アルプスの小国で「大統領」は必要か --- 長谷川 良

2016年01月18日 13:00

オーストリアで4月24日(暫定)、大統領選挙が実施される。予想された候補者の名前がここにきてほぼ出てきた。社民党出身のハインツ・フィッシャー現大統領は2期12年を終え今年7月、退陣する。

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▲オーストリア大統領府、2013年撮影

大統領選に手を挙げた候補者を紹介する。与党第2党の国民党はアンドレアス・コール元議会議長(74)を擁立。野党「緑の党」はマルクス経済学教授のアレキサンダー・バン・デ・ベレン元党首(72)を予想通り立ててきた。紅一点は元最高裁判所長官のイルムガルド・グリス女史(69)だ。ケルンテン州の銀行不正問題の議会調査委員会議長で名を挙げた。3人の候補者の中で最初に出馬表明をした候補者だ。同国初の女性大統領を目指す。最後は社民党の候補者ルドルフ・フンドストルファー社会相(Rudolf Hundstorfer)社会相(64)だ。野党第1党「自由党」は今月末までに独自候補者を擁立する方向で検討中だ。

候補者の擁立プロセスで予想外だったのは、最有力候補者と見られてきたニ―ダーエスターライヒ州知事のプレル氏(国民党)が「大統領職は自分の人生計画には入っていない」と述べ、大統領選に出馬しないことを表明したことだ。コール候補者はプレル知事の代行として国民党が急きょ担ぎ出した候補だ。一方、フンドストルファー社会相は、失業率が上昇し、その対策に苦戦している時に職替えだ。国民の中からは、「社会相で実績を挙げられなかった政治家が今度は大統領か……」と皮肉を持って受け取られている有様だ。

アルプスの小国オーストリアの大統領は名誉職で、政治実権はほとんどない。外国からの貴賓、ゲストを迎える一方、議会で成立した法案に署名する仕事がほとんどだ。その一方、政党の垣根を超えた国民の統合シンボルの役割が期待されている。
 
今回の大統領選の争点は難民問題だ。同国では昨年約9万人の難民。移民が殺到。今年はその数は12万人に膨れ上がると予想されている。隣国ドイツが100万人を超える難民・移民の殺到でその対応に苦慮しているように、オーストリアでも難民受入れの制限を求める声が高まっている。ドイツとオーストリア両国では大晦日の集団婦女暴行事件に多数の難民申請者が関与していたことが判明し、難民政策は歓迎政策から制限に国民の心は変わってきている時だ。

国民党のコール氏は「難民の制限はやむを得ない」と強調する一方、バン・デ・ベレン元党首やフンドストルファー社会相は難民の受け入れを支持する出身政党の主張を繰り返している、といった具合だ。

ところで、オーストリアでも難民受入れの制限を主張する極右派政党「自由党」は躍進中だ。昨年実施されたオーバーエスターライヒ州議会選、ウィーン市議会選ではいずれも大躍進、政権奪回まで急接近してきた。

そこで「自由党政権が誕生した場合、同政権を承認して、政権発足に関する任命書に署名するか」という質問がメディアから大統領候補者に提示されている。「緑の党」のバン・デ・ベレン候補者は、「私が大統領になったら自由党政権を承認しない」と強調する一方、コール氏は「署名する」と答えている。グリス女史の場合、自由党が党の正式候補者にするかを検討している人物だ。だから、自由党政権発足を拒否することは考えられない。

ただし、同国の憲法では、大統領は議会選で過半数を獲得した政党の政権発足を拒否する権限はないから、バン・デ・ベレン氏の答えは非現実的だ。

2000年2月、国民党シュッセル党首が自由党と連立を組んだ政権を発足した時、欧州連合(EU)は極右派「自由党」の政権参加を拒否、オーストリアに制裁を課するという前代未聞の状況が生じた。当時のトーマス・クレスティル大統領は大統領府で非常に不満といった顔で署名に立ち会った状況を今でも思い出す。

いずれにしても、国民の間には大統領職の廃止を主張する声がある。フィッシャー大統領の給料はオバマ米大統領より多いことは有名だ。「緊縮政策が義務の同国で名誉職に過ぎない大統領を抱えることは贅沢だ」といった厳しい指摘が飛び出しても不思議ではないわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年1月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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