第3インティファーダ時代の到来 --- 長谷川 良

パレスチナの一人の若者が、検問するイスラエル人兵士をナイフで攻撃し、重体を負わせた事件はパレスチナ側だけではなく、イスラエル側にも大きな衝撃を投じた。パレスチナ人青年はイスラム原理主義組織「ハマス」など過激派組織のメンバーではなく、検問するイスラエル軍兵士の横柄なやり方に“切れた”。また、若いパレスチナ女性がユダヤ人青年をナイフで攻撃、青年は応戦。両者とも負傷する事件が今月7日、起きたばかりだ。

独週刊誌シュピーゲル電子版は14日、「新しい世代のテロ」というタイトルの記事を掲載し、従来の組織・集団によるテロではなく、個人テロと呼んでいる。ハマスやヒズボラといった過激派テロの場合、対応手段は明らかだが、個人によるテロ行為の場合、政府は対応に苦しむ。パレスチナ当局が主導した過去2回のインティファーダ(Intifada、反イスラエル抵抗運動)ではなく、個人が先導する“第3のインティファーダ”の時を迎えた、という声が聞かれるほどだ。

シュピーゲル誌は「新しい世代のテロ」の特徴を列挙している。犯行者は20歳前後と若く、女性が結構多い。東エルサレムと西ヨルダン出身者で高等教育を受けたインテリが多く、自身の信念の為に犠牲となる覚悟があるという。ちなみに、イスラエルのネタニヤフ首相は記者会見で「個人のテロを防止する手段はない」と嘆いている。

ところで、米オレゴン州の大学で今月1日、1人の若者が銃を乱射し、10人を殺害したが、犯人はどのグループにも所属せず、個人の事情から武器を持って無差別殺害を行った。オバマ大統領はその直後、「わが国ではこの種の大量殺害事件が日常茶飯事となった」と指摘し、武器の規制を強く要求している。米大学内の銃乱射事件と中東で台頭してきた個人テロは取り巻く政治事情は全く異なるが、両者とも若者が主人公であり、過激なソーシャル・メディアの影響も大きい点など酷似している。

中東の「新しい世代のテロ」の場合、犯行者は個人的事情や信念から犯行に及ぶケースが多いが、政府や国がその蛮行に全く関与していないかといえば、そうとはいえないだろう。彼らは国の教育を受けてきたのだ。パレスチナ人の場合、反ユダヤ主義的教育を受けてきた。今風にいえば、彼らの中には反ユダヤ主義のDNAが躍動しているはずだ。

それでは中・韓両国で実施されている反日教育はどうだろうか。中国の場合、国策として反日主義を利用している。その教育を受けた若い世代の中国人は程度の差こそあれその影響を逃れることは難しい。一方、韓国の朴槿恵大統領は13日、中学・高校の韓国史教科書を現行の検定制から「国定教科書」に一本化する政府方針を表明したばかりだ。国主導の歴史教育の徹底化を狙っているわけだ。

問題は、国が反日教育の操縦桿を常にコントロールできるかだ。分野は異なるが、上海の株式市場が8月から9月にかけ暴落した時のことを思い出してほしい。中国共産党政権は経済活動も国がコントロールできると確信していたが、連日暴落する株価にその自信が大きく揺れ出したといわれる。

同じように、中国共産党政権が反日教育をプロパガンダとして利用できると高ぶっていると、その操縦桿を失うような事態に直面するかもしれない。中東の「新しい世代のテロ」の台頭はその危険性を強く示唆しているように思える。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年10月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。