商品先物とジャンク債、忍び寄る危機 --- 安田 佐和子

2015年12月14日 07:00

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今週のバロンズ誌、特集は2016年の米株見通しです。ストラテジストの予想中央値は2220で、足元から約10%の上昇を見込んでいました。業績が徐々に改善する過程で、利上げ局面を迎え金融セクターとIT関連がリードすると予想。その根拠は、本誌をご覧下さい。

当サイトが注目する名物コラムのアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、テーマは商品価格の下落とジャンク債です。以下は、コラムの抄訳となります。


原油先物をはじめ商品価格が下方向を探るなか、ジャンク債も売りを浴びる状況。投資信託で顕著に現れ、サード・アベニュー・フォーカスト・クレジット(TFCVX)は秩序だった生産を目指し顧客による換金を停止することで、投げ売りを回避するという未曾有の事態に陥った。おかげでジャンク債級の上場投資信託(ETF)は、年初来安値を更新する有様だ。

それでも、米連邦公開市場委員会(FOMC)は約10年ぶりとなる利上げに踏み切るのだろうか?

新年を控えた差し迫った動きなのか、あるいは遂に観念したのか、エネルギー関連企業や素材関連は配当引き下げをはじめ設備投資の縮小、人員削減を発表し始めている。例えば石油・天然ガス輸送大手キンダー・モルガン(KMI)は配当の75%引き下げに踏み切る。資源大手アングロ・アメリカン(AAL)は再編策として、鉱山資源の60%を売却するとともに、8万5000人のリストラを表明した。格付け会社フィッチは同社の格付けをジャンク債のひとつ上に設定、再編策は現金資産の急減を招くとしている。

資源大手グレンコア(GLNCY)も9日、2016年末までに純債務を180億~190億ドルへ縮小させるとし、9月時点の200億ドルから加速させる方針を打ち出した。2016年の設備投資も従来見通しの50億ドルから38億ドルへ削減するという。銅生産・資源大手フリーポート・マクモラン(FCX)もロンドン金属取引所(LME)で銅価格が2009年以来の水準へ下落するなか、手元資金を確保するため配当停止に加え銅生産の削減、長期的な設備投資見通しなどを削減させた。

グレンコア 、破綻リスクが取り沙汰された9月後半の安値は回避。
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(出所:Stockcharts)

一方で、化学大手のダウ・ケミカル(DOW)とデュポン(DD)は対等合併で合意。ギミー・クレジットのキャロル・レベンソン氏が呼ぶところの「化学界のブランジェリーナ」は、コスト削減効果を生み出すはずだが、レベンソン氏は投資銀行の手数料負担を発生しかねない。ダウデュポンと名乗る予定の新会社誕生の煽りで農業、素材化学、特殊製品の上場企業3社に分割する見通しながら、反トラスト法違反に引っ掛かる懸念が横たわる。また、デュポンによるケマーズのスピンオフ(分離・独立)は5億ドル計上する見通しだ。両社あ保有する176億ドルもの債務をいかに3社で分割するかも、定かではない。

石油メジャーのシェブロン(CVX)とコノコフィリップス(COP)は、配当額維持を目指しドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁が言う「あらゆる手段を講じる(do whatever it takes)」を実行中だ。シェブロンのジョン・ワトソン最高経営責任者(CEO)は配当額の堅持こそ「最優先事項」と掲げるように、そのためにはリストラのほか設備投資の削減、自社株買いの縮小、資産売却、債務拡大など方策を選ばないだろう。

コノコフィリップスは2016年の設備投資を77億ドル前後とし2015年の想定水準から25%削減、営業費用も今年の水準から6%縮小の77億ドルを見込み10億ドルの節減を目指す方針を示した。つまり、配当維持が最優先であることを意味する。

1930年代、新古典派の経済学者であるアーヴィング・フィッシャー氏は債務デフレのジレンマを説いた。いわゆるデフレ・スパイラルの父である同氏は、価格下落に伴い売上と利益が減少する一方、債務の元本と金利は縮小せず実際の負担が増大すると論じている。消費者にとって価格の下落はプラスである一方、企業にとってはマイナスというわけだ。

フィッチは投機的格級の企業における債務不履行率は向こう1年で4.5%とし、足元の3.3%から上昇を見込む。特にエネルギ—関連企業の間では、1999年時点の9.7%を超え11%に跳ね上がる見通しだ。石油生産州テキサスを管轄するダラス連銀のアドバイザーを務めた経歴を持つリシオ・レポートのダニエル・ディマルティノ・ブース氏は、エネルギー関連の状況は一段と悪化すると予想。コンサルティング会社マネー・ストロングの創立者でもあるブース氏は、テキサス州の石油生産業者のうち2割が80ドル台と足元の原油先物価格の2倍の水準でヘッジしていると指摘する。しかし数ヵ月後にヘッジ分は外れ業績を悪化させ、原油価格そのものの一段安を招きうる。

サード・アベニューの換金停止はジャンク債セクターに衝撃を与え、その他のファンドからの前倒し償還を促した。米調査会社EPFRによると前週、投資家はジャンク債ETFから38億ドルも資金を流出させていたという。サード・アベニューの資産は前週だけで7億8900万ドルへ減少、2014年半ばにピークを迎えた35億ドルとは隔世の感がある。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの米国ハイイールド債指数の利回りは5.75%から8%超に達した。

ジャンク債という領域で、清算という名の発作は不可欠なものだ。インサイダー取引が引き金となって1990年にドレクセル・バーナム・ランベールを倒産に導いたマイク・ミルケン氏に始まり、2008年の金融危機でも同様の事態に見舞われた。現代と過去との違いはジャンク関連ETFの誕生で、iシェアーズ iBoxx 米ドル建てハイイールド社債 ETF(HYG)とSPDRバークレイズ・ハイ・イールド(JNK)はそろって異例な出来高とともに2%下落した。

ダウは11日に300ドル以上も急落し、リスク・ポジションの巻き戻しが示されている。米国債のショート、リスク資産をロングにしていたヘッジファンドは遂に屈服しつつあるようで米国債は値上がりした。

ダウ、11月の高値を抜けなかった後で失速。
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(出所:Stockcharts)

FOMCが仮に利上げを見送れば、市場の混乱はさらに激しくなるだろう。マーケットが「我々が知らない何かを知っているに違いない」と判断するためだ。FF先物では11日の段階で利上げ織り込み度は72%だった。9日の78.5%を下回るものの、利上げを予想する向きが大勢を占める。

ストリートワイズは、Fedの利上げ開始でドルは下落に転じると大胆に予想する。NBAのシーズンが開始し、前年の覇者ゴールデン・ステート・ウォリアーズは23戦連勝の新記録を打ち出した。誰もがウォリアーズの敗北を予想しないように、市場関係者は誰もがドル高継続を見込む。しかし、ドル安に転じる時期は意外に早くやって来るかもしれない。

Fedが資産買い入れの縮小を決めた2013年以降、金融政策と市場の動きは乖離しておりドルは20%上昇した。ファンドトラストのストラジテスト、トーマス・リー氏は、1971年以降にFedが引き締めサイクルに入った11回において、欧州中央銀行(ECB)あるいは独連銀が緩和策を実行していたのは5回。金融政策の乖離は、中央値で17ヵ月に及んでいた。つまり、Fedと欧州の中央銀行との間で政策のダイバージェンスが発生するのは、珍しくない。しかもリー氏によると、利上げ開始から6ヵ月間でドルは中央値で6.6%下落してきたという。Fedが利上げした後、ドル安に傾いてもおかしくはない。


商品先物の下落が第二のリーマン・ショックをもたらすとの懸念を誘発し、米株をはじめリスク資産が急落中です。アップ・アンド・ダウン・ウォールストリートは悲観寄りなだけに慎重な見方へ傾いていますが、一方で米株市場のリスク資産であるウェラブル端末大手ゴープロは2%もの逆行高で引け、エネルギー関連の輸送需要低下が見込まれる鉄道関連のCSXやノーフォーク・サザンはS&P500の上昇銘柄トップ10にランクインしていました。おまけに商品先物が2009年以来の安値を続々とつけるなか、前週に追加利下げを実施したNZドルのほか豪ドルなど資源通貨が買われています。投機的格級に引き下げられたブラジルでさえレアル安にブレーキが掛かり始め、株式指数ボベスパですら11日は0.8%安にとどまっていました。

確かにエネルギー関連企業のデフォルト増加リスクは根強く根拠のない楽観は禁物でしょうが、足元の相場急落はクリスマス・ラリーを狙い売り大手投資家が売り仕掛けしてきた可能性も微かに残る。古くは1815年のワーテルローの戦いで、英国勝利のニュースを事前に掴んでいたネイサン・ロスチャイルドが英公債に大量の売り仕掛けを駆使した後で買い戻し、莫大な利益を上げた例がありますよね。

(カバー写真:Heating Oil/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年12月13日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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