「スポットライト」は神父必見映画だ --- 長谷川 良

アゴラ

ボストンのローマ・カトリック教会聖職者による未成年者性的虐待の実態を暴露した米紙ボストン・グローブの取材実話を描いた映画「スポットライト」(トム・マッカーシー監督)が第88回アカデミー賞作品賞、脚本賞を受賞した。教会関係者による未成年者への性的犯罪が欧米社会でいかに大きな衝撃を投じたか今更ながら分かる。

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▲アカデミー作品賞を受賞した映画「スポットライト」(映画「スポットライト」公式サイトから)

アカデミー授賞式の数日前の先月23日、ベルギーのローマ・カトリック教会は2012年から15年の4年間に届けられた聖職者による性犯罪の犠牲者への賠償金が約400万ユーロになったことを明らかにしたばかりだ。4年間の間に届けられた犠牲者件数は1046件だった。いずれもカトリック教会内や関連施設内で起きた聖職者による未成年者への性犯罪件数だ。教会側は、「過去を変えることはもはやできないが、教会が過去償わなかったことへの賠償だ」と説明している(バチカン放送独語電子版)。

そしてアカデミー受賞式日の直前、今度は「聖座とバチカン市国の財務・運営について調整する機関」長官のジョージ・ペル枢機卿(74)が先月28日夜から数日間、出身地オーストラリアの「聖職者性犯罪調査委員会」(2013年スタート)のビデオを通じて証人喚問を受けたことが明らかになった。同枢機卿は健康問題を理由にシドニーではなく、ローマで委員会の質問を受けた。

ペル枢機卿が長官を務めるバチカンの財務事務局はフランシスコ法王の要請で2014年2月に新たに設立されたもので、不正と腐敗が指摘されてきたバチカン財政の透明化を目的としている。同長官はバチカンのナンバー4に当たる立場だ。

同長官が直面している問題はオーストラリアのビクトリア州バララット教区で1970年代に生じた聖職者による児童性的虐待事件だ。ペル枢機卿は当時、同教区の神父だった。その時、友人だった神父が性犯罪容疑で有罪判決を受けた。

ペル枢機卿は先月29日、調査委員会の質問に答え、「バララット教区のロナルド・ムルカーンス(Ronald Mulkearns)司教は当時、教会から解任された神父の本当の理由を私には告げなかった」と証言し、教会側の組織的な隠ぺい工作があったことを認める発言をした。

オーストラリアの聖職者性犯罪調査委員会の審査を終えた直後、ペル枢機卿はフランシスコ法王と会談した。法王との会見では、聖職者性犯罪問題の質疑応答について話題になったかは不明だ。同枢機卿は、「フランシスコ法王は私を信頼してくれている」と説明し、法王の支持があることを強調した。なお、オーストラリアの調査委員会の最終報告書は来年12月に公表される予定だ。

フランシスコ法王は昨年9月の訪米時に聖職者に性的虐待を受けた5人の犠牲者と会っている。犠牲者の話を聞きながら、「聖職者が未成年者にこのような罪を犯すとは恥ずかしい。教会やその関連施設内でそのような犯罪を犯した者は許されないし、教会側もその事実を隠蔽してはならない」と述べ、「神は泣いている」と語ったという。

なお、バチカン系グレゴリアン大学国際児童保護センター責任者で聖職者による児童性的虐待問題専門家のハンス・ツォルナー氏(イエズス会所属)は「カトリック教会の全ての聖職者は今回アカデミー作品賞を受賞した『スポットライト』を観るべきだ。聖職者による児童虐待がどれだけ大きな影響を与えるかを理解すべきだ」と述べている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年3月4日の記事を転載させていただきました(編集部でタイトル改稿)。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。