議員の育児休業問題の議論でモヤモヤする理由 --- 小紫 恵美子

2016年01月15日 06:00

ikukyuu
年をまたいで、「国会議員が育児休業をとってよいのかどうか」という議論が続いています。まずニュースが出たときの、コメント欄にあふれる反対意見のオンパレードに、強い違和感を抱きました。議論になることはいいことではありますが、日本では子育てのために一生のうちのひと月すら、休業するということに対してこれだけの「悪」のレッテルがはられているのか、と。その後、反対されている理由を読んでいき、確かにそうかもしれないけれどもなぜか釈然としない・・・こんな風にモヤモヤする理由を考えてみました。

■職責の重さを理由に休むことを認めないという「正論」
釈然としなかった理由のひとつめがまずこれです。今まで読んできたメディアで主な反対理由を整理してみると、
①国会議員は自営業。もともと育休制度などないのに加え、歳費もその間出ている。甘えている。
②歳費(議員さんの活動のための費用)を税金から賄っているんだから、休むな。休むなら返せ。
③男性の国会議員がとるなんて聞いたことがない。妻がとるのだからそれに任せろ(ないしは夫がやることなどない/お手伝いさんにやらせたって子どもは育つ)

私自身、自営業で子育てをしている身ですので、①や②について、感情的になることは理解できます。事実、以前体調を崩して一日休んだだけでも、まるまるその日の収入が本当にゼロになる、ということも経験しております。多額の歳費という形で保証されている議員さんたちに比べれば、自営業の多くが、こうして自分のみならず家族の体調管理をしながら仕事の成果を常に求められる決断の連続、というプレッシャーを常に感じながらなんの収入保障もなく仕事をしているわけです。こうした多くの自営業者から見れば、確かに国会議員は一定期間とはいえ、収入保証のもとに働けるのだから、休むのはいかがなものか、しかもその出所が税金だ、というところで問題視されるのかもしれません。

これに対し、憲法や国会法、国会議員資産公開法等によれば、国会議員には応召義務と行為規範の遵守義務、資産公開の義務以外には、特に「課せられる義務」についての記述が見当たらないこと(仕事はあくまでも義務ではなく権利である)、また、歳費については憲法で定められた権利であり、労働の対価ではなく国会議員の行動の自由を保障したものであることなどから、上記の①や②について、必ずしも批判の理由が的を射ているとは言えないということがわかります。

③についてはまさか、女性活躍推進をうたう政党の議員さんたちから出てきた発言ではありませんよね?矛盾以外の何物でもないので、ここでは言及いたしません。

そもそも、私たちにとってどんな状態であれば根本的に「よりよい状況」になるといえるのか、といえば、それは「選択肢があること」なのではないでしょうか。どんな仕事をしていても、子どもの誕生の場合には、最も大変な時期である産まれたての時期に、夫婦で育児によりそうことができるという選択肢をとろうとすればとれること。すでに始まっている急激な少子高齢化社会においては、むしろ育児に限らず、家族の介護、家族や自分の病気との付き合いをしながらも働き続けることができる、という選択肢がとれるようにしておくことだと思うのです。

最終的にとるかとらないかを選択するのは個人の自由としても、議員だから、とか果ては管理職だから、店長だから、というその「職責」の重さを理由に選択肢をなくす、ありえない、と糾弾してしまうことは果たして正しいのでしょうか。

基本的に、自営業であれば、24時間365日、仕事のことを考え続けている人が大部分でしょう。これは国会議員、管理職や店長といった人たちにも共通のことだと思います。オンとオフはよほど意識しなければ区別がつけられません。しかし、意識とは別に、うちの子どもだけ熱を出さない、自分も家族も身体を絶対に壊さない!もありえません。ロボットではないのですから。常にそうしたリスクも考えながら仕事をしなくてはならないというプレッシャーを抱えたまま仕事をしているのです。職責は、正直重い。でもそれを理由に休みをとるな、というのは少々乱暴すぎはしないでしょうか。

■育児は仕事よりラクで、育休は「休めるんでしょ?」
という大きくて深い誤解

上記以外にもさらにもうひとつ、違和感の原因、戦後累々と続いてきた労働観が議論の底辺に横たわっています。

-仕事が大事で、家のことなんて(外で働いてない)妻にまかせておけばいいんだ
-産まれた後に男がやることの余地は少ない。妻に任せて働くことこそ男がやるべき仕事だ
-お金をもらっておいて「休む」なんてとんでもない

こうした意見の背景にあるのは、仕事が一番大事で、家庭のことはプライベートだから仕事より楽なはずだし優先させてはならない、という「暗黙の社会共通ルール」なのではないでしょうか。育児「なんて」仕事よりも楽で、そのために休むなんて、楽できていいよね、というのはあまりにも大きな誤解です。

一人目の育児は毎日が初めての経験の連続ですし、そもそも多くの赤ちゃんは産まれてすぐには睡眠リズムが定まらないので、特に授乳する母親は眠れません。私は最初の一年で「休んでいた」などという感覚はみじんもありませんでした。むしろ、仕事をしているほうがどんなに楽かと思った日もあったくらいです。「喫茶店でひとりでコーヒーが飲みたい」というのが最初の育児にぶつかった当時の私の最大の願望だったことを思い出します。

それくらい、とにかく家族をはじめ、人の手がありがたく、助けになる。でも、当初働いていなかったこともあり基本的には自分が育児をすることは当然だと思っていました。仕事を始めたあとも、この「暗黙の社会共通ルール」を当たり前だと思っていましたし、子どものことを理由に仕事を休む、あるいは遅れるということは極力、避けてきました。

■働き方を変えなければみんなが苦しくなる一方。
仕事での信頼を家族を理由に裏切るようなことは基本的にあってはならないことです。だからこそ、少子高齢化が加速度的に進む私たちの国ではもう、実際の社会環境に会うように、働き方を変えなければなりません。育児中の女性のみならず、介護、病気治療など、一時的にでも長時間働けない、様々な事情を抱えた人たちがどんどん増えてきます。こうした人たちが生産性の高い仕事を継続できるようにしなければ、経済活動を継続することが難しくなってきているのです。

今までは、子どものことも、家族が誰か倒れても、妻に任せればよい、そういう時代でした。でも今は共働き世帯のほうが専業主婦世帯を上回ってきています。妻のほうが大黒柱な家庭もあるくらいで、一概に妻にまかせることはできません。それに、前回2010年の国勢調査ですでに、35歳から39歳の男性の未婚率は増え続け35%を超えています。このまま結婚する人が劇的に増えなければ、5年後10年後、職場である程度の管理職になっている男性のうち約4割が「悪い、今日、親がデイサービスから16時半に帰ってくるから帰らないと」という状況になる可能性がある、ということです。すでに、女性だけの問題ではなくなっています。

そんなときに会社に張り付いて残業しなければ仕事ができない仕事の回し方をしていたら、それこそ、グローバル競争に勝って業績アップ・・・など絵空事です。これは経営戦略、人材戦略の問題で、福利厚生の話ではないのです。すでに企業の中には、こうしたことに気が付いて働き方を変える施策を進めるところも出てきています。

ぜひ、国会議員の今回の議論に賛成している議員の方も、反対している議員の方も、もうこの国が待ったなしの状況になっていることを「実感」(わかっているだけでは不十分です)していただいて、ぜひ今回の件を一議員の休業取得で云々の議論にとどまらせず、「長時間働けない人たちが増えてくる超少子高齢化社会を生きる私たちが、それでも仕事を続けながら、どうやったら企業を成長させることができるか」ということが問われているのだという現状をもっとシビアに見てほしいと思います。そして、議員さんたちには、休業して最初の育児がいかに大変かを特に男性に納得してもらって、真に女性が、ひいては長時間労働ができない人たちも働き続けられるような仕組みをつくる政策に反映させてほしいと考えます。子どもを一人産むごとに労働力を一人失うような国でいられる余裕はもうないのです。

育休は、「休む」ためにとるのではありません。育児しながら働き続ける体制を整えるためにとるものです。育休など、各種の休業制度は、プライベートでとる「休息や休暇」ではなく、働き続けて国や企業の成長を少子高齢化の中で支えていく礎になりうるもの。これからは70歳くらいまで働き続けるのに、「適度に休業すること」も、家族と暮らしながら、高齢になって自分の身体と折り合いをつけながら働き続けることには絶対に必要だからです。

この議論が一議員の休業の可否で終わらないことを強く、強く望みます。

小紫恵美子 株式会社チャレンジ&グロー 代表取締役/OfficeCOM代表 中小企業診断士

《参考記事》
■「大丈夫」じゃないのはお母さんだけじゃない。 (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42520618-20141222.html
■国会議員の育休は本当に不公平なのか(加藤梨里 ファイナンシャルプランナー)
http://sharescafe.net/47362621-20151229.html
■日本は「良いお母さん」のレベルが高すぎる(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/39261507-20140608.html
■「女性活躍推進」すら着手しない企業で成長はムリ。(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42290659-20141208.html
■「ニッポンのお母さん」はレベル高すぎ?OfficeCOM(小紫恵美子)ブログ
http://officecom-ek.com/?p=206


この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2016年1月12日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑