射倖契約とモラルハザード

2016年02月09日 11:30

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射倖契約は、偶然の事象の生起に関し、契約当事者の一方が、他方に対して、あらかじめ定めた給付の履行義務を負うものであって、基本的に、犯罪である。


保険、保証、オプションなど、金融制度的に合法化されている射倖契約については、合法化の要件として、偶然の事象の統計的制御可能性を前提として、高度な規制により、取引条件の適正性が維持されていると考えられる。また、オプションのように、市場取引も行われているものは、市場原理によって、価格の適正性が保証されているわけだ。

しかしながら、保険、保証、オプションなどの多様な取引の全てについて、取引価格が適正であるかどうかについては、十分な注意がいる。例えば、オプションを組み込んだ複合商品である仕組み債や仕組み預金については、内包オプションの価格の適正性が確認されない限り、正当な投資対象にはなり得ない。今日、多種多様な複合商品が存在するが、それらに投資するときは、常に要素に分解したうえで価格の適正性を確認することが必要である。

また、理屈上は、不確実性の統計的制御可能性のないものについても、射倖契約は成り立ち得る。この種の射倖契約には、特に注意を要する。代表的には、保険の理論でいう有名なモラルハザードの問題である。

基本的に、人間の意志に基づく行動は、統計的に制御し得ない。これが、モラルハザードである。例えば、普通の死亡は経験生命表に従うが、自殺は特殊だ。故に、生命保険契約には、自殺免責が定められている。そもそも、自殺が偶然かどうかは疑問である。

債務者の弁済行動も難しい分野だ。2008年の金融危機の原因となったサイブプライムというのは、低所得者の高額な債務について、統計的制御が可能であるとの欺瞞的偽装のもとにつくられた投資対象であった。実際には、堂々と開き直りの債務不履行の宣言がなされれば、どうしようもないわけだ。古典的な賭博と八百長の関係も同じである。要は、偶然性自体に、疑義があるわけである。

故に、射倖契約のうち、合法的なもので、かつ取引条件の公正公平性があるものでも、このモラルハザード的危険を含むものは、正当な金融取引の対象ではない。ちょうど、サブプライムが正当な投資対象ではなかったように。しかし、この判定は、いかにも難しい。サブプライムのように、高度な統計の偽装のもとで、投資対象としての適正性も偽装されていた(高い格付もついていた)場合には、判別は困難であろう。

信用保証契約の類型に属するもの(クレジットデリバティブなど)も、サブプライムと同様なモラルハザードの危険が忍び込みやすい。保険にも、理論的には多様なものを付保対象になし得る以上、注意が要る。要は、モラルハザード的要素を直観的に識別できるだけの知的な訓練と経験と、そして何よりも、良識が必要なのである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
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