IoTというバズワード 『限界費用ゼロ社会』

限界費用ゼロ社会―<モノのインターネット>と共有型経済の台頭
ジェレミー・リフキン
NHK出版
★☆☆☆☆



ちょっと前のバズワードが「クラウド」と「ビッグデータ」だとすれば、最近は「IoT」(Internet of Things)と「インダストリー4.0」だろう。どれも未知の話のようにみえて、不安になったビジネスマンは入門書を買うが、実は新しいことは何も書いてない。本書はビジネスマンが読んで「なーんだ。IoTってこの程度の話か」と安心するにはいいだろう。

インターネットは、生まれたときから世界中のマシンがIPアドレスで交信するIoTだった。情報の限界費用がゼロだというのも当たり前の話で、経済学によれば限界費用がゼロなら価格もゼロになる。しかし情報生産の固定費用は大きいので、そのインフラ投資を回収することがむずかしい。

本書はそういう問題を論じているのかと思ったら、IoTやら3Dプリンタやら再生可能エネルギーやら無関係な話を「限界費用ゼロ」という言葉でくくって、アドホックな例をあげて「コモンズ」が大事だとかいう古い話をしているだけだ。

ごていねいに日本のために付け加えた「特別章」では、著者は限界費用ゼロの再エネに転換したドイツを賞賛し、原発にこだわる日本を批判するが、問題は限界費用ではなく総費用だ。原発は電力会社が採算ベースで建設できるが、再エネは大幅な赤字で、ドイツの電気代は2倍になり、CO2は増えている。

本書の唯一の取り柄は「インダストリー4.0」というバズワードが無意味だと指摘していることだろう。それは第3次産業革命(情報革命)の一種であり、その次の段階ではない。IoTも昔の「ユビキタス」と同じで、大事なのはバズワードではなく、具体的にどういうビジネスに使って利益を出すのかだ。

限界費用がゼロに近づく第3次産業革命は、投資収益を上げる資本主義と矛盾する。それをどう解決するのかというのは文明的な問題だが、著者はそれに気づいてもいない。