米大統領候補、懲りない面々 --- 安田 佐和子

2015年11月30日 07:00

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バロンズ誌、今週は特集として「インパクト・インベストメント」を取り上げます。ホテルチェーン大手ハイアットの令嬢、リーセル・プリッツカー・シモンズ氏が2005年に5億ドルの相続権を勝ち取ってから2年後、ルアンダの国民の生活向上にインパクトを与えるため投資を決断しました。当時「いくら損失を計上しても良いか?」と尋ねた資産運用アドバイザーを解雇し、頼ったのは市場のリターンに相当するパフォーマンスを遂行するインパクト・コンサルタントでした。詳細は、本誌をご参照下さい。

当サイトが注目するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は米大統領候補者と労働人口の減少にスポットライトを当てます。いつものランダル・フォーサイス氏ではなくジョナサン・レイン氏が執筆するコラムの抄訳は、以下の通り。


消化不良と言えば、感謝祭に詰め込んだターキーだけではない。予備選の幕開けを控え、支持率で先頭をひた走る候補者のごまかしにも我々は胸焼けしつつある。

共和党候補でいえば、不動産王であるドナルド・トランプ候補がまず筆頭に挙げられよう。映画「ブルワース」の米大統領候補者のように歯に衣着せぬ語り口調で大衆にアピールする一方、彼は本当に2001年9月11日に崩壊していくワールド・トレード・センターを見て喝采を送ったイスラム教徒を目撃し、かつメディアはそれを無視したのだろうか?勿論、否だろう。あるいは、元神経外科医ベン・カーソン候補は確かに静かでソフトな語り口で知られる一方、人々は過激な信念と政治公約を見過ごしていないだろうか。

米上院議員のテッド・クルーズ候補は、キリスト教徒であるシリア難民のみ受け入れるべきとの見解を表明した。イスラム教徒が殺戮し、略奪し、炎上するとの認識を基にしているが、彼はドル高局面で金本位制を掲げる人物でもある。

民主党候補最右翼のヒラリー・クリントン前米国務長官はというと、多くのアメリカ人は信用に値すると認識していない。リビア在外公館襲撃(ベンガジ)事件や、米国務長官時代に法律に反し公務にあたって個人メールを利用した疑惑以外にも、問題がある。ファースト・レディ時代の1996年にボスニアのツヅラで狙撃手に狙われた、夫であるビル・クリントン元大統領と結婚する直前の1975年に海兵隊入りを考慮したとの話にも信憑性が乏しい。

この2人がホワイトハウスの住人になるのは、バロンズ誌も大反対のご様子。
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(出所:Boss Tweed/Flickr)

米大統領候補の面々がそれぞれ問題を抱えながら、金融市場と経済は堅調に推移している。今後の長期的な変化については、モルガン・スタンレーのエコノミストであるマノジ・プラダン氏と、同社コンサルタントでロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのチャールズ・グッドハート教授が共著したレポート「人口動態は30年に及ぶトレンドを反転させるのか」を参照したい。

レポートによると経済をけん引する米国、欧州、中国、アジアの竜(台湾や韓国)において労働人口の減少とともに成長が鈍化し、金利が上昇し高インフレに見舞われると認識されている。同時に実質賃金も上向き、生産性も高まり、所得格差が縮小する見通しだ。

そもそも米国において所得格差が生じたのは労働人口がベビーブーマー世代の成長に合わせ1970年以降に増加したためで、1990年には中国や東欧の低賃金労働者がグローバルな労働力として組み入れられたことも大きい。こうした労働人口の増加が特に先進国での賃金の伸びを抑え、金利は1980年初めから顕著に低下していった。金利低下は金融市場に恩恵を与え、企業の利ざやは拡大し株式相場を押し上げていく。その過程で、トマ・ピケティ氏が「21世紀の資本論」で指摘したように格差が広がっていった。

ただし、こうしたトレンドは分岐点に差し掛かっている。中国が一人っ子政策を撤廃したように先進国やエマージング国で出生率が低下したため労働人口は頭打ちし、今後は低下していく見通しだ。高齢化により経済成長が鈍化するとの悲観的な予想は、あながち正しいとは言えない。賃金は労働人口の減少に合わせ先進国を中心に上昇し、企業が利益を確保する目的で設備投資を拡大するに合わせ生産性が改善されていくためだ。レポートでは、賃金格差がこうした動きに合わせ縮小すると見込む。

低成長時代には実質金利が上昇するより低下するとの意見が出てくるだろうが、グッドハート氏とプラダン氏は「景気後退期にのみ当てはまるものの、貯蓄率が低下していくスピードは設備投資を上回るため、資本を惹き付けるため高い金利が必要になる」と指摘する。

また人口が減少すれば企業はロボットを多用する必要性に駆られるなど代替策が求められるため、労働人口の減少に従い設備投資は拡大せざるを得ないと考えられる。

もちろん移民の受け入れや65歳以上の労働人口の拡大で労働参加率が改善する期待もあるが、移民に対してはパリ同時多発テロ事件以降に慎重となる国も出て来ている。いずれにしてもモルガン・スタンレーのレポートは、年末の休暇に一度考えを巡らせるきっかけを与えてくれるのではないか。

ストリートワイズは、小型株への転換を主張する。ノムラ・セキュリティーズのクオンツ・ストラテジスト、ジョー・メズリッチ氏は11月初め、小型株が5年間に及ぶ停滞期を脱すると予想した。同氏の見通しは的中し、小型株指数のFTSEラッセル2000の11月のリターンは大型株指数のラッセル1000を3%近く上回る。

メズリッチ氏と同僚のアダム・グールド氏は小型株にシフトすべき理由として、1)大型株に対し割安、2)S&P500の利益見通しで表れている経済不透明性、3)米国債利回りが示唆する成長見通し——を挙げている。いわば世界経済に懸念が残る半面、米経済が現状の成長を維持できならば小型株がアップル(AAPL)やアマゾン(AMZN)といった大型株をアウトパフォームするというわけだ。ノムラは向こう2年間にわたって小型株の春を予想、年間で10%のリターンを見込む。


米大統領候補はともかく、モルガン・スタンレーのレポートは興味深いですよね。筆者も設備投資の拡大という点では、米国にて研究開発費が増加している事実と整合的です。ベビーブーマー世代が引退しても移民の増加に支えられ少子化が進まない米国で格差が縮小するとの考えには疑問が残りますが、日本で設備投資が拡大し技術革新が進めば賃金伸び悩みに歯止めが掛かる余地が残ります。

(カバー写真:angela n./Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年11月29日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。


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