バロンズ誌:VWショック以外に、迫り来る危機 --- 安田 佐和子

2015年09月29日 11:33

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今週のバロンズ誌、テーマは高所得者層で広がる資産運用問題です。ベビーブーマー世代が続々と定年退職を迎えるなか米国の歴史始まって以来、初めて2世代が定年を迎えるという状況。いかに親を養いつつ、子供に負担を掛けずに生活していくのか、悩みは尽きません。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週のテーマはフォルクスワーゲンからバイオテクノロジーまで、市場の不安材料にメスを入れます。

高層ビルの一室で、スーツを着た2人の男性がウィスキーのロックらしきグラスを横に「我々には大きな針か、小さなラクダが必要だ」と語る——ザ・ニューヨーカー誌が、かつてそんな風刺画を掲載した。マタイ伝の「金持ちが神の国に入るより、ラクダが針の目をくぐる方が簡単だ」という言葉をもじったものである。ローマ法王の米国訪問より、足元の気が滅入るようなビジネス・ニュースに相応しい表現ではないか。

VWの場合、針の目ではなくディーゼル・エンジンに対する排ガス規制の網の目をくぐり抜けるため、不正なソフトウェアの使用を選んだ。全米を揺るがした巨額金融詐欺、マドフ事件のごとき様相を呈し窒素化合物(NOx)を基準値の40倍も排出していたのである。

背信行為の構造は、驚きに値する。辞任したマルティン・ヴィンターコルン最高経営責任者(CEO)は、声明で「不正行為を認識していない」と言い切った。ドイツ人にとって「私はペテン師ではない」と同義語のこの表現とは裏腹に、英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙はヴィンターコルン前CEOその人こそ、台風の目と報じたものだ。

金融の世界で、陰謀と共謀というのは珍しくもなんともない。マドフ事件のほか、最近ではロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の不正操作、サブプライムが火付け役となった住宅バブルでは、低格付けの住宅ローンを証券化組み入れマジックで高格付けを与え大問題になったのは周知の話だ。

反対に、陰謀を必要とせずに大金を手に入れた例もある。62年にわたって販売されHIV感染者が服用する医薬品「ダラプリム(Daraprim)」の販売権を獲得し、1錠当たり13.5ドル(約1620円)から5500%以上も引き上げ750ドル(約9万円)で売り出したのは、32歳の元ヘッジファンド・マネージャーでチューリング・ファーマシューティカルズを経営するマーティン・シュクレイ氏。32歳のシュクレイ氏は、衝撃的な値上げ後にメディアに登場し規模によって値下げもあると説明したほか、一部の患者にしか影響しないと豪語した。ただし値上げの被害は、寄生性原虫が引き起こし世界の人口の3分の1が感染しているとされるトキソプラズマ症患者も含まれる。

ただし、値上げは映画「ウォール街」のゴードン・ゲッコーの「強欲は善だ(Greed is good)」の反対をいった。バイオテクノロジー株は急落の一途をたどる。21日にクリントン民主党大統領候補が劇的な値上げに対応するとツイートしたため同セクターの時価総額は約150億ドル(約1兆8000億円)も吹き飛び、ナスダックのバイオテクノロジー指数は週末に弱気相場に陥った。

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(出所:Hillary Clinton/Twitter)

対してVWは前週、時価総額で230億ユーロ(2兆7600億円、約30%)を失った。衝撃は、株式市場を超え信用市場も直撃している。仏ソシエテ・ジェネラルはクレジット・ストラテジー・ウィークリーにて、欧州自動車セクターの社債市場に「混乱」が生じていると指摘。VWの6月末の流動性ポジションが210億ユーロ(約2兆5200億円)で、不正問題の影響が最悪で1100万台及ぶとし65億ユーロ(約7800億円)の引き当てにとどまりながら、VWはボロボロの状態だという。

ローマ法王は、米議会での演説で「黄金律(golden rule)」を熱心に薦めた。すなわち「金(ゴールド)を所持する者が制する」。つまり、雲の向こうにそびえる90階建てのコンドミニアムの住人ですら天国にたどり着けないというわけだ。

もうひとつの市場のドライバーこそ、Fedだろう。据え置き賛成派は金融市場の混乱こそ懸念材料と説き、反対派は「最大限の雇用」に接近するなかで低金利という緊急体制を敷くのは適切ではないと主張する。ジャネット・イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、こうした議論を幕引きさせるかのように年内利上げの可能性に言及した。69歳の議長は講演中に咳き込み場内の観衆を騒然とさせたが、脱水状態に陥ったためだったようで1本のボトルウォーターで体調を取り戻したとされる。いずれにしても、経済への楽観的な見方が25日の欧州株をはじめ米株先物を引き上げた。

ところが、ジョン・ベイナー米下院議長が10月末に辞任するとのニュースが駆け巡りマーケットの安心感を削いでしまった。ポトマック・リサーチのグレッグ・バリエール氏は、顧客向けレポートで今週末の政府機関の閉鎖の可能性は低下したと指摘する。10月1日から2016年の会計年度が開始するなか、政府機関の閉鎖を回避を目指し12月11日までの暫定予算案の採決に民主党の協力が必要とされるが、共和党右派に忌み嫌われるベイナー米下院議長が辞任を控え民主党に協力を要請するのにためらいはないはずだ。

ただしマーケットには、不安の種が蒔かれた格好だ。特にバイオテクノロジー関連が2008年以来の弱気相場入りに落ち込むなかで、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の予算削減は一段の打撃となりうる。

バリエール氏は「潜在的な12月危機が、ジャネット・イエレンの人生を複雑にさせる」とも注意を呼びかける。12月15-16日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、政府機関閉鎖および債務上限引き上げ交渉危機の真っ最中に開催されるリスクがはびこるためだ。アジア危機だけでなく、2013年に発生した政府機関閉鎖の危機まで再来の恐れが潜む。こうした危機で、勝利を手にする者は誰か?バリエール氏は、クリントン候補の名前を挙げる。

Fedが強調するように、米経済は順風満帆といったところ。米4-6月期国内総生産(GDP)確報値は、上方修正された。ただしアトランタ地区連銀の予想では、1.4%増に過ぎない。米9月マークイット製造業PMI・速報値も53.0にとどまった。中国9月財新・製造業PMIは47と2009年3月以来の水準へ落ち込んだ。ブラジルも負のスパイラルから脱せず、メキシコも深刻な輸出の縮小に苛まれている。結局のところ、海外でも米国内でも目の前に問題は山積みだ。

ストリートワイズは、ズバリ「フォルクスワーゲン株に賭けるのは時期尚早」。自動車業界の徹底調査、および改革実行への道を拓くと主張する。VW自体、米国だけで180億ドル(約2兆1600億円)、ドイツその他でも数十億ドルの罰金に直面するリスクが潜む。さらに、排ガス規制逃れ問題をめぐる訴訟だけで引き当て金65億ユーロを軽く超える恐れも。いま、慌ててVW株に飛び乗る必要はなさそうだ。

(カバー写真:Sal/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年9月28日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。


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