距離を置くのも一策、日ロ外交

安倍首相がトルコで開催されるG20でプーチン大統領と個別会談に臨むと報道されています。首相が期待しているプーチン大統領の訪日が決まらない中、今回も短い会談とされ、再び「お願い行脚」となるのでしょうか?

安倍首相がニューヨークの国連総会出席の際の9月28日、プーチン大統領と40分ほど会談をしました。そのうち、さしでの話はわずか10分でした。外交的向かい風の中、出てきたコメントはプーチン大統領の適切な時期の訪日、および、平和条約の締結に向けた継続的な協議をすることを確認した、というものです。あくまでも「ベクトルの確認」であってベンチマークにかかっていない点からすると進展がなかったと言ってよいでしょう。トルコでの会談も大きな成果は期待しにくいと思われます。

最近のロシアと日本側の外交交渉ではその内容が発表の際、ずれていることがしばしば起きており、これも両首脳の間にどの程度のニュアンス的相違があったのか分かり難くなっています。

が、100歩譲って大統領訪日方針と平和条約継続協議の二点が確認されたとしても相当、茨の道であることには違いないでしょう。北方領土問題へのロシア側姿勢は数年前と比べ大幅に後退しています。個人的には日本とロシアの外交交渉は切り口を少し変えてみた方がよいように思えます。

ロシアが日本に求めること、それは東ロシアの開発協力でしょう。その意味はロシアが石油、ガスの資源輸出型経済であることを鑑み、その開発で日本をはじめ、韓国、中国への輸出を進め、経済的便益を求めるものであります。

石油に関してはロシアが支持するイランと日本が投資協定を締結しました。これにより石油埋蔵量世界第4位、天然ガス第1位の資源大国と日本のパイプが再び繋がったわけで日本が国策としている資源調達先の多様化という点では大きなサポートになります。

また、LNG(液化天然ガス)についてもアメリカからの輸入するプランは着々と進んでおり、(カナダは相当遅延)多様化という意味で日本のポジションはより強みを増します。そこからすれば日本が嫌なロシアとそこまでゴリゴリと交渉するタイミングにはないのかもしれません。

北方領土はかつては国後、択捉でのロシア側のインフラ整備や開発が進んでいたものの色丹と人が住まない歯舞諸島はほとんど手付かずでありました。それは1956年の日ソ共同宣言で歯舞、色丹両島は平和条約締結後、日本に返還するとし、その宣言の有効性については2001年のイルクーツク声明で確認されているからです。

ところが今では返還するはず色丹でもインフラ整備が始まっているとされ、ロシア側は日本へ色丹も返さないつもりがあるように見えます。また、ロシアの国内世論で北方領土はロシアのものという認識がより強く表れてきており、クリミアと同様、戦略的地域の返還の余地はまずないということになります。

このような事態の中、日本政府がロシアに経済協力姿勢をみせることで平和条約締結に結びつくのか、と考えると個人的には微妙な気がします。タイミング的にプーチン大統領はクリミアを抑え、イスラム国のISを攻撃することでロシア南方政策を強化しようとしています。

世界で最も注目されるプーチン大統領は強気の「背負い投げ」に出ることも多く、日本にとってなんら良い成果をもたらすことないでしょう。ならば、日本はロシアへの投資を戦略的に一時的に冷やし、時期が来るのを待つ、という手もありなのではないでしょうか?

外交とは読み合いなのですが、中国とロシアの関係が蜜月で長く続くことはないし、歴史もそうなっています。ロシアは歴史的に西側の防御を強化し、東側は開発が遅延します。米ロ関係が悪化すれば北方領土は重要な戦略対象になりますが、そうでなければロシアによる北方領土のインフラ整備はそこそこで留まるとみています。もともとこの島々の現在の人口は約16000人程度。そこに2400メートル級の滑走路を備える意味はほとんど現実的ではなく、日本への挑発的行為とみて良いでしょう。

それに刺激されるのか、クールにかわすのか、このあたりに安倍首相の外交的センスを期待したいと思います。個人的には中ロ関係につまづきが入るまでぐっと待つべきかと思います。

では今日はこのあたりで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 11月14日付より