日本の長期金利がマイナスになった理由 --- 久保田 博幸

2016年02月11日 13:45

2月10日の新聞各紙の一面トップは「長期金利、初のマイナス」との見出しが踊っていた。これほどまでに長期金利が大きくニュースに取り上げられるのは、やや意外感もあった。株式市場や外為市場の動向が取りあげられることはあっても長期金利、つまり債券市場の動向がこのように取りあげられるのは極めて珍しい。それだけ、今回の長期金利のマイナス化は注目を集めていたということになる。

私自身は長期金利、つまり10年債カレントのゼロ%までの低下はいずれあるかもしれないが、マイナスには簡単にはならないのではないかと漠然と考えていた。10年債利回りのマイナス化にはさすがに抵抗があるだろうと思っていたが、市場の勢いは止まることなく9日の前場に長期金利はゼロ%をつけ、後場にはあっさりマイナスとなり一時マイナス0.035%まで低下することになった。

なぜ日本の長期金利がマイナスとなったのか。これについては日銀の金融政策が大きく影響していたことは間違いない。

9日にこの長期金利のマイナス化についてのコラムの依頼があり、それを書いた際に長期金利とは何かという肝心の説明が抜けていたことにあとで気がついた。いやあえて触れなかったともいえるか。つまり、本来の長期金利とは日本の経済・物価の動向などを反映し、投資家のニーズ、財務省の国債発行計画などを考慮して、市場において需給バランスが取れたところの10年国債の利回りが長期金利となる。

ところが現在の長期金利はそのような需給バランスは反映されていない、というよりも日銀がほぼ発行額の全額近くを買い込み、需給バランスを崩してしまっている。

外国の銀行などは日本の機関投資家からのドルの要請ニーズに応えると大きな利息付きの円が手に入る状況が続いており、外銀などは結果として保有することになる円の運営上は、ある程度のマイナス金利も許容できることで比較的短いところの金利はすでにマイナス化していた。これに加え、ECBのマイナス金利政策により、欧州で中期ゾーンあたりまでの利回りがマイナス化していたことも日本の中期ゾーンあたりまでのマイナス金利の要因となっていた。

そこに突如、出てきたのが、1月29日の日銀のマイナス金利付き量的・質的緩和政策の決定である。マネタリーバランスを維持したまま、一部の超過準備の付利をマイナスにするという良いとこ取りの荒技政策を打ち出した。

金利に関しては日銀の思惑通り、これによって足元の金利がさらにマイナス化することとなり、それが長い期間の国債に波及した。いきなり残存8年あたりまでの国債利回りがマイナスとなってしまったのである。

日銀がそもそもこのタイミングで追加緩和を決定したのは、年初からの円高株安の動きによるものであった。その背景には中国など新興国の経済減や原油安が要因となっていた。日銀は追加緩和で2014年10月のバズーカ第二弾のような円安株高効果を期待したと思うが、すでに市場は追加緩和への感応度は低下していた。日銀のマイナス金利政策で一時的に円安株高となったものの、それはあっさりと剥げ落ち、日経平均は16000割れとなり、ドル円は11日に113円割れとなった。つまりリスク回避の動きをさらに強める結果となってしまったのである。

このリスク回避の動きが加わったことにより安全資産としてさらに国債が買われることとなり、その結果、2月9日に期間10年の国債利回りがマイナスとなってしまったのである。日銀としては長期金利のマイナス化は想定内であったかもしれないが、リスク回避による円高株安を伴った格好での長期金利のマイナス化は想定外であったかと思う。

実際にマイナス金利が適用されるのは2月16日以降であるが、このマイナス金利は様々なところに影響を与えつつある。もちろん住宅ローン金利の引き下げなど良い面はあるかもしれないが、金融市場関係者、特に資産運用を手がける人たちは悲鳴をあげている。銀行などの利ざやも縮小させることになり、欧州や日本の銀行株が大きく下落し、これがさらにリスク回避の動きを強めるという悪循環になりつつある。

日本の長期金利がマイナスとなったが、それを促進させた格好の中央銀行の金融政策に対し、風当たりが強まるという皮肉な結果を招いている。ここにきての円高などの強まりで、もし日銀が緊急の決定会合を開催し追加緩和を決定するようなことをすれば、むしろ絶好の円買いドル売りのチャンスを作ってしまうことにもなりかねない。そのような状況に陥りつつある。

顔写真201011
久保田博幸(くぼた ひろゆき)
1958年、神奈川県生まれ。慶応義塾大学法学部卒。
証券会社の債券部で14年間、国債を中心とする債券ディーリング業務に従事する傍ら、1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。専門は日本の債券市場の分析。特に日本国債の動向や日銀の金融政策について詳しい。現在、金融アナリストとしてQUICKなどにコラムを配信している。また、「牛さん熊さんの本日の債券」というメルマガを配信中。2015年まぐまぐ大賞で資産運用部門第2位を受賞。日本アナリスト協会検定会員。

主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓」すばる舎、「短期金融市場の基本がよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

「債券ディーリングルーム」http://fp.st23.arena.ne.jp/
「牛さん熊さんブログ」 http://bullbear.exblog.jp/

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***
「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年2月11日の記事を転載させていただきました。転載を快諾くだいました久保田氏に心より御礼いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。


アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑