バロンズ誌:世界同時株安で米債が急伸しなかった理由 --- 安田 佐和子

2015年08月31日 12:45

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バロンズ誌、今週号は乱高下した米株がテーマです。ダウをはじめ3指数が一時調整入りしたおかげで、ブルーチップはお求めやすくなりました。そのうちGEをはじめJPモルガン、メルク、ブラックロックなど配当に手厚い銘柄を推奨しています。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、テーマは米債市場と中国動向。ガーシュイン作「サマータイム」にあるように、夏場は生活するのも楽ではない。米株相場は台風が直撃したかのように大荒れし、ダウは上海総合が8.5%も急落したおかげで24日に一時1000ドル以上も暴落。夏期休暇を満喫していた投資家に衝撃を与えつつ、中国人民銀行が25日に利下げ・預金準備率の引き下げという合わせ技を駆使すると、米株は底打ちし6日続落した分の半値以上を取り戻す乱高下に至った。

荒波を被ったのは、債券ファンドも同じだ。リスク・オフ相場の煽りを受け米ドル以外のドル(加ドル、豪ドル、NZドルなど)をはじめとした資源通貨が、商品先物と歩調を合わせ下落。中国景気ヘの不安もあって、資源通貨へのエクスポージャーが大きいダン・ファス副会長率いるルーミス・セイレスのファンドがダメージを受けた。債券王とした名高いビル・グロス氏率いるジャナス・アンコンストレインド・ボンド・ファンド(JUCAX)も、3%の下落を余儀なくされている。グロス氏のファンドは債券をはじめ株式、通貨といった資産のボラティリティを売るオプションを採用しており、グロス氏は予測できない事態への保険としてプレミアムが損失を補填する仕組みを取っていた。しかしながらアジア発のハリケーンにより、オプションのプレミアムはボラティリティ上昇にともなって急伸、こうしたオプションの売り手にも影響が及んだという。

おかげで27日までの年初来で、グロス氏が率いるジャナスのファンドにおけるトータル・リターンは、2.4%のマイナス。ファス氏が手掛けるルーミス・セイレスのファンドは、4.95%のマイナスに至る。ところが、米10年債はほぼ変わらず。クーポンは1.3%を少し上回る水準だ。逆に言えば、米債はリスク・オフ相場で大幅な値上がりを遂げられなかったことになる。米10年債利回りは、2%をわずかに下回る程度だった。ビアンコ・リサーチが指摘するように、中国が人民元を切り下げた後、米株と米債はかい離しつつある。今回の米株急落でも「質への逃避」が限定的だったように。

米債動向にちらつく影こそ、中国当局。同国は3.5兆ドル(約430兆円)もの外貨準備を活用し、米債売却に着手している。中国の米債放出は、中国と米国の信用動向に大きな影響を与えかねない。バロンズ誌恒例の市場見通しで重鎮として名を連ねるフェリックス・ズラウフ氏は、中国が資本流出を回避する狙いで通貨防衛戦争の開始を余儀なくされたと指摘する。決して容認できないだろうが、中国当局は主要貿易国が対ドルで下落するなかでドル・ペッグを撤廃する必要があるとも述べていた。また、中国人民銀行は国内経済を支援するため一段の利下げが必要とも主張。ただし、ドル・ペッグ制を採用し続ける以上、困難だろう。

中国が人民元の切り下げを一度きり(3日連続だったとはいえ)と説明する一方、中国株安の再燃に大わらわの状況だ。当局は株価押し上げ策として内部からの売却を一時停止させ、金融関係のジャーナリストは株安を強調するような報道を避けるよう呼びかけられている。

人民元の下落と株安を回避を阻止するには、中国はその他資産を流動化させるしかない。矛先は、米国債に向かうことだろう。米連邦準備制度理事会(FRB)のデータにも、その兆候は現れている。例えば海外当局による米債・米機関債の保有高動向を示す「カストディ・ホールディングス」では、26日までの週に150億ドルの取り崩しを確認した。

米10年債利回り、2%割れは一時的で米株買い戻しにつれ上昇に反転。
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(出所:Stockcharts)

兆単位におよぶ米債市場では、微々たるものかもしれない。それでもルーミス・セイレスのファス氏は、売却の衝撃は小さくないと語る。投資家のポートフォリオで眠っていたも同然だった高いクーポン付き既発債は、余程の値引きがない限り市場で売りに出されても買い取られなかった。こうした既発債は売買を繰り返すトレーダーより、年金などリアルマネー系投資家が溜め込む状況。額面1000万ドルの高クーポン債は現状の低イールド環境に照らし合わせれば1300万ドルで買い取らねばならず、債券ディーラーが手を出したがらない。投資適格級の社債にも、影響を及ぼしうる。BBB格級/A格級の社債で見通しが「ポジティブ」で価格が136、あるいは額面を36%上回る場合、指値が132では為替市場の環境に従わない限り、到底受け入れ難い。

マクロメイブンズのステファニー・ポンボイ氏は以前から、海外勢による米国債売却に警鐘を鳴らして来た。「Bull#h$t in a China Shop」と題したレポートで、ポンボイ氏は米当局だけでなく海外当局が米国債を取得しない環境で「Fedは穴埋めとして量的緩和第4弾(QE4)を余儀なくされる」と予想。特に原油安で値下がりが加速したジャンク債や信用市場に依存した米成長動向を踏まえれば、なおさらだという。

一方でFedは、年内の利上げを目指す。ダドリーNY連銀総裁は、中国の利下げが市場の反転を誘うなかで9月利上げが「説得力に欠ける」と発言。フィッシャー米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、ジャクソン・ホール会合での講演を29日に控え9月16-17日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での政策決定を巡り決断するのは「時期尚早」と言及するにとどめた。9月4日の米8月雇用統計では非農業部門就労者数(NFP)が20万人と予想される一方、太平洋を挟んだ2国の中央銀行動向は世界経済並びに市場の命運を握る。

ストリートワイズは、ウォールストリートきっての強気米株ストラテジストに注目。フランシス・ベーコンの名言「逆境の美徳は不撓不屈」は、乱高下する市場を前にした投資家に安心感を与えたのではないか。確かにS&P500は9日間で5.4%落ち込んだ。しかしモルガン・スタンレーのアダム・パーカー米株主席ストラテジストやカンバーランド・アドバイザーズのデビッド・コトク最高投資責任者(CIO)は、市場の急落を経てもS&P500が2020年末までに3000pに到達すると見込む。

コトク氏いわく、米4-6月期国内総生産(GDP)が示すように経済が安定的なためだ。パーカー氏は、ブル相場の終焉には「行き過ぎた行為」が必要と説く。過剰な設備投資、過剰な雇用、過剰な合併・買収(M&A)などが相当するところ、現時点で各企業の最高経営責任者(CEO)は及び腰になっている指摘。特に直近の乱高下を踏まえればなおさらで、「2020年までこうした慎重なサイクルは続く」と予想する。中国やFedの利上げなど、問題は山積みだ。しかしながら3000pへの夢を諦めるのは、まだ早いのかもしれない。

(カバー写真:Reuters via South China Morning Post


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年8月30日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。


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