基軸通貨 米ドルの行方

最近の激しい為替の動きで投資などに興味ない方にも否が応でも「円高」の声が聞こえてしまう状況かもしれません。

今日、午前中のニューヨーク市場では円が115円半ばという水準まで買われ(というより、米ドルが売られ)株も散々な状況となっています。ニュースのヘッドラインに「原油安」を理由にしているものも散見できますが、原油はNY時間午前中は30ドル台を維持しており、原油安とドル安は結びつかない気がします。

では何か、といえば高すぎたドルの価値の調整期に入った可能性があります。トリガーはいくつかあると思いますが、目先はイランの原油輸出がユーロ建ての意向のニュースは大きなインパクトがあろうかと思います。

かつて、イラクで原油をユーロ建てにしようとしてアメリカが猛烈ないじめをしてドル建てにした経緯があります。中東とアメリカの関係も原油のドル建てという基軸通貨としては絶対前提の取引がそこにありました。中東とアメリカの関係は「世界の警官」だけではなく双方にウィンウィンの重要な関係が維持できるカギとなる取引が存在していたわけでドル建ての原油取引はその重要な柱でありました。

ところがオバマ大統領が「世界の警官ではない」と言い放ち、自国でシェールオイルが産出され、カナダとの長年のパイプライン構想を否決しました。「カナダの重油は汚いし、アメリカでパイプライン事故が起きたら環境に重大な影響が及ぶ」というステートメントはシェールオイルで潤う前提がなければ有り得ない発言であります。言い換えればオバマ大統領はアメリカという国をすっかりトランスフォーム(変身)させてしまったわけです。

では、基軸通貨、ドルはどうなるのか、ですが、アメリカ国内では「強すぎるドルがアメリカ経済を弱体化した」という声は根強く、どうやったらドルは弱くなるのか、と考えている節があります。ではなぜ、利上げをしたのか、といえばそれはそれでやらざるを得なかった事情があったわけで(ここでは長くなるので説明しません)、今後、FRBがホイホイ利上げを継続するとは考え難いのです。

もう一つは割と軽く見られていると思いますが、中国元のSDR採用はすぐさまの変化はありませんが、5年、10年というスパンで必ず、意味を持つようになると考えています。また、中国のボイスとして通貨バスケットによる為替のコントロールという発言が再び出ています。数年前、当時の世銀のトップからも同様の発言がありましたが、個人的にも通貨バスケット案を検討していくことは正しい方向だと思っています。

バスケットにするとそこにある論理的な割合でドル、ユーロ、ポンド、円、元など主要通貨が収まり、為替の変動はより小さくなることで世界貿易や流通、旅行などの発展に寄与します。仮にそうなれば世界の通貨の仕組みが変わる可能性はあります。

ちなみに、その議論が本格化した場合、アメリカの国債市場が不安定になり、ドルが大きく下落する可能性があります。また目先のドルの下落はいくつかの反対現象を導き出します。資源高(特に金は高くなります。)、円とユーロ高、日欧のゼロ金利政策の無力化、株の下落、マインド低下による世界経済のシュリンクなどが考えられます。

今、ドル円が115円台となり、専門家は慌ててコメントを用意し、「当面の動きとしては…」と様々な予想が出ると思いますが基本的に大胆な予想は出ないはずです。私は年初110-115円を今年の円相場の上限と見ていたのですが、100円近くまで構えておいた方がよさそうな気がしてきました。何しろ、まだ2月上旬ですから2016年の先は長いのです。

不幸にもアメリカはレームダックの大統領とユニークな大統領候補が激戦を繰り広げており、11月まではFRB以外、無策である点を十分勘案しておいた方がよさそうです。歴史に永遠はありません。基軸通貨ドルの終焉がないとは言い切れないでしょう。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 2月9日付より