政治にノーサイドはない

2015年09月21日 05:00
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ラグビーW杯の初戦で、日本が過去優勝2回をほこる南アフリカに勝利する大金星を挙げました。決勝トーナメント(ベスト8)進出の可能性が高まりさらに盛り上がりそうです。ラグビーといえば、政治家はノーサイドという表現を好みます。野田佳彦元首相、菅直人元首相、鳩山由紀夫元首相も党大会の投票後のスピーチでノーサイドという表現をつかっています。

●ラグビーは紳士のスポーツである

野球場、サッカー場には、ホームとビジター用のロッカールームとシャワールームが用意されています。ラグビー場には、ロッカールームはあってもシャワールームは1つしか用意されていません。80分の試合後にシャワーを浴びて両チームが集まってアフター・マッチ・ファンクション(試合後の交流行事)をします。両チームの選手が参加して、乾杯し歌をうたい、お互いを称えあってはじめて正式なノーサイドになります。

つまり「試合(Game)+アフター・マッチ・ファンクション(試合後の交流行事)=ノーサイド(No Side)」なのです。最近では、秩父宮ラグビー場で行われるトップリーグでは、アフター・マッチ・ファンクションに抽選で招待するなどのイベントが開催されています。

ラグビーはイングランドが発祥の地です。ラグビー校のエリス・ウェブという生徒がサッカー試合中にボールを持って走ったことが始まりだと言われています(いまはフィクションとされています)。ラグビーの基本精神は、One for All, All for one。どんなに試合中にエキサイトしても試合が終れば敵味方なしという考え方が紳士のスポーツたるゆえんと言われています。

また、イングランドでは社会教育上欠かせないスポーツとして幼少期からラグビーに接します。ラグビーのチームは役割の異なる10のポジションを15名で構成しますから、必ず役割が与えられます。

●ラグビーは危険なスポーツである

試合中はエキサイトしすぎて格闘技スレスレの攻防をすることが少なくありません。オフェンスの攻撃を止める唯一の方法はタックルのみです。しかし、フロントタックルや、サイドタックルのように、低い姿勢から腰にはいるには勇気が必要です。ピンチを防ぐタックルは、チームを勇気づけますが、相手が巨漢の場合には自分が吹き飛ばされる危険性があります。

普通のタックルでは倒せない場合、相手に抱きついて、体を密着させて倒すスマザータックルという方法があります。抱きついても相手が倒れない場合は、足をかけて倒します(ハッキングという反則になります)。相手の力を利用して足をかけて倒しますからケガをする危険性があります。

モールからラックに移行する際、激しい攻防の流れから、相手選手を踏みつけることがあります。ラックの中心にいる選手は、危険を回避するために顔と頭を守ることが求められます。またスクラムを組む際には、フロントローがエキサイトをして相手に頭突きをくらわすこともあります。激しいシーンですがこのような攻防はラグビーの経験がある人なら当然と思うはずです。

ラグビーについて、内田良氏(名古屋大学大学院准教授)の調査によれば高校の各部活動に関して死亡確率(生徒10万人あたりの死亡生徒数)は、ラグビーは4.030人で、最も事故が多いスポーツとして位置づけられています。ラグビーは紳士のスポーツと称されますが、同時に相当危険なスポーツでもあることが理解できます。

●ラグビーの審判は絶対である

80分間の試合をたった1人の審判によってレフリングするのがラグビーです。ルールブックには「審判は絶対の判定者である。審判の決定に意義を申し立てることはできない」と明記されています。審判は絶対であると憲法の条文で定められているようなものです。

野球やサッカーでは、審判に意義をとなえることがありますが、ラグビーでは審判は絶対的な存在なので異議をとなえることは許されません。かつて、海外の対抗戦で某国の監督が「審判のミスジャッジで負けた」と不満をもらしたところ、国際ラグビー連盟は「ラグビー憲章に反して、ラグビーの精神を傷つけた」として、その監督に処分を下しました。

しかし、審判は1人ですからミスは発生します。ミスジャッジが多い場所は、ゴールラインです。味方が自陣のインゴールにボールをグラウンディングしたら、ドロップアウトかキャリーバックです。ボールがインゴールに入る前にどちらのチームがボールに触れたかで決まりますが、グラウンディングしたチームが最後に触れていたらキャリーバック、逆はドロップアウトです。

試合の流れで自陣インゴールにボールを蹴り込んでも、相手に先にグラウンディングされたらトライです。双方の選手がいっせいにボールに飛びかかったときにミスジャッジが起きやすいのですが、判定に誰も意義はとなえません。ラグビーが紳士のスポーツたるゆえんは、審判が絶対であるからです。

さて、政治にノーサイドが存在するなら、国会の論戦が終わったら、アフター・マッチ・ファンクションのようにお互いを称えあわなくてはいけません。各委員会や本会議を試合に例えるなら、委員長や議長の判定は絶対です。絶対の判定者の決定に意義を申し立てることはできません。やはり、今回の論戦を見る限り、政治の世界でノーサイドという表現は無理があるように思います。

●尾藤克之
ジャーナリスト/経営コンサルタント。代議士秘書、大手コンサルティング会社、IT系上場企業の役員等を経て現職。著書に『ドロのかぶり方』(マイナビ新書)、『キーパーソンを味方につける技術』(ダイヤモンド社)など。
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尾藤 克之
コラムニスト/経営コンサルタント

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