朴大統領は「謝罪」外交から卒業を --- 長谷川 良

2015年08月26日 11:52

こんなこと言って申し訳ないが、朴槿恵大統領は相手側によく謝罪を要求する指導者だ。日本に対しては、大統領に就任して以来、任期の半分、2年半余り、過去の歴史問題、特に戦時中の従軍慰安婦や強制労働に対して日本に執拗に謝罪を要求してきた。その大統領は24日、大統領府での会議で、韓国軍兵士2人が負傷した地雷問題や今月20日の北側の砲撃事件について、「北側が謝罪しない限り、わが国は対北政治宣伝放送を止める考えはない」と主張し、強硬姿勢を示した。

幸い、板門店で開催されてきた南北高官会議は25日未明(現地時間)、北側が地雷問題について異例の「遺憾表明」(謝罪表明とは違う)したことを受け、韓国側も北が要求してきた対北宣伝放送の中止を受け入れ、南北間の軍事衝突といった悪夢は一応回避できた。その意味で、今回は朴大統領の不動の謝罪要求が功を奏したようにみえる。韓国メディアでは「大統領の原則外交の勝利」と評価する声が聞かれる。

しかし、実際のところは、北側は同大統領の頑固な「謝罪要求」を巧みに利用し、謝罪要求を土壇場まで拒否し、韓国側の打つ手がなくなったのを見計らって、謝罪要求への代価を釣り上げ、それが受け入れられるとあっさりと遺憾を表明した、というのが真相ではないか。

韓国メディアの報道によると、北側が今回勝ち取ったことは、第一に対北宣伝放送の中止だが、南北間の離散家庭再会事業、金剛山観光事業の再開を含む民間交流の活性化で韓国側と合意できたことだろう。一方、韓国側は北側から念願の遺憾表明を受け取ったことが最大の成果だ。もちろん、離散家庭の再会への合意は南側にとっても朗報だ。
そこで南北高官会合の損得勘定をみると、国際社会から孤立している北側は外貨獲得のために韓国を交渉テーブルに引き戻すことに成功し、対外的には準戦争宣言を表明し、緊迫化させてきた南北間の軍事衝突を回避する譲歩を見せ、中国側の紛争回避要請を受け入れたことにもなり、北京側への関係改善へのシグナルともなる。その意味で、北側は韓国より多くの成果を得たといえるだろう。

もちろん、北側の異例な遺憾表明について、韓国国防省側が高官会議が開催されている時、記者会見を招集し、「韓米は現在の韓半島危機状況を持続的に注目し米軍の戦略資産(先端戦略兵器)の韓半島投入時点を弾力的に検討している」(中央日報日本語電子版)と表明し、事態の進展如何では米軍が関与する可能性を強調したことが北側の考えを変えたという説も聞かれる。中央日報日本語電子版25日は、「核ミサイル32発搭載のB-52の投入への北側のトラウマ」といったタイトルで、北側の米軍先端武器への恐れが今回の北側の激変をもたらした」と言った解説記事を掲載している。しかし、紛争がエスカレートすれば、米軍が出てくることは北側も事前に計算できることだ。「北のB-52へのトラウム説」は少々深読みではないか。

先述した朴大統領の謝罪要求外交について、当方の考えをまとめたい。朴大統領の日本への謝罪要求と今回の北側へのそれとは相手もその内容も異なっているから、両者をごちゃごちゃにして論じることはできない。それは分かっているが、何か事が生じれば直ぐに相手に謝罪を求める朴大統領の政治姿勢で問題の解決は可能だろうか、といった思いを持ち続けてきた。

謝罪を要求する前提は、自分は正しく、相手は間違いだという認識がある。だから、執拗に要求する。日本に対しては、我が国は犠牲国だという認識だ。北朝鮮に対しては、南北間の今回の衝突は北が始めた、という確信があったからだ。
今回は成功した感じだが、板門店の南北高官会議で韓国側が朴大統領の指示に沿って北側に謝罪を求め続けた場合、まとまる話し合いも壊れてしまう危険性があった。交渉担当の韓国高官が取れる外交手段は非常に狭まれていた。それを“救った”のが北側の異例の遺憾表明だったのだ。

韓国も北も互いに譲歩をしなければ、会合は徹夜を繰り返したとしても、解決できないことを熟知していたはずだ。同時に、南北両国は戦争を回避し、和解を願っているからこそ、協議を続けたわけだ。その点で南北間は緊迫していたが、その立場は最初から似ていたのだ。

紛争の原因を明確にし、責任側に謝罪を要求することは大切だが、それ以上に、相手側の狙いを探り、その狙いに振り回されることなく、冷静に話し合うことだろう。今回の南北高官会議が北の提案で始まったという事実は、北が紛争の拡大を願っていないことを示唆していたのだ。

一国の指導者となれば、相手が悪いと分かっていても謝罪を要求せず、相手の意図を見抜き、妥協を模索する冷静さが大切だ。相手が悪いから批判し、謝罪を求める、といった対応では腕白坊主の喧嘩レベルを超えない。
今回は北側の遺憾表明で救われたが、謝罪要求一辺倒の外交は逆に相手に利用され、次の一手を読まれてしまう危険性がある。今回の北側の遺憾表明はその好例ではなかったか。任期後半に入る。朴大統領は謝罪要求外交からそろそろ卒業すべきだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年8月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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