文明社会の将来にたれ込める暗雲

今日は少し暗い話題になるが、ご勘弁頂きたい。現時点で、この世界は色々な「危機的な問題」に満ち満ちているが、それらの一つ一つが、如何に現実的であり、且つ深刻なものであるかを示すのが、今回の記事の目的だからだ。

しかし、気の遠くなる程の多くの「危機的な問題」があるからといって、決して悲観的になる必要はない。そもそも「問題」は「解決」する為にあるのだから、問題が多いからといって怯んでいるようではどうにもならない。問題が10個あるのならその10個の問題を解決すれば良いのだし、100個あるのならその100個を解決すれば良いだけのことだ。

しかし、ここで重要なのは、数多い「危機的な問題」の何一つも我々は見落としてはならないという事だ。一つの問題に対して最適解を出したと思っていても、別の問題を見落としていると、その解がこの別の問題を更に悪化させる方向に作用してしまう事が多々あるからだ。また、問題の解決を考える時には、あまり完璧を期さない方が良いというのも事実かもしれない。徹底的な施策は、しばしば思わぬ副作用をもたらす事があるからだ。

そもそも、何故「問題」は起こるのか? 「問題」には、自然が引き起こすものと、人が引き起こすものがあるが、自然が引き起こすものも、その遠因は人間が作っていることもある。例えば、将来温暖化による気象異常や海面上昇が起こるとすれば、それは、現時点で人間が無反省にやっている事が引き起こしたことになる。

人間が引き起こす事も、誰かが明確な意思を持ってやる場合と、偶発的にそういうことが起こってしまったという場合がある。明確な意思による場合も、多くの人間が持っている「貪欲さ」とか「残忍さ」とかが引き起こすもの、「正義感」が引き起こすもの、「信仰心」が引き起こすもの、「復讐心」が引き起こすものと、色々ある(最後の「復讐心」によるものが最も面倒だ。復讐はそれに対する復讐を呼んで何時までも連鎖していき、しかもどんどんエスカレートしていくからだ)。

さて、非常に不完全なものとはいえ、人類がせっかくこれまで営々として築き上げてきた「文明社会」を一挙に崩壊させる可能性を秘めているのは、言うまでもなく戦争だ。「どうすれば戦争がなくせるか」と題した2週間前の私のアゴラの記事でも述べたように、これには種々様々な原因があり得る。その原因を一つ一つ潰していくのは気の遠くなるような大変な仕事ではあるが、忍耐強くそれをやっていくしかない。

かつては米ソの二大陣営が、それぞれに核弾頭を装着した大量のミサイルを、発射準備が完了した基地で待機させており、最高指導者の意思一つで、いつでもお互いに相手国に打ち込める体制にあったのだから、人類は文字通り滅亡の瀬戸際にあったと言ってもよい。ソ連の崩壊によってこの危機は辛うじて一旦は遠のいたが、その体制自体は温存されているのだから、いつまた復活しないとも限らない。

共に「国内の経済的不満を抑える為に、国民に人気を博しそうな対外的な拡大主義を利用しよう」とする傾向のある中国とロシアが、東西冷戦の昔を思わせる蜜月を演出し、中国の習近平主席は、何を思ってか、「抗日戦争勝利70周年記念」という名目で、この時期に自国の軍事力を誇示する一大パレードを行った。

こういう事が起こっている現時点では、世界中の誰もが神経をすり減らして、偶発戦争の可能性を徹底的に潰していかなければならない状況だ。他人事ではない。偶発戦争の危険性は、一にウクライナ、二に尖閣諸島といってもよいからである。

しかし、今日私がここで強調したいのは、戦争をも上回るかのしれない「テロ」の恐ろしさだ。テロが「銃の乱射」や「爆発物の利用」にとどまっている間はまだ良いが、テロリストが小さくて安価な「生物兵器」や「化学兵器」の類を手に入れた場合を考えてみると寒気がする。

仮に遺伝子組み換え技術の開発などに従事している研究者に精神異常者がいて、彼が人工的に凶悪なウィルスを秘かに作り出し、これがテロリスト集団の手に渡ったとしようか。このテロリスト集団がこのウィルスを世界の数カ所にばら撒けば、世界中が数日中にパンデミック状態に陥るかもしれない。これはテロリスト集団が小型核爆弾を盗み出してどこかで爆発させる以上に危険だし、摘発がはるかに難しい。

化学兵器も馬鹿にならない。かつて「オウム真理教」というカルト集団が、ロシアから流出した技術を利用して猛毒のサリンガスを作り出したが、あのような幼稚な集団でさえ出来た事なら、恐らく現在の多くのテロリスト集団にも可能であろう(もしも特殊任務を持った北朝鮮の工作員グループが日本にいるなら、彼等にとっては比較的容易な事だろう)。

幸いにして、オウム真理教は液状のサリンをビニールの袋に入れ、地下鉄の中で雨傘で穴を開けるというような稚拙な事をしてくれたので、被害は最小限にとどまったが、もし彼等がこれを数千個の小さなガラス瓶にいれ、この蓋の部分に時限装置付きの小さな爆薬を仕込んで、通勤ピーク時の朝の8時半とか夕方の6時頃に一斉に爆発するようにセットした上、鉄道の駅などの人混みの多いところを選び、十数人が手分けしてそれぞれ数百ケ所程度に置いて回っていたら、一体どういう大惨事になっていただろうか? 恐らく日本の大都市で数十万人が一度に殺され、これらの大都市全体がパニックに陥り、救助活動も儘ならぬ状況になっていただろう。

このように、テロがもたらす惨事の規模は、将来は歯止めが効かなくなりそうだ。そうなると、どうしてもテロを引き起こしそうな過激派集団の芽を、小さいうちに摘み取っていく必要がある。しかし、その為には、何がこのようなテロ集団を生み出すのかを理解しておく必要がある。

テロは、宗教的或いは民族的に、差別或いは迫害を受けていると思っている人々の集団が、「合法的、民主主義的なやり方では自分たちの言い分は聞き入れてもらえない」と考えた時に生まれてくる。そして、多くの場合、その背景には貧困がある。だから、これを何とかしなければならない。

先ずは、「一つの政府の下に激しく対立する宗教や民族が混在するのを避ける」「政府による少数派に対するあからさまな差別を禁じる」等々の施策が、国連などによって講じられ、国家主権を犯すのも覚悟する程の決意を持って、強制力を持って遂行されるべきだが、勿論、それは気の遠くなる程難しいことだ。

しかし、現在の中近東と欧州はもはや一刻の猶予も許されないような状況にある。ISISの暴挙は、おびただしい数のシリア難民を生み出し、彼らはトルコ経由で欧州に押し寄せている。既に域内に入ってしまった難民を欧州諸国は人道的な見地から見殺しにするわけにはいかず、各国は自国に割り当てられた数の難民を渋々でも受け入れざるを得なくなるだろう。ところが、こうなると、噂は広まり、現時点ではさして追い詰められていない人たちまでが、欧州めがけて押しかけるかもしれない。

しかし、私は、仮に今回欧州各国において、相当思い切った人道主義的な措置が取られたとしても、この問題は長期的により大きな問題を引き起こす事になりかねないと危惧している。

現時点でEU諸国の出生率は平均して1.38人と言われているが、イスラム教徒の出生率はこれよりはるかに高く、今から10年もすれば、オランダやベルギーでは、イスラム教徒の数の方がキリスト教徒の数より多くなるのではないかと言われている(フランスやドイツでも2050年ぐらいにはそうなるらしい)。これは欧州人にとっては由々しき事態と言わざるを得ない。これまでの「移民」と今回の「難民」は勿論全く異なった次元の問題だが、もたらす結果に共通点があるのは間違いない。

米国でも似たような事は起こっている。黒人やヒスパニックの出生率は白人より総じて高いので、彼等の占める人口比率は徐々に拡大し、やがては政治的な一大勢力となって行くだろう。しかし、米国は元々が多民族国家であること、黒人やヒスパニックの殆どはキリスト教徒であること、米国を代表するIT産業や金融分野を支配する一握りのビジネスマンや技術者は、元々自国内での立地にこだわっていないこと、等々から、問題は欧州のように深刻ではないように思える。

さて、それでは、これからの欧州では何が起こるだろうか? ちょっと考えてみただけでも下記のような事が想定される。

1)難民を生み出す国に対して介入を強め、それらの国の一部を支配して、そこに「難民キャンプ」をつくり、出国も規制する。
2)移民の流入規制を徹底し、これまでは甘く見ていた親族の移住を不許可とし、「親族と一緒に住みたければ故郷に帰ってください」と突き放す。
3)ゴミの収集や清掃のような3Kの仕事にはロボットを大規模に導入し、このような分野での労働者不足を補う為の移民政策を抜本的に見直す。
4)異民族や異教徒を排斥する極右政党が力を増す一方で、感激な極右集団による残虐な白色テロが頻発する。

上記の1)については、欧米とロシアの亀裂が深まっている現状では、戦争につながりかねない「新たな国際的緊張状況」を生み出すから、簡単には踏み切れないだろうと私は思う。2)と3)が起こるのは時間の問題だと思うが、3)については、自国民の底辺層を失業が直撃するので、相当の社会的緊張を生み出すだろう。

4)は、最もあってならない恐怖のシナリオだが、これを抑える為には相当の決意が必要だ。最悪時は、東欧やバルカン諸国を中心にナチズムのような考えも生れてこないとは言えないので、何としてもその芽を摘み取っていかねばならないが、その為には、諸悪の根源である「貧困」と「格差」を打破する「産業・経済政策」が何よりも必要だ。しかし、果たしてそのような起死回生の策は見つかるだろうか?

勿論、問題はこれだけにとどまらない。「人口爆発」と「未成熟な政治」の問題を世界規模でみれば、「アフリカ諸国」の問題が今後の大きな懸念材料になっていくだろう。しかし、この問題を論じだすと更に大量の紙数が必要になるので、これについては次回稿を改めて論じる事にさせて頂きたい。