日銀のマイナス金利、「為替操作国論争」の火種に? --- 安田 佐和子

2016年02月01日 10:45

nichigin
バロンズ誌、特集に銀行株を取り上げます。エネルギー関連企業の貸倒引当金が積み上がりつつあるとはいえ、財務環境はこれまでにないほど良好であるにも関わらず、2011年以来の割安な水準で取引されている状況。大手米銀を中心に、20%上昇すると大胆に予想しています。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートは、2月1日のアイオワ州党員集会と日銀のマイナス金利導入です。抄訳は、以下の通り。


アイオワ州の人々は頑固なだけでなく、予想が困難なことで知られる。党員集会がまさに格好の例だろう。ドナルド・トランプ候補は看板キャスターのビル・オライリー氏の嘆願にも関わらず、フォックス・ニュースが放映した1月28日開催の共和党大統領候補者討論会に出席しなかった。ワシントン・ウォッチャーであるホライゾン・インベストメンツのグレッグ・バリエール氏は「トランプ候補が不在だったため、ジェブ・ブッシュ候補にとってはプラスだった」と振り返る。とはいえ、2月9日に予定するニューハンプシャー州での予備選で2位にならなければ、ブッシュ候補にとって選挙戦継続は困難になりかねない。マルコ・ルビオ候補に対しバリエール氏は「何か仕掛けてくる」と予想したが、つまるところ「トランプを打ち負かすことが第一」で、トランプ候補も「了解済み」とされる。民主党としてはアイオワ州党員集会で若手層が中心になってバーニー・サンダース候補を支え、ニューハンプシャー州予備選へ弾みをつけることも想定しておきたい。

番狂わせが予想されるなか、億万長者でニューヨーク前市長のマイケル・ブルームバーグ氏が無党派としての出馬を検討中だという。仮に共和党がトランプ候補を、民主党がサンダース候補を選出すれば、政治的な陰謀が渦巻くに違いない。

共和党大統領候補の討論会より、1月28日の夜にサプライズを与えたのは日銀の政策決定だろう。黒田総裁はほんの1週間前に欧州中央銀行(ECB)やスイス中銀の政策を踏襲しないと発言していたにも関わらず、1月29日にマイナス金利導入を決定した。クリントン候補の夫が大統領だった頃にゼロ金利をふらついていた短期金利がマイナスに下振れするとあって、世界の金融市場は大いに反応。為替市場ではドル円が119円割れから2%近くもドル高・円安に振れ、121円台に突入したものだ。2%の変動率は、日経平均の2.8%高、香港のハンセン指数の3.0%高と比べると穏やかだったとも言える。ダウとS&P500は2.5%高、ナスダックも2.4%跳ね上がった。

米株を含む世界の株式相場の上昇に、日銀あり。
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(出所:CNBC、WSJ)

明らかに、今回の決定は日本企業に有利になろう。輸出競争力が高まり、海外での業績を引き上げるためだ。また、円安はキャリー・トレードを活発化させるに違いない。ただ黒田総裁の決断が日本にどれほどの勢いを与えるかは、疑問が残る。既にボールは、安倍首相に委ねられた。ここからは、どのように構造改革を進め成長につなげるのかが問題だ。

一方で、トランプ候補は対米貿易黒字を抱える中国や日本を槍玉に挙げ不正に為替操作を行っていると糾弾する。ただ、実際に人民元や円が過小評価されているかは不透明だ。むしろ人民元は対ドルで上昇してきたため過大評価されているだろうが、日銀の決定が為替戦争の激化を招きかねない。円の2%下落はアジアの競争相手に波及効果を与え、特に中国に難題を突きつけよう。

中国当局は、世界の市場で人民元を強く安定的な通貨とすべくプライドをかけ大いに注力して来た。イングランド銀行に独マルク・ペッグを断念させ、中国のハードランディングを予想する著名な投資家ジョージ・ソロス氏すらも攻撃する。中国は資本流出を阻止すべく、対抗措置を講じてきた。2015年に1兆ドルと試算される資本流出には、人民元安を懸念した中国企業による外貨建て債務返済前倒しに加え、ハイアールによるゼネラル・エレクトリックの白物家電部門買収といったフローが含まれよう。一番の要因は中国人による資本流出で、ロイターはHSBCが米国在住の中国人向け住宅ローン承認を抑制し始めたと報じている。

同時に中国当局は国内での流動性確保に努め、海外では元安修正を狙っている(筆者注:オフショアでのドル売り・元買い介入を指す)。このような矛盾した政策は不可能で、持続的ではない。日銀が緩和策に踏み切り、かつファンダメンタルズが示すように人民元が一段安を迎えれば、米国での大統領選挙に影響を及ぼすだろう。日銀のマイナス金利導入決定後に世界の株式市場は上昇で反応したが、為替操作によって米国の労働者が被害に遭うとみなせば、アイオワ州とニューハンプシャー州の勝者が日銀の決定を歓迎する可能性は低い。

カナダ生まれのイングランド銀行(BOE)総裁は、英国が利上げを開始する段階ではないとの見解を明らかにした。恐らくカーニーBOE総裁の判断は正しいだろう。BOEの前を走っていたFedは利上げを開始したとはいえ、成長は芳しくない。米10-12月期国内総生産(GDP)速報値はたったの前期比年率0.7%増で、個人消費が2.2%増だったとはいえ牽引役であるサービスの伸び率の47%は医療が占めていた。FF先物市場は年末までに辛うじてあと1回の利上げを織り込む程度であり、2015年12月に利上げを開始した当時の予想「年4回」から着実に遠ざかりつつある。

ストリートワイズは、今年は2008年の二の舞にならないと主張する。S&P500は過去最悪のスタートを切り、中国景気減速への懸念は深まり、原油相場は過去2年間に65%も沈んだ。米国のリセッション入りとS&P500の30%下落を懸念するMKMパートナーズのマイケル・ダーダ主席エコノミストは、Fedの利上げを1937年当時になぞらえ「間違いだった」と振り返る。一方で、RBSのクレジット・アナリストであるアルベルト・ガロ氏は、サブプライム問題を引き金に金融危機に陥ったような悪夢を予想していない。原油安によりワイオミング州、ノースダコタ州、テキサス州といったGDPの5%を石油産業に頼る州こそ困難に直面する見通しながら、銀行は単純にエネルギー企業への貸出を抑制する程度にとどまり、リセッション入りしても過去の例を逸脱しないと見込む。

——アップ・アンド・ダウン・ウォールストリートは、日銀の政策が為替操作国議論の火種になりかねないと煽ります。中国によるオフショア・レートを狙った元買い・ドル売り介入が持続的でないとし、人民元安を加速させると示唆する有様。米大統領選の視点で言えば通貨戦争の加速は、白人の割合が92.1%で1人当たり所得が2万7027ドル(全米平均は2万8155ドル)と比較的低所得者層が多いアイオワ州であれば、トランプ候補を選出するきっかけを作る余地を残します。ただ白人の割合が94.0%とはいえ1人当たり所得平均が3万3134ドルのニューハンプシャー州は富裕層が多いだけに、マイナス金利導入というカンフル剤でリスク・オン相場を演出した日銀を敵視するかは不透明ですよね。ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙が報じたようにアイオワ州は2000年にジョージ・W・ブッシュ、2008年にマイク・ハッカビー、2012年にリック・サントラムとブッシュを除く正式候補を外してきた半面、ニューハンプシャー州は過去5回当てて来たという実績の違いもあります。

ストリートワイズは根拠に欠ける論理展開ながら2016年は2008年に非ずとし、強気姿勢を維持してきました。日銀のマイナス金利導入に加え、FF先物市場で年内利上げが約1回という状況であれば、悲観し過ぎる必要はないのかもしれません。

(カバー写真:yt_siden/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年1月31日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。


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