる半面、ストリートワイズは強気と通常運転でした。どちらの分析が正しいのか、利上げ開始の可能性を残す9月頃に明らかになるのでしょうか。

(カバー写真:Mashable


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年8月2日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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