海外に弱い日本人選手が内弁慶を克服するには(上) --- 天野 貴昭

2015年11月11日 06:50

スポーツ新聞などで「日本人選手が海外で勝てないのは精神力が弱いからだ」といった記事を見かける事があります。この様な記事を読むたび「一体 “精神力” とは何の事なのだろう?」と思い悩んでしまいます。

僕は心理学を専攻した訳ではないですが「スポーツ心理」に限って言えば些か見識があるという自認はあります。

これまで幾人かのプロスポーツ選手やオリンピック選手を見て来ましたが(と言っても、本当に只くっついてただけですが…汗)彼らの練習内容や試合に対する考え方を知る程に、どうしても日本アスリートの精神力が弱いとは思えないのです。

そんな僕が今掲げている仮説があります。それは「日本人アスリートの問題は精神性mentalではなく、哲学性philosophyにある」のではないかということ。今回はこの事について皆さんと考えて行きたいと思っています。

※8日に開幕したプレミア12で好投した侍ジャパンの大谷投手。高校時代から
メジャー志向の右腕は内弁慶と無縁なのか !?(出典;Wikipedia)

Fighters_ohtani_pichi

日本人が勝てないのは、「武士道」と「孫子」の解釈にあり?


まず僕は「武士道」と呼ばれる概念と、兵法書「孫子」の解釈上のズレが日本選手の国際試合での枷になっている…そう考えています。

まず説明し易いのは「孫子」です。

孫子全13編で共通して貫かれている哲学感は「戦わずして勝つ(戦略レベルで勝利する事で無用の戦闘を回避する)」です。これは孫子に並び日本で愛好されている戦書「六韜三略」でも同様の事が記されています。「戦争をすると人命や国財を大きく損ねる(兵者國之大事也)」「戦う前に相手を降伏させる事が重要(不戰而屈人之兵、善之善者也)」このほか多くの箇所で「戦わずして勝つ為のプロセス」を読み取る事ができます。

確かにこの考え方は全ての勝負事で大切な因子だとは思います。

ただ、先日に組体操の記事でも申しましたが、スポーツ大会の目的は「戦うことで得られる高揚感・感動を共有する事」にあるので、戦略段階で圧倒的優位な状況が続くとルール改正が執り行われます、水泳のレーザーレーサー規制などが一番よい例だと思います。

孫子も六韜三略も大変すばらしい戦書ですが、これをスポーツで活用する際は実際の戦闘やビジネスで応用する際と異なり、「戦わずには勝たせて貰えない」という事を理解した上で活用すべきだと思います。

武士道とは「言ったもの勝ち」とみつけたり


次いで武士道(侍の心)についてです。

同名書である新渡戸稲造の「武士道」にも記されている通り、武士道とはいわば不文律で、この定義付けについては武士同士でも結構確執があった様です。まして「武士という職業」が消失した現在では「武士道とは殆ど言ったもの勝ち状態」に陥っていると僕は捉えています。だから僕がここで武士道を定義つけるのも自由だし、それを何方かが「お前の言う武士道は全然違う」・「本当の武士道とはな…」と御節を講じられる事も自由にできるという事です。

今回は僕が【現代版武士道】の基盤と解釈している、1.新渡戸稲造の解説する「武士道」、2.徳川家御家流である「柳生新陰流」、3.明治維新で政界重鎮に人物を輩出した薩摩地方伝来の剣術概念。これら3つを柱にスポーツの関連性について述べたいと思います。

無様な勝ちより美しい負けを好む国民性


新渡戸は佐賀藩士、山本常朝が記した「葉隠」という武士向けの書籍について解説をしています。

…が、現行ではその解釈より冒頭の「武士道とは死ぬこととみつけたり」という一文が一人歩きしている様に思います。

(原文)
二つ二つの場にて、早く死方に片付ばかり也。別に子細なし。胸すわって進む也、図に当らず、犬死などいふ事は、上方風の打ち上りたる武道なるべし。二 つ二つの場にて、図に当るやうにする事は及ばざる事なり。我人、生る方がすき也。多分すきの方に理が付べし。もし図に外れて、生たらば、腰ぬけ也。此境危 き也。図に外れて死にたらば、気遣いにて恥にはならず。是が武道の丈夫也。毎朝毎夕、改めては死々、常住死身に成て居る時は、武道に自由を得、一生落度な く家職を仕課すべき也。

これは「生死の二択となった局面では死ぬ方を選ぶ気でいた方が腹が据わってよい」という意味なのですが、どうも現代社会全般では「潔く死ぬ事が武士道だ」と解釈されている気がします。(また新渡戸はこれが全ての武士の哲学感とは述べてはいません)

この哲学感を良しとする考え方を決して否定しませんが、これが高じてアスリートに対して「勝つこと」よりも「勝ちかた」や「負けかた」を求める風潮があるように思えてなりません。この発想で選手を応援しても、しぶとく勝ちに拘る海外勢相手に勝ち上がるのはかなり厳しいようにも思います。
(中に続く)

天野貴昭
トータルトレーニング&コンディショニングラボ/エアグランド代表

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