憲法違反の「戦争法案」の可決成立を前にして

二ヶ月前の27日、参院本会議で審議入りした「今国会最大の焦点である安全保障関連法案を巡り、(中略)与党は参院平和安全法制特別委員会で締めくくり総括質疑をした後、採決する構え。17日の参院本会議で成立を目指す(中略)。民主、維新、共産、社民、生活の野党5党の党首らは16日、参院への首相や関係閣僚の問責決議案、衆院への内閣不信任決議案の提出など、あらゆる手段を使い成立を阻止することで一致した」と報じられます。


衆院での可決が大幅に遅れた上、参院での審議も一部野党やマスコミの「戦争法案」「徴兵制が敷かれる」といった類のレッテル貼りによる反対世論の増幅によって、会期末の27日が迫る現況でも「法案にまだ支持が広がっていないのは事実」です。

致知』15年10月号の「激変する国際情勢に日本はどう対処していくか」で森本敏・元防衛大臣も書かれているように、ロシア・「中国の一方的な力による現状変更」のリスク、北朝鮮により突如とした「予期できない事態が起こる可能性」、「国家間の正規紛争と非国家主体による非正規戦が混在」した今日の紛争、あるいは「アメリカの軍事力の変化が国際情勢に与える影響」等々に対し、我々はきちんとした認識を持たねばなりません。

森本氏も上記に続けて「もはやアメリカに守ってもらうだけで自国や地域の安全を維持できる時代が終わりつつある」とか「自分の国さえよければいい、自分の家さえ戸締りをしていれば、平和に安穏と暮らしていけるというような時代は終わりつつある」と言われていますが、これ正に御指摘の通りだと思います。

当該法案を巡っては、「憲法違反だ!」と散々喚きに喚かれた挙句衆院を通過して参院審議に移って後も、共に共産党が「独自入手した」とされる①「統幕内部資料」問題(…陸海空自衛隊の一体運用を担う統合幕僚監部が、法案成立を前提とした部隊運用などの内部資料を作成していた問題)、及び②「統幕長会談資料」問題(…河野克俊・統合幕僚長が昨年末の訪米時、米陸軍参謀総長との会談で安保関連法案について『来年夏までには終了すると考えている』と述べたとされる問題)が、此の8月・9月フォーカスされたりする時もありました。

上記2点に関しては例えば、「組織の中では上司がやろうとしていることが円滑に出来るように、部下が予め準備をするのは当然だ」、「予測を述べて何故悪いのか。自衛官に対する言論弾圧だ」、と第二十九代航空幕僚長・田母神俊雄さんもツイートされていましたが、「(軍事に対する政治の優先を意味する)シビリアンコントロール(文民統制)上の問題」など関係なく、ピント外れも甚だしいというより他ありません。

そもそも憲法改正が悲願だとずっと言い続けてきた安倍晋三さんに絶大な権力を国民が付与したわけですから、今回の安保法案は当然の成り行きという以外の何ものでもないわけです。あれだけ自民が大勝するよう出された投票結果にも拘らず、今時分になって反対したところで時既に遅しであって、何を今さら「強行採決反対」「戦争法案今すぐ廃案」などと喚き散らしているのかと思います。

池田信夫さんも先月24日『野党は「自衛隊廃止法案」を出せ』と題したブログ冒頭で、『自民党が集団的自衛権の行使を容認することは、昨年12月の選挙公約には明確に書かれていた。なぜなら、それは7月にすでに閣議決定されていたからだ。これに対して野党も公約でそれに反対し、与党が圧勝したのだから、民主制のルールでは「国民は集団的自衛権の行使を認めた」と考えるのが当然だ。今ごろ野党や学生が騒ぎ出したのは、自民党が参考人として呼んだ長谷部恭男氏が「安保法案は違憲だ」と証言したアクシデントが原因だ』と指摘されています。

此の池田さんは今月12日『いまシールズとか何とかいうデモに参加している学生は「自分は安全保障を理解できないバカだ」と宣伝していることを自覚したほうがいい。かつての全共闘の学生は逮捕されたり退学したりして人生を棒に振った』とツイートされていましたが、こうしたくだらないやり方での意思表示ではなく投票行動でやるべきでしょう。

此の憲法違憲の「安全保障関連法案の審議を優先するため、重要法案の審議に影響が及んだ」格好となり、「通常国会として過去最長の245日の会期幅となった今国会で、政府提出法案の成立率は最終的に8割台にとどまりそうだ。昨年の通常国会の97.5%から大幅に低下する」との残念な報道もありました(参考:最近における法律案の提出・成立件数)。

一昨日ちらっとネットでニュースを見てみても、中国に関しては「南シナ海に3本目の滑走路を建設か」や東シナ海での「ガス田開発、4基で進行」と我が国の生命線シーレーン(東・南シナ海依存率―総貿易量:50%超、原油:85%超、LNG:65%超)を脅かし続けるその野心的拡張主義が垣間見られ、また北朝鮮にあっては「長距離弾道ミサイル発射の可能性を示唆したのに続き、15日には北西部・寧辺(ニョンビョン)の核施設がすべて稼働したと表明」したようですが、此の集団的自衛権の行使容認などという中韓を除く世界の常識がため、これ程までに政治的エネルギーを向かわせて重要法案がどれだけ犠牲になったのかと思うと本当に情けない気持ちがしてきます。

先月11日のブログでも述べたように、中韓以外の国々は未来志向で戦後70年の平和国家としての我国の歩みを評価しているわけであって、成立間近の平和安全法制についても例えば東南アジア諸国にあっては「世界平和維持のため、正しい役割を果たす機会になる」とか、「日本が地域の大国として、アジア太平洋地域や世界の平和と安定に向けて引き続き積極的に貢献することを望む」等と『おおむね「支持」を表明している』のです。

日本人の多くが認識せねばならぬは此の憲法解釈にしろ何しろ、そうした世界の常識を鑑みずに日本の非常識で以て国の将来を左右する重要課題に対すると、極めて間違った判断になってしまうということです。上記法案は誰がどう読んでみても憲法違反との指摘を受け得るものでしょうが、それは解釈の問題であって法文的な解釈だけでなく、現在そして将来を見据えた上でどう在るべきかを勘案し情勢判断を下して行くのが、正しい考え方だと思います。

先々月20日、民主党衆議院議員の長島昭久さんも「自衛隊は違憲で今回の閣議決定も違憲という学者は筋が通っている。自衛隊は合憲としながら、閣議決定は立憲主義に反するとか違憲だとか言ってる学者は、ご都合主義の極みだと思います」とツイートされていましたが、私も全く同感です。現下未だ以て憲法違憲だと叫んでいる人は、此の軍隊と言って然るべき自衛隊を創設し軍備増強を図り続けてきたという事実、あるいは半世紀も前に「非核三原則」が破られているという厳然たる事実、を前に「憲法違反だ!」と言ってもっと大騒ぎされたら如何でしょうか。

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