総選挙を控えるギリシャと難民問題

ひと頃はお昼のワイドショーでもギリシャ問題を取り上げ、チプラス首相の名前は知らなくても顔は知っているという人も多かったのではないでしょうか?そのギリシャ、EU,IMF,ECB(トロイカ)との紆余曲折の交渉では「チプラス劇場」の主演を見事に演じきりました。トロイカのみならず、ギリシャ国民にも納得しにくいチプラス風演技力で形の上では難局を乗り越え、欧州から引き続き金融支援を維持してもらうことで一息つきました。

しかし、私から見るとチプラス首相の取った技は細い一本の糸で繋がった連立与党政権を維持し、チプラス首相が力を発揮できる形を維持することにこだわっただけではないかと思います。その結果、金融支援の維持は形としては良かったのですが、トロイカも国民も疲弊しきっていました。私はしかるべき時期にチプラス氏は総選挙に打って出る、と述べていたのですが予想通り、解散し、その選挙が9月20日に迫っているわけです。

現在の傾向だけ見るとチプラス氏率いる急進左派連合の支持率は7月の31%から9月5日には24.4%まで低落、一方、最大野党で中道右派の新民主主義党は24%まで支持率を上げ、正に拮抗という状態になっています。この状態ならこれから先、多少の動きがあったとしても単独与党政権は樹立できず、第一党は再び連立を組むことのなるのですが、新民主主義党が挙国一致の急進左派連合との連立を訴えたのに対してチプラス首相は「いやだ」と蹴っています。

選挙の焦点は今や金融支援の際のチプラス首相の国民への裏切りに対する不信任であります。仮にチプラス氏が首相に返り咲けなくても金融支援そのもののプログラムがひっくり返ったり、悪影響を及ぼすことはないとみています。むしろ、最近急速に話題になっている欧州の難民問題でもミソをつけているチプラス首相がより不利になっているという感じがいたします。

欧州を巡る問題は難民問題に目線が移ってきていますが、大挙して押し寄せる難民に欧州各国の足並みはそろっていません。特に旧東欧諸国では難民受け入れに相当の抵抗を示しており、会議でも一致した妥結点を見いだせていません。

その難民が通過点として多く押し寄せるのはギリシャ、ハンガリーでありますが、ハンガリー、オーストリア、ドイツはその管理を厳しくしているのに対してギリシャはまだ脇が甘い状態です。難民はギリシャを目的地とはしていませんが、EUのリーダー国の受け入れ枠がいっぱいになってきている以上、あふれた難民が滞留しやすいのはギリシャをはじめとするエントリーポイントの国になってしまいます。結果として一時的にせよ、そこに滞留することになれば国家としてのコストのみならず、セキュリティ上の懸念が出てくることになります。

特に一部報道ではIS隊員が難民に交じって欧州に入り込んでおり、その数は既に数千人とも言われています。それを許したとすればギリシャは安全保障の問題で再び、矢面に立たされてしまうリスクがあるのです。

もう一点、国連の能力が取りざたされています。国連総長の潘基文氏の無能ぶりが海外メディアで指摘されているようですが、氏の手腕は歴代国連総長で最低ランクとも言われています。先日も反対を押し切って中国のパレードを見に行っていました。その氏の任期は16年末で新たに選任される総長は噂では東欧出身の女性にしたいという下地が生まれてきています。

仮に東欧から総長が生まれるともともと難民を受け入れたくない東欧の意向がより出やすくなることは頭に入れておいた方がよさそうです。つまり、溢れる難民に手だてが少ない上に国家安全上の問題が大きくなるということです。

とすれば、ギリシャはトルコと同様、欧州と中東を結ぶ重要拠点になる可能性があります。その際、トルコが経験しているように国内問題の処理に大きなエネルギーを注がなくてはいけないことになり得ます。そうなれば経済の回復どころではなくなります。ギリシャの新政権が直ちに行わなくてはいけないのはまずは押し寄せる難民に対して厳しい入国管理をすることであります。正に降ってわいたような新たなる問題でありますが、これを放置すれば国内経済の回復はまずもって計画通りに進まなくなります。

ただ難民問題そのものは別次元で国連が主導して考えるべきです。欧州内部で吸収できるようなレベルではありません。

チプラス氏としては解散総選挙に打って出てチプラス劇場 Season 2につなげるべくパフォーマンスだったのですが、予期せぬ難民問題で主役の座を引きずりおろされてしまうのか、日曜日の夜には判明することになります。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 9月17日付より