中東情勢を混沌化させるトルコの戦闘機撃墜事件

1937年7月7日、満州の盧溝橋で日本軍は夜間軍事演習をしていました。この演習は中国の国民党側に通告済みだったにもかかわらず、その演習中に中国側から銃弾が発せられました。これを重大視した日本側は国民党側に同所からの撤退を要求したもののそれに従わず、8日には国民党は日本軍に追撃をした、という事件があります。世にいう盧溝橋事件であり、日中戦争の引き金となった事件であります。(のちの国家主席の劉少奇が中国共産党として罠を仕掛けたという話もありますが真実は闇です。)

この事件のポイントは双方の言い分が食い違っており、そのために小さな争いが始まり、結果としてとてつもない争いに発展したことでしょう。

トルコ軍がシリアに向かうロシア軍の戦闘機を撃墜しました。トルコ側はロシア軍がトルコの領空を侵犯し、何度も警告も発しているというのに対してロシア側は領空侵犯はしていないと強く主張しています。盧溝橋の時と違い、今回は撃墜の様子が広く放映されており、墜落したのがシリア領内でパラシュートで脱出したパイロット2名のうち1名が狙撃され死亡しています。領空侵犯したのかどうか判別可能な気もしますが、危険な事態に発展する可能性があり外交ルートを通じて解決努力をすべきでしょう。

トルコはNATO(北大西洋条約機構)に所属しており、トルコが緊急の会議を要求しています。そのNATOも本件を重大な問題と認識しているようです。NATOは発足当時、その仮想敵国をソ連としていたもののソ連崩壊でその意義を一旦失いかけます。ところがプーチン体制のロシアが強面でウクライナ問題などを引き起こしたことから再びその矛先がロシアに向かいかけている状況でした。プーチン大統領はNATOをむき出しで敵対視している為、トルコがNATOの傘の下に身を任せることになった時、プーチン大統領がどう出るか、注目されます。

プーチン大統領の発言で一番気になるのはトルコに不正取引に基づく原油が横流しされている、という点であります。もともとロシアがISせん滅に参加したのはISが憎いというより下落する原油価格に対策が欲しかったことは案外注目されていません。

下げ続ける原油価格に対してどうにか歯止めをかけ、外資獲得の重要な手段を維持することはロシアにとっての悲願であります。その為に安値にもかかわらず、供給量を増やし、市場シェア獲得競争に走っていました。そんな中、ISは原油を不正に売却し、その代金で武器を買うという流れが明白となり、プーチン大統領としては原油価格維持のためには絶対に許されないことでありました。それゆえのIS攻撃でもあります。

ところが横流しする原油は売り手がいれば買い手がいるわけでそのやり玉に挙がったのがトルコであります。

この事実関係は調査する必要があると思いますが、プーチン大統領の発言とあらば一定の調べは済んでいるのでしょう。このロジックは「盗品を盗品と知って買った者は罰せられる」ということでしょう。日本では盗品等関与罪とも称され、刑法で規定されています。

中東やウクライナ情勢で注目しなくてはいけないのは誤認による撃墜が後を絶たないということです。既に民間機もその犠牲になっていますし、先日はアメリカ軍がアフガニスタンで「国境なき医師団」を誤爆し、多数の死傷者を出しました。今回は戦闘機です。ロシアとしては屈辱的なことでしょう。

これらの例を見る限り、戦闘機やレーダーなどの技術は極めて向上したものの最終的にその標的を判断するのは人間の目である点に於いて誤りが目立ってきたということでしょうか?

私が懸念するのは国際紛争は中東やウクライナだけではないということです。世界中のあちらこちらで煙が上がっている中で民間の飛行機や船、施設が敵味方、入り混じった状態になっております。特に日本に関していえば東シナ海での紛争には当事者として関与し、中国海軍は日本を刺激するような行動をし続けています。これでは第二の盧溝橋事件が起きないとは限らないのです。

ましてや南沙諸島問題は多数の国家がその領有権を主張し、いつ何が起きてもおかしくない状態であります。21世紀は20世紀型の戦争は起きない、と言われています。確かに地上戦を含む泥沼の戦いは今のところ起きていません。一方で、民間人が何の防御もない時に悲劇に巻き込まれている事件が多発していることは新たなる争いのスタイルであり、問題を混沌化させかねません。

大いに懸念すべきで、トルコとロシアのケースも二国間で早急なる火消しを行うべきかと思います。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 11月25日付より