「管理職になりたくない」部下をもったなら --- 後閑 徹

2016年01月24日 06:00

kanri
「結局、あなたはいろんな困難を乗り越えてきたサバイバーなのですよ。僕(達)には無理です。」「仕事で成長しなくても良いです。現状維持で十分なのですけど。」

年末、「働くことの意義」をテーマとしたファシリテーション(会議や合意形成・相互理解の技法)・イベントでの「対話」の中で、30代前半位の男性たちからこんな言葉を投げかけられた。

■「管理職になりたくない」を責めることができるか
果たしてこれは極端な声なのだろうか。2015年8月の㈱クロス・マーケティングによる「20代~30代のビジネスパーソンにおける出世昇進意識に関する調査」では、「出世の意向なし」の合計は59.2%(出世したくない15.8%、出世にあまりこだわっていない43.4%)となっている。その理由は、「ワークライフバランスのとれた生活がしたい」:46.6%、「責任の範囲が広がるのが嫌」:38.4%、「出世しても給与と年収がそれほど上がらないから」:34.0%。

昨年末に出された日本生産性本部の「新入社員 秋の意識調査」でも「管理職になりたくない」と答えた女性は実に73%。その38.5%は「自分の自由な時間をもちたい」が理由だ。また、職場に関し、「残業が少なく、平日でも自分の時間をもて、趣味などに時間が使える職場」を好むとの回答は設問設置以来最高(全体の81.1%)を記録した。

ワークライフバランスを求める時代、ワークの比重が相対的に低くなるのは当然だ。ワーク一辺倒だった頃の成長モデル・育成モデルを押し付けること自体が不合理である。最早、仕事だけが自己実現・成長の場ではない。仕事を通じての成長に疑問をもつ彼らを責めることは出来ないだろう。

■管理職への4つの提案
しかし、企業組織は継続(going concern)を旨とする。その経営の一端を担う者として、管理職は組織を担う次世代の育成にも取り組まなければならない。また、部下を使って間接的に目標達成を図るというマネジメントの本質からも職場における部下の育成は不可欠である。

では、如何したら良いか。人材・組織開発の観点から以下の4点を提案したい。

(1).成長機会の付与と振り返りの支援
体験は、それ自体を振り返って意味づけ・価値づけすることにより経験へと昇華し、汎用性を獲得する。ポイントは、体験を多角的に見て本人が明確に言語化する点にある。言語化する過程で認識は深まり、視野の広がりを得て、その視座を蓄積していく。それが経験から「学ぶ」ということだ。そして、その学びが成長の喜びにつながる。

上司には、本人が気づかないであろう視点を提示するなどして、振り返りを支援してもらいたい。困難を自力で乗り越えさせることだけが成長の方法ではない。

(2).「対話」による風通しの良い職場環境を作る
経営学者チェスター・バーナードの組織成立・存続3要件(共通目的・貢献意欲・コミュニケーション)にも挙げられるコミュニケーションだが、案外疎かに(苦手に)されているものもコミュニケーションである。

優劣を争う「議論」ではなく相互理解を深める「対話」を心がける。しかし、お互いが理解を深める「対話」は自己開示を伴うため、そう簡単に出来るものではない。気楽に真面目な話が出来る職場風土や関係・「場」を作る必要がある。そして「対話」を通じて、組織・職場のビジョンと個人のビジョンを擦り合わせ、貢献意欲を引き出してもらいたい。

(3).自分の「隠れたカリキュラム」を知る
社会学・教育学に、教師が制度・慣行・態度などにより本来意図していない内容を教え込んでしまう「隠れたカリキュラム」という概念がある。例えば、学校の名簿が男性・女性の順に並んでいることにより「男性が優先、女性は後」という価値観を子どもが無意識のうちに学んでしまう、という例がこれだ。

同様に、管理職は自分が「隠れたカリキュラム」を発していることを認識してもらいたい。仕事に追われることで疲弊する管理職は、無意識のうちに「管理職は割に合わない」「管理職は苦しいだけだ」というメッセージを発していることになる。

人は対象を自分に同化させながら「自分にその役割遂行が可能か否か」の判断をする。上司は、管理職のマイナス面のみでなく、人と情報の連結点に存在する管理職の遣り甲斐や組織のダイナミズム・魅力を発信するよう心がけてもらいたい。

(4).プレイングマネージャーであることを活かす
「ひと昔前の管理職とは違って、今の管理職は自らも特定の業績に責任を負うプレイングマネージャーだから…」という声をよく聞く。確かに、職場運営をしながら自ら業績を上げ、その上、部下の育成もしなければならないというのは大変だ。

しかし、山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という言葉は、現在も未だ生きている。部下の傍らに立ち同じ方向を見ながら「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ」がやりやすい環境を活かそう。デスクを挟んで対面し、「言って聞かせる」だけが育成手段ではない。

■最後に
「実はどんな困難を今まで乗り越えてきたのか聴いてみたかったのですが、辛いことだったら思い出させては悪いと思って聞けませんでした。」「対話」の終了後、参加者の中の一人にこう言われて私は驚いた。「成長しなければいけませんか」という彼らは、同時に他者に心を寄せ、繊細な気遣いをする者でもあった。

「最近の若い者は…」と対象を類型化し、「俺たちの若い頃は…」と自分のやり方を押し付けることにどれだけの妥当性と有効性があるのだろう。環境の変化に柔軟に対応できず、自らの価値観を押し付ける年長者はやがて老害といわれることになる。

マネジメントとは本来、組織と組織外の境界、自部署と他部署の境界に身を置き柔軟な意思決定をするものである。「管理職になりたくない」部下を育成することは、管理職自らその柔軟性とマネジメントスタイルを振り返る良い機会ともなるはずである。

【参考記事】
■女性活躍の本質 ~「男性と違う何かをする必要はない」を書いて改めて思うこと~(後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://blog.redesign-a.com/?eid=101
■女性活躍が進むために(後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://blog.redesign-a.com/?eid=79
■「男性と違う何かをする必要はない」(NBA女性コーチ)は正しい (後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/47154584-20151209.html
■マタハラ降格判決から学ぶ組織人間の危険性(後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/46987171-20151123.html
■女性活躍推進のためにはOSの更新が必要です (後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/46479264-20151005.html


この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2016年1月19日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。

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