スーパー・マリオ、市場期待をクリアできず --- 安田 佐和子

2015年12月07日 07:00

yasuda151206
バロンズ誌、今週は2016年に注目すべき個別銘柄トップ10を紹介しています。2015年はFANGA—フェイスブック(FB)、アマゾン(AMZN)、ネットフリックス(NFLX)、グーグル(現アルファベット、GOOG)が大いに話題となり、それぞれ年初来で34%高、115%高、160%高、45%高と驚異的なリターンを叩き出しました。今年はどのような銘柄が高リターンを約束するのか、詳細は本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測する名物コラム、アップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週のテーマは欧州中央銀行(ECB)です。抄訳は、以下の通り。

共和党の米大統領候補で最右翼のドナルド・トランプ氏が熟知する、欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁が12月3日の定例会合後の記者会見で忘れてしまったポイントとは何か。それは極めてシンプルなメッセージの必要性だろう。140字までの情報を配信するツイッター、10秒で音楽を楽しめるサウンド・バイトといったようなサービスが人気を博す時代、より単純なメッセージこそ「大仰」なものより好まれがちだ。トランプ候補の発言は単純明快で、まるで小学4年生でも理解可能に違いない。

共和党大統領候補2位を走る神経外科医のベン・カーソン候補の言葉は小学6年生でも把握でき、後塵を拝するマルコ・ルビオ米上院議員(フロリダ州)やテッド・クルーズ米上院議員(テキサス州)で中学2年生並みの学力水準で大丈夫だろう。民主党候補で1位をひた走るヒラリー・クリントン前米国務長官なら、高校1年生まで引き上がる。金融関連の文章はといえば、高卒あるいは大学進学に必要な学力を持つ読者を対象に執筆されている。

ECBのドラギ総裁が定例理事会後に送ったメッセージは、ギリシャやキプロスといった債務問題に揺れた2012年に放った「何でもする(do whatever it takes)」ほど明快ではなかった。確かに中銀預金金利を10bp引き下げ、毎月600億ユーロの資産買い入れプログラム(APP)も2016年9月から2017年3月へ後ろ倒しさせた。ただ、量的緩和(QE)の規模を800億ユーロへ引き上げる決断は見送った。金融市場はユーロ高・株安・欧州債安(利回りは上昇)で反応、独10年債利回りは前日比20.6bp上昇の0.68%に達し前日との%比較では45%も急騰した。米10年債利回りも前日比15bp上昇し2.33%をつけ、iシェアーズ 米国国債 20年超 ETF(TLT)は2.7%安となり、S&P500 ETF(SPX)も1.4%安を超える下落率を示した。

ただしドラギ総裁は4日、ニューヨークのエコノミック・クラブで登壇した際にインフレ参照値2%弱へ回帰させるため、QE拡大が必要であれば実施する意志を表明。「我々は行動する力を持ち、行動するための決意を有し、行動すると確約する(We have the power to act. We have the determination to act. We have the commitment to act)」——見事にスーパー・マリオたる威厳を取り戻した。また、ドイツ出身者の反対が囁かれつつ理事会内での反対を巡る憶測を否定。3日とは裏腹に米株にリスク・オン相場を招き入れ、ダウ平均をはじめS&P500などそろって2%高で取引を終えた。前日分の下落を打ち消しただけでなく、ここ数ヵ月で最高のリターンとなる。

視点を米国に戻すと、米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は今月15~16日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で2006年6月以来となる利上げへの道筋をあらためて示した。米11月雇用統計で、さらに可能性が高まったと言えよう。

S&P500は2日のイエレンFRB議長の講演で急伸した後に3日のドラギECB総裁の記者会見を受け大幅安を迎え、この2日間で3%落ち込んだ。4日に急騰したとはいえ、ウィルシャー・アソシエーツによると米株市場の時価総額は1000億ドル減少したままだという。

何気にS&P500、2100p超えでは上げ渋り。
spx
(出所:Stockcharts)

特にジャンク債が痛手を負い、SPDR バークレイズ・ハイ・イールド債券 ETF(JNK)は52週安値を、iシェアーズ iBoxx 米ドル建てハイイールド社債 ETF(HYG)は年初来安値近くで推移している。原油先物も石油輸出国機構(OPEC)が減産で合意できず、40ドル割れで引けた。

エバーコアISIのテクニカル・アナリストであるリチャード・ロス氏は、年末にかけラリーを予想する。ただしドル高を懸念材料に挙げ、ドル高によって原油安のほか国際通貨基金(IMF)によるSDR通貨組み入れが決定した中国人民元を含む通貨安に警鐘を鳴らす。さらに高利回り債への影響も考えられ、全ては株安に直結しかねない。

優秀な人間ですら、失敗はつきものだ。例えば1990年初め(1989年5月~1990年8月まで、5回にわたり2.5→6.0%、350bp引き上げ)に日銀はバブル封じ込めを狙い利上げに踏み切った。ECBも2011年に原油高をにらみ、利上げを断行。こうした措置がデフレ環境を招いたことは、記憶に新しい。中国人民銀行の遅々たる株価対策も、長期的には悪影響を及ぼしうる。

みずほセキュリティーズのスティーブ・リチュート米エコノミストは、Fedもこうした失敗を犯しかねないと危惧する一人だ。Fedが利上げ開始に踏み切れば株高局面は怒濤の売りに押し返され、クレジット・スプレッドは拡大し、ドルは一段高へ向かい、原油先物は40ドルを割り込み、米債利回りはフラットニングする——といったシナリオを描く。いわゆる古典的な景気後退へのパターンだが、単純な警告というのは無視されてしまうのだろう。

ストリートワイズは、割安株に注目。2007年2月以降、割安株は割高株のリターンを2.6%ポイント下回ってきた。8年7ヵ月ものアンダーパフォーマンスは世界恐慌発生前にあたる1926年以来、初めてとなる。なぜそうなってしまったのか?そもそも割安を判断する基準は株価収益率(PER)、配当利回り、株価売上高倍率(時価総額を年間売上で割り、新興企業の株価を判断する基準)、株価純資産倍率(企業の資産から株価を判断する基準)などが挙げられる。ただ、こうした基準で割安=株価上昇との方程式が成り立たなくなってしまった。

ノムラ・インターナショナルのクオンツ・ストラテジストであるジョセフ・メズリッチ氏によると、簿価で割安な場合はデフォルト・リスクが意識され、利益で割安なケースではデフォルトより業績に目がいくといってしまう。簿価ベースで割安な銘柄のパフォーマンスは割高な銘柄に比べ15%ポイント下回り、利益面で割安な銘柄は逆に13.6%ポイントも上回るのは、投資家がどこに注目しているかを如実に表している。割安というのは、詰まるところ見る者が決めるということだろう。

——アップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、あらためて弱気節が炸裂していました。Fedの利上げ開始の後には、足元のドル高・株安・原油先物の一段安・エマージング国の経済減速を予想し、おまけにリセッションに突入するリスクを点灯させるとは、大胆です。米11月雇用統計に大して反応しなかったものの、負の連鎖が米経済を直撃すれば当然雇用の伸びも失速するとの判断でスルーを決め込んだかのようです。ストリートワイズの割安株への考察も、歯切れの悪さを感じます。バロンズ誌の読みは果たして的中するのでしょうか。米11月雇用統計などの堅調な結果に気を良くしてFedが仮に利上げ頻度を増やせば最悪の事態が発生しかねないものの、足元の動向を読み解くとそこまでタカ派に振り切る気配は感じられません。

(カバー写真:ECB/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年12月6日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑