素人考(2)磯崎補佐官の発言は正しいが人物は失格 --- 北村 隆司

2015年08月07日 18:48

磯崎補佐官の「安保法制と法的安定性は関係ない」と言う趣旨の発言は、残念ながら日本の現実である。

何故かと言えば、新憲法が発布された僅か3年後の1950年8月にGHQの超法規的措置(実質的なクーデター)により「警察予備隊」と言う違憲武装組織(私見)が設立され、その後の日本では憲法を改正もせずにこの組織を受け入れ、自衛隊と改名して今日では世界てもトップクラスの軍事組織に成長した。

(日本でも社会党党首の鈴木茂三郎氏が警察予備隊は憲法第九条に違反すると最高裁に訴えたが、最高裁は司法権を行使するには具体的な訴訟提起が必要だとして本訴訟の具体的案件である警察予備隊の違憲性には一切触れないで訴訟を却下した例はあるが、これは最高裁自らが日本国憲法第八十一条で定められらた最高裁の責務を放棄したものとも言える)

そして、この違憲組織(私見)を抱えたままの「安保法制」の維持には、自分の利害に直接関係の薄い原理・原則に無関心で、権力に従順な日本の国民性を利用して、情勢変化に応じて頻繁に憲法解釈を変更する他にはなかったのである。

海外で「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と言う日本国憲法の規定上、日本の自衛隊は軍隊ではないなどと説明しようものなら、日本人は大嘘付きか大馬鹿だと言われるのが落ちである。

何故こんな屁理屈が日本にだけ通ずるのか不思議だが、そこには、物事に慣れやすい「茹で蛙症」に侵された国民や「理屈は理屈、現実は現実」として理念は棚に上げて現状に従う、日本独特のご都合主義者が多数存在するからではなかろうか?

ご都合主義と言えば、日本社会党の村山内閣や民主党の鳩山,菅、野田各内閣も、自民党と変らない「安保法制」を維持して来た事も一言申し上げて置きたい。

磯崎発言で急に脚光を浴びた「法の安定性」だが、法の解釈を頻繁に変える事以上に「法の安定性」を脅かす事象に、憲法と法律との乖離や法律間の齟齬がある。

拙稿「日本の法制度には法的安定性など存在しない」でも指摘した通り、日本の法制度は自家撞着に満ちており、「大人とは一体何を意味するのか?」と言う簡単な事すらよく判らない。

例えば、選挙権年齢を20歳から18歳以上に引き下げる改正公職選挙法をやっと可決成立させた日本だが、民法の成人年齢等は当面改正を見送るという。

と言う事は、今回の改正で新たに選挙権を得た約240万人の「新成人」は、民法上は未成年者(子供)として扱われ、手術一つ受けるにも親権者の同意が必要なダブルスタンダードがまかり通る事になる。

このダブルスタンダードは当然憲法に違反する。

民法を含む関連諸法の改正を今回も見送った理由の説明はないが、過去の例から類推すると、各省、各局の都合で法律を作る習慣のある日本では、広い範囲に影響を及ぼす法律が改正されると、膨大な量の法律を変えないと法律間の矛盾が表面化するからであろう。

現に、2002年に衆議院に提出された1. 成年年齢を18歳に引き下げる。2. 18歳選挙権を実現する。3. 少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げる、の三点を盛り込んだ「成年年齢の引下げ等に関する法律案」は、この法案が成立すると法律191本、政令40本、府令・省令77本の合計308本の改正が必要になると言う役人側の抵抗にあって成立しなかった経緯がある。

日本では、民法第4条は「年齢二十歳をもって、成年とする。」と規定し、20歳以上の者を成年者として単独で法律行為が行える事になっているが、「未成年者でも男性は18歳以上、女性は16歳以上であれば父母の同意があれば婚姻は可能」だと言う民法上の規定もあり、これが「すべて国民は法の下に平等」だと男女差別を禁止した憲法第十四条や「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立する」と言う憲法第二十四条に違反する事は論議の余地もない。

更に、「20歳未満であっても婚姻していれば成年者とみなされる」と言う民法上の規定も憲法第十四条に違反している。

民法がこれだけ多く違憲項目を持っている理由の一つは、明治35年(1902年)に制定されて以来改定されていない事でも判る通り、時代的にも陳腐化した事と、帝国憲法と民主憲法の法思想や価値観の違いをそのままにした為に、文字通り木に竹を接ぐ法制度になっている事であろう。

又、日本の戸籍法では「戸籍は夫婦と未婚の子」で作られると規定しているので、20歳未満で結婚した場合でも戸籍は独立する事になるが、離婚には親権者の同意が必要(これも違憲)になる。

こうして見て来ると、新有権者は投票権は得たものの、結婚、離婚、妊娠、出産、手術などには親権者の承認が必要で、遺言の証人又は立会人となることや喫煙、飲酒等は勿論、酒・煙草を購入する事も禁止されている。

その一方、毒物及び劇物取締法 毒物劇物取扱責任者、火薬類取締法 火薬類製造保安責任者、火薬類取扱保安責任者の資格を先頭に可也の経験が必要と思われる職業でも、納税に役立ちそうな就労資格の殆んどは成人同様に取得できるなど、同じ人物が行政側の恣意判断で時と場合により「子供扱い」されたり大人になったりするのが日本の法制度の特長である。

このような法律のあり方は、憲法との整合性に欠け、法やその解釈が不規則に変化する事で国民生活にさまざまな不都合を生じ「法の安定性」を阻害する元凶になっている。

本稿で、日本の法制度は安保法制に限らずすべからく「法の安定性」とは関係ない事を指摘して、結果として磯崎発言を擁護する形になったが、参院平和安全法制特別委員会に参考人として招致された礒崎補佐官は「総理補佐官としてこのような発言をしたことは極めて不適切だった」と前言を翻して平謝りに終始し、政治家としての主張を放り投げても地位に固執する醜い姿は、首相に助言する資質に欠ける人物で、このような人物に助言を仰ぐ安倍首相には不安を抱かざるを得ない。

2015年8月6日
北村 隆司

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