「正しい歴史」でメシが食えるか --- 長谷川 良

2015年11月02日 12:30

朝鮮日報日本語電子版は1日、「『正しい歴史』よりも早急に解決すべきこと」という見出しのコラムを掲載していた。日韓両国は久しく「正しい歴史」問題で議論を重ねてきた。「正しい歴史」問題で日本を激しく攻撃してきた韓国側に疲れが見えてきたのだろうか。

叩いても叩いても相手が倒れない場合、ボクサーに叩き疲れが見られ出す。油断すると、相手ボクサーに逆襲される。同じことが韓国にも言えるのだろうか。

朝鮮日報のコラムニストは音楽のオーディション番組に出演した素人バンド「チュンシギバンド」の歌詞が審査委員たちや視聴者の人気を呼んでいると紹介し、その歌詞の一部を紹介する。

「俺は高卒、お前は地方の大学出身だ/ちょっと計算してみよう/お前と俺は今も食っていくのが大変だ/でも心配するな/このまま俺たちはずっと愛し合っていこう」(「赤ちゃんを産みたいなんて」)

一種の韓国版ラップだ。別の曲「サンデー・ソウル」では、「借金までして大学に行かせてくれたおやじ/卒業しても就職できない息子/きょうもPC房(インターネットカフェ)で深夜バイトだ/食事はカップラーメン1個だけ」という歌詞だ。

バンドのメンバーたちは実際に、建設現場や飲食店などで働いて生計を立てている30代前半の若者たちだという。彼らはデモや反政府運動を煽ることはしない。リアリティーを歌うだけだ。

ちなみに、歌詞だけを読めば、日本で1968年にヒットした岡林信康「山谷ブルース」を思い出させる。ただし、岡林の歌詞には反資本主義運動を煽る匂いが強かった。

「人は山谷を悪く言う、だけどおれ達いなくなりゃ、ビルもビルも道路も出来やしねえ、誰も分かっちゃくれねえか、だけどおれ達ゃ泣かないぜ、働くおれ達の世の中が、きっときっと来るさそのうちに、その日は泣こうぜうれし泣き」

韓国バンドの歌詞にはその匂いは全くない。非政治的なのだ。ただリアリティーを歌うだけだ。

この歌詞を読んで、韓国の若者の閉塞感の深さを感じた。大多数の国民は生活のために汗を流す。国民経済が停滞し、雇用市場は厳しくなってきた。生活の糧を得るのも以前より大変となってきた。一方、少子化による社会福祉体制の崩壊が現実味を帯びてきた。終身雇用など既に消滅した。韓国の若者の自殺率の高さは世界を驚かせた。「ヘル朝鮮」という言葉が流行語となった。

国の未来を委ねる若者たちが閉塞感に捉われ、希望を失ってきている時、その国の為政者が「正しい歴史」問題を最大の政治課題に掲げ、最も重要な隣国との関係を損なってきた。

朝鮮日報のコラム「正しい歴史より早急に解決すべきこと」は大多数の国民、特に若者の苛たちを代弁しているのではないか。卑近な表現をすれば、「正しい歴史でメシを食えるか?!」だ。メシを食える一握りのエリートがメシを食うのも大変な大多数の国民を前に「正しい歴史」を掲げ、「この問題が解決されない限り、隣国関係は前進しない」と国民を煽ってきたのだ。

狡猾な共産主義者は昔、メシを食えない大多数の国民を煽り、革命を呼びかけたが、その共産主義運動が幻想だと判明して以来、“メシを食うための政治運動”は世界的に消滅し、その代わり、メシを食えない人々は閉塞感に悩まされてきた。

国の運営を任せられた政治家にとって理念、信念は大切だ。時には、メシが食えなくなり、国民を犠牲にしたとしても、理念を貫徹しなければならない時もある。しかし、未来を託する若者が閉塞感を感じる社会は危ない。

朴槿恵政権は若者が閉塞感を克服できる未来へのビジョンを提示し、若者に参加を呼びかけるべきだ。「過去の歴史」は若者の「未来」とは成り得ないからだ。昔の歴史が良くないというのなら、若者に良き歴史を描かせるべきだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年11月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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