安倍首相の「新三本の矢」は飛ぶのか?

見事予想通りに「経済重視の安倍首相」のスタンスを見せました。安保関連法案を連休前に通し、5連休でゴルフもしてリフレッシュ、気持ちを切り替えての初日に「新三本の矢」を放ちました。しかし、これはマスコミからあまり大きく取り上げられていない気がします。多分ですが、新鮮味がないのだろうと思います。

新しい三本とは「一億総活躍社会」と銘打って
希望を生み出す強い経済 (GDP600兆円を目指す)
夢をつぐむ子育て支援  (希望出生率1.8)
安心につながる社会保障 (介護離職ゼロの実現)

であります。ただ、どれも今一つ漠然としている上にアベノミクス三本目の矢に内包されている内容もあり、そちらはどうなのか、という疑問も当然出てくるでしょう。初めの三本はもはや放ってしまったから新しい矢ということならば的には何本当たったのでしょうか?特にGDP600兆円はいつまでに達成するという目標期限がないのです。民間企業なら○年までに売り上げ○円という具合に必ず時期を明示するものです。

GDPは15年7-9月期で名目がほぼ500兆円、実質が530兆円です。内閣府試算によると2020年から21年にかけて実質2%、名目3%の成長率で600兆円に届くようです。しかしアベノミクスブームで久々に景気回復を実感した2013年でさえ実質2.1%だったことを考えればこの計画はこのままでは絵に描いた餅と言われてしまいます。

例えば勢いの続く訪日外国人客。しかし、もはや日本で受け入れる器がないと言ってもよいでしょう。ホテルが足りません。分かりやすい例えで言うとどれだけ流行っているように見えるレストランでも席数が決まっている以上、売り上げには限界があるのと同様、今の日本では来年以降これ以上の人を受け入れるのは無理ということであります。

では、仮に既存のホテルが旺盛な外国からの需要に対して大幅値上げを断行したとします。とすれば日本のサラリーマンは出張時に何処に泊まるのでしょうか?最近、カプセルホテルが再びオープンしていますが、そんなところに追いやられてしまうのでしょうか?私は下手をしたら外国人向けに緩和した日本向け査証をもう一度厳しくせざるを得ない禁じ手すら絶対にないとは言えなくなる気がします。要はバランスが非常に悪いのです。

相続税の税制でもそうです。東京の中古マンションがこの1年で10%以上も値上がりしているその理由は相続税を減らすため土地部分が少ないマンションを購入する節税プランを高齢者の方がせっせと実行しているからです。その結果、住宅地は虫食いの様に空き地が出来始めています。国交省が主管する都市計画と国税のポリシーがかみ合っていないので奇妙な街が生まれようとしているのです。これが本当に豊かな国づくりに繋がるのでしょうか?

今回の新三本の矢が陳腐化したように感じるのは既存の問題点の焼き直し程度にとどまっているからでありましょう。圧倒的なインパクトがあるものではありません。如何にも小手先のプランという感じがします。同様だったのが財務省が試みた消費税還付のポイント制度でした。

なぜこういう傾向が続くのか、と考えた時、役人は作業に追われていて余裕をもって大所高所からモノをじっくり考えることが出来ないのではないかと思います。情報化、グローバル化で外交も内政もあまりにも多くのことが起きており、それをこなすのが精いっぱいなのではないかと思います。

これは役人に限らず、一般サラリーマンの方ももしかしたらリタイアされた方でも同じかもしれません。情報化が後押しして今まで以上に周りで刺激的なことが起きているということなのでしょう。それをマスコミが更に煽ります。一連のオリンピック問題でも見方次第ではやっつけ仕事的な感じがなかったとは言い切れません。

今さらと言われるかもしれませんが、日本の縦割り行政をもう一度仕切り直す方が三本の矢よりも効果的な気がします。構造的改革とは行政そのものにあります。また、役人は「国家の為に」という気持ちが時として強すぎて民間とのコラボがうまくいかない時があります。双方の良さを持ち寄りながらプロジェクトを進めるPPP(パブリックプライベートパートナーシップ)をもっと前面に出すなど行政側のフレキシビリティがもう少し欲しいところです。

個人的には今さら新しい矢を放つのではなく、もっと違うアイディアを打ち出してもらいたかったと思っています。そうは言っても発表してしまったのですから成果ある具体性を持った形に仕上げてもらいたいと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 9月25日付より