御立尚資氏のデータ活用の医療・介護成長戦略(上) --- G1オピニオン

2015年11月15日 06:58

(アゴラ編集部より)この記事はGLOBIS知見録「G1政策研究所」のアドバイザリーボード・メンバー5名によるリレー連載「G1オピニオン」からの転載です。今回の執筆者は、御立尚資・ボストンコンサルティンググループ日本代表です。
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団塊の世代が65歳を超え、医療・介護分野が日本国内で数少ない成長市場としてスポットライトを浴びている。2025年には、75歳以上が人口の18%を占めるであろう高齢化社会、日本において、都市でも地方でも需要が伸び、雇用も生み続ける医療・介護の成長産業化を狙うというのは当然だろう。

一方、世界有数の赤字状態にある日本の国家財政。その中で、医療費に関わる社会保障給付は2025年に54兆円に達すると推定されている。これは、2015年から15兆円近い増加だ。介護に関する給付も10.5兆円から約20兆円へと10兆円近い増加が見込まれている。この増加の徹底的な抑制が、国家財政破たんを防ぐ上で最大のポイントの1つであることは言うまでもない。

前者は、市場創造の推進。後者は、市場規模の意図的抑制。一見、矛盾するこの2つの命題を同時に解決することが、我々に求められている。そして、その実現の原動力となり得るのは、データの徹底活用による医療・介護システムの改革だ。
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1. データを活用した「結果の出る」予防産業作りを急ごう


現在、約50兆円と言われる日本の医療・介護産業のうち、予防市場は1000億円にも満たない。健康食品・サプリメント市場が、1兆5000億円を超えるとされているのと比較すると、驚くべき小ささだ。

これまで市場が立ち上がらなかった最大の理由は、「国民の行動が変わらない」「結果が見えない」という2点にある。健康診断等で要注意となっても、運動や食事内容を変えるなど、積極的に病気予防のために行動を変革する層は、3割にも満たないという。「病気を予防する意思と行動」を保険料割引などで優遇しようとしても、「何をどれだけ変えれば、どれだけの医療コストが下がるか」がこれまでははっきりと見えず、適切なプライシングができなかった。

デジタルデータの低コストでの蓄積・活用が可能となりつつある現在、このボトルネックを除去することは十分可能だ。

今後さらに低コスト化と高精度化が進む遺伝子検査を健康診断に組み込み、個々人のデータに基づいて「よりインパクトある行動変革の勧め」を強く打ち出す。スマホやウェアラブル端末のライフログデータと組み合わせ、実際の行動が変わらなければ、年に1回の検診を待つことなく、頻繁にウォーニングを出す。これらのデータを、DPC(診断群分類包括評価)データなどすでに蓄積されている「診断・治療・結果」の医療データと組み合わせ、医療コスト削減可能額に応じて、個々人ごとに保険料の増減のインセンティブをつける。

こういった「データの複合的収集・蓄積・活用」が、予防ビジネス立ち上げにつながる。病気になってから、介護が必要になってから、の保険費用の削減だけではなく、事前の働きかけを強める方向に医療・介護政策を大きくシフトさせねばならない。

「国が予防大国化の旗を立てる」こと、そしてデータの活用ルールを早急に設定して、民間の知恵と技術が生かせる規制環境を作ることが不可欠だ。

2. アウトカムデータを活用して、効果の上がる医療・介護サービスへのシフトを


スウェーデンでは、小児の急性白血病の5年生存率が、10数パーセントから90パーセント近くまで改善した。画期的な新薬が登場したわけでもなく、だ。

これは、学会が中心となった「データに基づくベストプラクティス推進」の結果である。患者の症状や年齢・体重といったさまざまな条件に応じて、どういう薬をどう組み合わせるのが、もっとも良い治療効果(アウトカム)を生むか。関連するデータを徹底的に収集・分析し、その結果を学会が公表、専門医が常にベストプラクティスを参照しつつ、それより良い結果が得られる手法を磨き続ける。企業のTQM的な動きが、医療の現場で取り入れられたわけだ。

日本でも、2011年から外科関連の学会が、手術に関する診断・術式・治療結果の情報入力を、すべての専門医に義務付けるという動きを始めた(National Clinical Database)。また、前述のDPCデータと呼ばれるより広い範囲の疾病についてのデータも存在しているが、ベストプラクティス活動にはほとんど利用されていない。

洋の東西を問わず、医者の選別につながるとして、治療行為と治療結果の両方を含むアウトカムデータを集めて活用することに反対する勢力が存在する。しかし、重篤な病気や、非常にコストのかかる治療が必要な病気についてのデータを集め、活用することから始める、というのが多くの先進国の政策になりつつある。軽い風邪や怪我のデータを集めることは、患者のQOL(Quality of Life)改善にも、医療費の削減にも効果が薄いからだ。

DPCデータを収集しており、手術の大部分を手がけている一定規模以上の病院にターゲットを絞り、学会と心ある専門医を巻き込んで、価値あるアウトカムデータ活用の流れを固めることが先決だ。このためには、ここでもデータ活用に関するルール設定が急務であり、また、それに賛同する医師の技術料優遇など、さまざまなインセンティブ・ディスインセンティブも組み合わせていかねばならない。

(下)に続く

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