「社員をうつ病に罹患させる方法」は明確な違反である

2016年01月04日 06:15
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社労士である榊裕葵さんのエントリー、「社員をうつ病に罹患させる方法というブログの背景」を読ませていただきました。榊裕葵さんは企業向けのサービスを展開する社労士ですが、本件は労働者側の意見も集約することが望ましいと思われます。私はコンサルタントとして労使双方の経験があるため、その視点を踏まえて論じてみます。

●最大の問題はストレスチェック普及の妨げをしたこと

当該社労士は愛知県社会保険労務士会の聞き取りに対する回答として、NHKでは次にように報道しています。

=「世間をお騒がせしたのは申し訳ないと思っています。一部、筆が滑って過剰な表現はありましたがブログに書いた趣旨は間違っていないと思います」(NHK NEWS Web 12月30日)

「ブログに書いた趣旨は間違っていないと思います」というコメントが、当該社労士の姿勢を顕著にあらわしています。社会保険労務士法第一条では、その目的を「この法律は、社会保険労務士の制度を定めて、その業務の適正を図り、もつて労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するとともに、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資することを目的とする」と定められています。

当該社労士は、「合法パワハラという不適切発言」「適切な理由はでっち上げましょう」「社員が自殺をしても問題ない」「ダメージを与えることが楽しい」「精神疾患、うつ病は労働能力に瑕疵、きずのある状態」との問題発言を繰り返しています。社会的影響度を鑑みれば、いささか不十分な内容です。

なお、最大の問題は、ストレスチェック普及の妨げをしたことであると考えています。内閣府の調査によれば、平成26年中における自殺者の総数は25,427人と公表されており、年間に約3万人が自ら命を絶つという事実が存在します。これらの状況を鑑みれば、ストレスチェック導入は待ったなしの状態だったともいえます。

厚労省はメンタルヘルス対策が急務になっている背景を受けて、平成26年に「ストレスチェック義務化法案(通称)」を通常国会に提出し、関係各所との修正協議を重ねて可決・成立した経緯があります。本法案は厚労省が労働者保護を目的に制定したものであることを理解しなければいけません。

しかし、労働者は受験の際の結果や個人情報が本当に守られるのかという不安を感じています。さらに、高ストレス者と判定された場合、人事上の不利益を被るのではないかと疑心暗鬼を感じています。各企業は安全衛生委員会を機能化させ、理解を深めようとしている矢先の出来事ですから、理解の妨げになったことは否めません。

●我が国において解雇規制は非常に厳しいのか

これは企業の労使関係に起因することなので一概に論じることはできません。大企業は社会的責任が生じるため、ブランドイメージを失墜させる違法行為には舵を切りにくいものです。しかし、現実に目を向ければ、特に中小零細企業クラスでは不当労働行為が横行してます。その内容は、今回問題になっている当該社労士の手法に酷似しているものです。

精神的に追い詰める手法は際限なく存在します。一つの例を紹介します。まず最初はターゲットとなった社員を部署内で孤立させます。社長直轄の肝いり特命部署を設置し対象となった社員を異動。業務は新規開拓のみ。給与は基本給を賃金テーブルの最低まで下げて報酬部分を厚くし一見すると成果を上げれば多額の報酬が貰えるような錯覚を与えます。しかし新規開拓のみですから簡単に成果が上がるような性質のものではありません。

次に、成果が上がらないことを理由に業務命令違反の処分が下されます。同時に降格・減給もあわせて実施されます。社員のモチベーションが減退するなどして業務に支障を及ぼしてきたら、服務規程違反による処分も下されます。懲戒処分でも職に留まる場合は懲戒解雇をチラつかせます。

労働契約法では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」(第16条)と規定されています。懲戒解雇は労働者に対して行う制裁としては最も重い処分です。慎重な扱いが求められますが、違法の有無を争うには法廷闘争に突入するため、戦うまでもなく解雇を受け入れてしまうのです。

労働審判で法廷闘争に突入しても会社に解決する意欲がなければ、本訴に移行し地裁判決まで約2年。高裁で更に約1年かかります。多額の弁護士費用も必要になります。勝訴を勝ち取っても会社に払う意識が無ければ賠償金は取れません。悪質な場合は資産を移して計画倒産で終了。会社よりも労働者が被る負担のほうが大きくなる危険性があることも念頭に置かなくてはいけません。

よって、いま議論になっている解雇の金銭的解決という論調には一定の意味があると考えられます。解雇規制の緩和と合わせて、労働者に対するセーフティーネットが拡充されることが大前提になります。

●ストレスチェックが労働者と企業を結びつける働きに

裁判に負けても支払いに応じない事例は多く、法務省によれば年間約5万件の強制執行の申し立てがされています。強制執行しても確実に取り立てができるという保証はなく、勝訴しても泣き寝入りを余儀なくされるケースは少なくありません。このような、「究極のブラック企業」には、労働者は協力者がいない限り太刀打ちできません。社会全体で対処する仕組みが必要でしょう。

なお、ストレスチェックは会社にとって負担ではなく、会社が永続的に発展していくための従業員との関係性を見直す機会でありチャンスと考えています。会社にとって、これまでは見逃していたような問題点や改善点が明確になれば、効果的な打ち手を選択することが可能だからです。

会社と労働者の相互理解が高まればメンタル疾患は予防できるものと考えています。ストレスチェックの議論がさらに高まり、双方の心の病に対する理解度が促進されることを期待したいと思います。

尾藤克之
経営コンサルタント

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尾藤 克之
コラムニスト/経営コンサルタント

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