バロンズ誌:米株買い戻しはベアマーケット・ラリーか --- 安田 佐和子

2016年03月07日 06:00

bearmarket
バロンズ誌、今週号のカバーはトランプ候補とクリントン候補のどちらが投資家にとって有益かを問います。トランプ候補は法人税を現行の35%から15%への削減を掲げ成長と雇用を促進する見通しで、社会保障制度(メディケア、メディケイドすなわち高齢者、低所得者向け医療保険など)の拡大抑制を求め財政赤字が膨らむリスクは低い。ただし中国向け関税引き上げなどを提案しているため、貿易摩擦を引き起こしかねません。クリントン候補と言えば、保有期間に応じたキャピタル・ゲインの引き上げに加え、年収500万ドル以上の富裕層向け所得税に4%の上乗せ、租税回避の抜け穴を塞ぐなどを提案しています。ウォールストリートにフレンドリーとは言えないように見えますが、著名投資家ジョージ・ソロス氏やエバーコアのロジャー・アルトマン会長、アベニュー・キャピタル・グループのマーク・ラスリー会長はクリントン候補あるいは同候補を支持するスーパーPACに献金済み。バロンズ誌がどちらに軍配を上げたかは、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は足元の米株高に焦点を当てます。抄訳は、以下の通り。


政治的な安定は株式市場にとってプラス要因と捉えがちだが、そう考えていると間違うことがある。ブラジルを見てみよう。ルラ前大統領が汚職容疑をめぐり事情聴取したとのニュースが飛び込んだが、4日のボベスパ指数は急伸した。ペトロブラスに絡む汚職事件でルセフ大統領本人も火の粉を浴びているが、”iシェアーズ MSCI ブラジル キャップトETF(EWZ)”は4日に5.3%高を迎え、週ベースで24%も急騰した。(筆者注:ボベスパ指数は1月安値から30%近く上昇しブル相場入り)。まるで、ニクソン米大統領の辞任を受けて長い悪夢から覚めると判断した米国のようだ。1974年のウォーターゲート事件後の米国も、ブラジルのように高インフレに喘いでいた。

米国でも株式市場とクレジット市場は回復をたどり、米大統領予備選の動向に鈍感になっている。米株3指数はそれぞれ2月の安値から約10%上昇し4日にダウは年始以来となる17000ドル、S&P500も同じく2000pの大台に乗せて引けた。掘削会社シードリル(SDRL)に至っては4日だけで100%も急伸したように、原油先物の回復に煽られた様子が伺える。キャタピラー(CAT)やUSスチール(X)など重機メーカーや製鉄大手も、勝ち組だ。

ルイーズ・ヤマダ・テクニカル・リサーチのルイーズ・ヤマダ代表は、足元の上昇を”ベアマーケット・ラリー”と分析する。あくまで現在の上昇は押し目買いやショートカバーの域を出ず、公益や生活必需品などディフェンシブ関連セクターが強いことが何より投資家が将来の株安を予想している証だという。2015年に相場をけん引したFANG(フェイスブック、アマゾン、ネットフリックス、グーグル)のうちアマゾンは2月につけた安値482ドルから575ドルまで買い戻されたが、昨年末の689ドルは未だ遠い。ヤマダ氏は、ダウには17000ドルと17500ドル、S&P500には2000pと2050pに大きな抵抗線が控えると指摘し、弱気相場でのラリーに安穏としないよう投資家に警告を放つ。

S&P500は1月安値から昨年11月高値の半値戻しは達成した後、上昇ペースは鈍化。

spx1-e1457261887565
(出所:Stockcharts)

EPFRグローバル・データによるとブラジル以外のエマージング市場にも資金が押し寄せ、投資信託には前週に18週ぶりに買い越しを迎え流入額は1億9600万ドルだった。ただエマージング関連全体の投資信託としては1500万ドルの売り越しとなり、特に中国や香港のETFなどが2億1100万ドルの流出を記録していたという。マクロメイブンズのステファニー・ポンボイ氏は、商品相場の底打ち期待と外貨準備高を理由に挙げる。特に後者はアジア危機やロシア危機が発生した1998年の6億2000万ドルに反し7.5兆へ膨らみ、海外債務の4.5兆ドルを上回る状況だ。

弱気派が見過ごしている点は、資源国の収入にある。確かにドル建てでの債務は積み上がるものの、収入となれば別だ。金先物は2011年の高値からドル建てで34%下落したものの、豪ドルでは7%安、加ドルでは11%安に過ぎない。南アフリカ・ランド建てでは51%の上昇を意味する。原油先物もロシア・ルーブル建てでは2008年から150%も上昇した。重要なポイントは、資源国がドルで売上を得るところ実質の採掘コストなどは対ドルで下落した自国通貨だという点だ。ロシアをはじめ、エマージング市場の資産クラスは商品相場に対し過剰に下落したと考えれば、割安ではないだろうか。

ストリートワイズも、米株相場の回復をテーマに挙げている。抄訳は、以下の通り。

”ジキル博士とハイド氏”は読むには面白いが、実際に市場で起こった場合は厄介だ。足元で株式市場は下落トレンドから上昇へ転じるなどコロコロと様相を変えている。経済指標も同じだ。米1月雇用統計は非農業部門就労者数(NFP)の鈍化を示したものの、米2月雇用統計ではNFPが好転。製造業関連の指標も足元の流れに反し、米1月鉱工業生産など強含んだ。

しかし、忘れてならない波乱要因が待ち構えている。英国では国民投票で欧州連合(EU)からの脱退すなわち”BREXIT”を決定する懸念が控え、中国の経済減速という不安もくすぶったままだ。米国の明るい経済指標ですら、暗い見通しをもたらす。6月14~15日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ織り込み度は、1ヵ月前の26%から米2月雇用統計後に40%へ跳ね上がった。

一番の懸念は、エネルギー関連だろう。銀行は4月に毎年、融資条件の変更を検討するが、マラソン・オイル(MRO)をはじめ増資に急いでいる。年始から3月1日まで、エネルギー関連企業は90億ドル相当と、1999年以来の規模の増資に踏み切った。通常、増資した企業の株価は下がるものだがMROの株価は実施後37%上昇し、ウェザフォード・インターナショナル(WFT)も2.3%高を迎えている。ただし、増資に成功する企業ばかりではないだろう。例えばホワイティング・ペトロリアム(WLL)は35億ドルの増資が必要だが、同社の時価総額14億ドルの2倍に相当する。再びエネルギー企業の資金繰り問題に焦点が集れば、株価に影響が及びうる。


アップ・アンド・ダウン・ウォールストリートがベアマーケット・ラリーを指摘するように、米株は経済指標の好転に合わせ6月利上げを織り込み始め、上昇ペースが鈍化しつつあります。ゴルディロックスへの期待に水が差せば、慎重になるというもの。海外情勢も中国をはじめBREXITなど不透明要因も重なり、新高値を更新し続けるブル相場突入への可能性が高いようには見えません。レンジ相場に入るのか、再び下落へ向かうかは3月15~16日開催のFOMC声明文、経済・金利見通し、そしてイエレンFRB議長の記者会見が運命を握ります。

(カバー写真:jenny downing/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年3月6日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑