バロンズ誌:9月利上げを見送るべき理由 --- 安田 佐和子

2015年09月14日 13:20

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バロンズ誌、今週の特集はアリババです。2014年9月19日に史上最大の新規株式公開(IPO)という華々しいスタートを切り、上場たったの2ヵ月間で75%も急騰したのは記憶に新しい。ところが、足元では中国景気の減速懸念から一気に巻き戻しが入り、IPO価格の68ドルを割り込む状況。バロンズ誌は、50%の下落余地をみています。詳細は、本誌をご覧下さい。ちなみに、アップルに対しては新機種を低価格で毎年買い替えられる新プランの導入を好感し50%の上昇を予想しています。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、テーマはもちろん16-17日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)。2006年以来、約10年ぶりの利上げに着手するかどうか世界中が熱い視線を寄せているのは、周知の通りだろう。現状、2008年12月に突入したゼロ近辺金利政策から正常化を図るか否かは判断が極めて難しい。イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長をはじめFOMC参加者は、アメリカ国立衛生所(NIH)に相談するのも手だろう。11日、NIHは心臓の収縮期血圧の上限を120mmHgとし、従来の140mmHgから引き下げるよう求めた。上限の修正により、心臓発作を約30%減少させるという。

毎日ストレスにさらされる現代社会で血圧(bp)を抑制することは、非常に難しい。Fedがbp(ベーシスポイント)を引き下げれば投資家の血圧(bp)は落ち着くかもしれないが、そんなことは起こるはずもなく。どのような決断が下されようとも不透明感がくすぶることを踏まえれば、利上げ派・見送り派の見解が的を得ているのは驚きではない。

ルネッサンス・マクロ・リサーチのエコノミスト、ニール・ダッタ氏は、8月に失業率が5.1%とFedが目する最大限の雇用に達したと判断する。所得の改善を追い風に米8月新車販売台数や住宅指標は力強く、財政政策はもはや成長下押し要因ではない。利上げ先送りは、将来の引き締め幅拡大を意味する——そう結論づける。

筆者が支持する見送り派は、海外動向と金融市場を問題視する。ラリー・サマーズ元米財務長官のほか、経済金融TV局CNBCの政治担当であるラリー・カドロー氏もその一人だ。国際通貨基金(IMF)や世界銀行も、Fedに利上げ先送りを求めている。さらに任期切れを控えたグリーンスパンFRB議長(当時)の功績を賛美する声で溢れ返るなか、2006年のジャクソン・ホールにて債務危機に警告を発した現インド準備銀行(RBI)のラグラム・ラジャン総裁も、見送り派についた。

2013年の今頃、FRB議長指名を辞退しました。
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(出所:IMF

MKMパートナーズのマイケル・ダーダ米主席エコノミスト・マーケットストラテジストも、世界恐慌後にあたる1937年の失敗を立ち返り据え置きを見込む。過去最高の求人数を叩き出した米7月雇用動態調査をはじめ労働指標は順調そのものながら、ダーダ氏は資本市場でインフレの芽吹きはを確認できず信用スプレッドも拡大中と指摘。1994年、1999年、2004年の利上げサイクルでは見受けられなかったと説く。

シティグループのウィレム・ブイタ—主席エコノミストは、中国を発火点として世界的なリセッションに陥るリスクに警鐘を鳴らした。シティのエクスポージャーが米国中心である事情を踏まえれば、深刻な熟考を経たものと考えられる。同氏率いる経済調査チームは2016年半ばまでに世界経済が断続的に鈍化し2%あるいはそれ以下となるシナリオを有力視しており、40%の確率を見込んでいた。2番目に有力視するシナリオは、30%の確率で世界経済がリセッションを回避するというもの。しかしながら大幅なリセッションに沈むリスクを15%と弾き出し、緩やかな景気後退の可能性を55%と算出していた。残りの15%は、景気拡大の確率を当てはめている。

このようなシナリオが導かれているのであれば、なぜ利上げを急ぐ必要があるのか。特にマーケットがFedの仕事を済ませた後なら、なおさらだ。ゴールドマン・サックスのスベン・ジャリ・スターン氏がまとめたレポートによると、足元の金融市場が3回分の利上げに相当する引き締め効果を与えており、GSは据え置き派に属する。

一部では利上げを開始して長きにわたるゼロ近辺金利政策を終了させ、透明化を測るべきとの議論もあるだろう。しかし時期尚早な利上げのリスクが横たわるなかで、据え置きを継続しマーケットに考える時間を与えるのは悪い手ではない。

ルイーズ・ヤマダ・テクニカル・リサーチ・アドバイザーズのルイーズ・ヤマダ代表は、米株市場のテクニカルが悪化したと主張する。まだ相場の底に至っておらず、押し目買いのタイミングではないと判断しているためだ。ルートールド・グループのダグ・ラムジー最高投資責任者(CIO)も、顧客に向け「循環的な弱気相場がやって来る」と警鐘を鳴らす。弱気相場の典型として、足元ディフェンシブ銘柄である公益にも売り圧力が掛かる状況。裁量消費財や金融セクターはエマージング市場の悪化を踏まえれば予想外に持ち堪える半面、ラムジー氏は「どのセクターも、押し目買いの機は熟していない」と分析する。

季節の上でハリケーン・シーズンの真っ最中であるように、金融市場も波乱の月を迎えている。リーマン・ショックは2008年9月15日に、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の破綻は1998年9月に、1929年と1987年の衝撃は10月に直撃したとはいえ9月から異変をきたしていた。信用市場は高利回り債を中心にスプレッドが拡大しており、エネルギー関連企業の領域を超えてしまっている。FOMCがどのような決断を下そうが市場の乱気流が予想されるだけに、投資家には血圧降下剤が必要になるだろう。

ストリートワイズは、強気路線を維持。米株安のおかげで、バリュー株が一段とお得になったと論じている。S&P500が底打ちした8月25日からみると、ラッセル1000グロース指数はラッセル1000バリュー指数より戻りが大きい。バリュー指数が次に輝きを増すこと必至だ。経済が力強さを保ち労働市場が改善し続け、住宅市場が順調で原油安とくればバリュー株に上昇余地が見込める。また、調整局面では割安な株に投資しがちだ。ゴールドマン・サックスのデビッド・コスティン米株主席ストラテジストは、足元の米株安を受け「成長が安定的な場合に株式市場が調整すれば、バリュー株がアウトパフォームする傾向が高い」と指摘する。今回もパターンが繰り返されるなら、近い内にバリュー株の上昇に配慮すべきだろう。

(カバー写真:Stefan Fussan/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年9月13日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。


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