なぜ日銀の追加金融緩和が注目されるのか?

岡本 裕明

黒田日銀総裁の記者会見を拝見する限り頭の中にはお約束の2%のインフレの文字でいっぱいかもしれません。片や、イエレン議長が利上げ問題に早く決着をつけたくて「今年中には」などと口走ったのも気持ちと実態が裏腹だから、という想像も出来なくありません。日米の金融を司るそれぞれのトップは判断を迫られる中、残り3か月を切った2015年をどうドライブするのでしょうか?

この2週間ぐらい、日銀の追加金融緩和の話題がふっと湧いてきた際、これは市場が安倍首相の「別の意向」を金融緩和という手段で達成すると替えたように感じたのは私だけでしょうか?首相は安保関連法案問題を一応自己決着つけた後、経済の再生に全力を注ぐとしました。一億総活躍社会や新しい三本の矢もその一環ですが、首相は当然、日々の株価の行方も気にしているでしょう。21000円近くまで行き、今世紀最高値を一瞬つけた後、一気に下げ一時は17000円を割るところまで下げてしまいました。

首相としては経済が好調で持続性あるものを演出するためには株価の安定感はどうしても欲しいところです。その意向に対して日銀が採れる対応とは当然金融市場での操作になりますので手っ取り早い追加金融緩和を市場が求め、盛り上がったのだろうとみています。

僅かに期待された6-7日の会合では追加緩和はなく、発表直後に株価は一気に150円以上もの下げを演じました。(その後、数分で回復しましたが。)では、10月末にある次回の日銀定例会合でちょうど一年ぶりとなるサプライズ緩和を再演出するのか、といえば個人的にはそれをする意味はほぼないと感じますが、黒田日銀総裁が「別の意図」をもって行うことを完全否定するものでもない気がします。

2%のインフレ率達成に関する黒田節の自信たっぷりのスタイルに疑問符だらけであります。来年の春ぐらいまでには達成し、現在もその方向に進みつつある、と説明する黒田総裁の言葉に「本当かい?」と言いたい人は相当いらっしゃるはずです。大前研一氏に至っては2%のインフレ目標そのものをぼろくそにこき下ろしています。それに2017年の消費税増税も控えています。

インフレ率、とくに食料とエネルギーを除いたいわゆる「コアコア」は大量消費がその最大のエンジンであります。ところが世の中は高齢者が増えて消費を控え、若者はシェアコンセプトで消費を控えます。昔は音楽を聴くのもゲームをするのも写真を撮るのも電話をするのもそれぞれのディバイスが必要でしたが今はたった一つのスマホで全部カバーできます。北米のように人口が安定的に増えれば住宅や消費財への一定の成長性も期待できますが、日本に稼ぎに来る外国人は本国への送金をしてしまい、日本で贅沢をするわけではありません。

ならば携帯電話代金を今、無理に下げさせる首相の指示も必要ないわけですが、菅官房長官の肝いりでつじつまの合わないこととなりました。但し、総務省が露骨な価格下げを促すことはまずなく、格安携帯のMVNO(仮想移動体通信事業者)との協調程度に留まるとは思います。

さて、GDPの大きな部分を占め、インフレ率にも影響する消費ですが、再来年の増税前の駆け込み消費は期待できるでしょうが、それも短期的目線であって長期的な主婦目線は「節約しなくちゃ」ではないでしょうか?

総需要が足りないからそれを増やすというのが政府の発想です。しかし、世界の何処もそれを成し得ないのはそれ以上に供給が増えるというジレンマがあるからでしょう。それぐらい金融緩和によってマネーの行き所を巡る熱い戦いがビジネス界で日々繰り広げれらているということです。金融緩和をすればするほど企業の間接費である金利負担費用が下がり、より低価格で総供給を増やし価格破壊を引き起こしやすくなるという目線はあまり語られてこなかった気がします。

来年は強烈な円高になるという説があります。ドル安が引き起こす世界不和でセーフヘイブンの円は買われるというものです。財政赤字や不十分な少子高齢化の経済対策の部分だけをフォーカスすれば円はもっと下がるという説もありますが、為替の動きはあまりにも多くのファクターが入り込みます。それを総合的にみれば円は弱すぎるという私の考えは変わっていません。

2013年からの経済の流れがこのまま続くようには思えません。2016年がギアチェンジの年になってもおかしくはないでしょう。少し身構えていた方がよいかもしれません。

個人的には日銀のこれ以上の金融緩和は株式市場を一時的に喜ばせるだけでほとんど効果はないと考えています。私としては緩和反対に一票です。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 10月8日付より