北の反論は完全に論破されている --- 長谷川 良

2016年03月08日 11:00

北朝鮮は4日、政府報道官の声明と外務省報道官談話を通じ、安保理が採択した決議第2270号が「犯罪的文書だ」と非難した。北朝鮮は、「国連安保理の悪辣な対朝鮮制裁決議を尊厳高い自主独立国家であるわが共和国に対する最も極悪な挑発と烙印し、断固として排撃する」と威嚇している(韓国中央日報日本語電子版より)。

国連安保理の対北制裁決議に対する北側の反論は予想されたことだ。悪童に対し親や学校がその子供を是正させる目的で制裁を科すことがある。廊下で授業中立たせるとか、親なら小遣いを与えないといった制裁を与えるし、時としては体罰を下すこともある。しかし、安保理の対北制裁はそのダメージが独裁者やその指導層に限られているものではない。今回の対北制裁のように、広範囲な制裁の場合、国民に大きな負担と犠牲を強いることが十分考えられる。

核・ミサイル開発に関係する北朝鮮の政府関連団体の資産凍結、北の銀行が海外支店を開設することを全面的に禁じ、平壌への送金や決済を困難にするなど一連の金融制裁が下された。それだけではない。ロケット用を含む航空燃料の北への輸出禁止など原油供給の制限、北に出入りする全ての貨物に対する査察義務付け、北朝鮮からの石炭や鉄、鉄鉱石の輸入制限も明記されている。北側の外貨収入源を断つわけだ。

朴槿恵大統領は3日、「国連安保理で類例のない強力な対北制裁決議案が通過したことは、韓半島と世界平和を望む国際社会の強力なメッセージとみている」という談話を発表した。制裁内容を見る限り、朴大統領がいう「類例のない強力な制裁」であることは間違いない。北側が強く反発するのはそれを裏付けている。

国連決議を無視し、国際社会の意向に反して核実験を実施、長距離弾道ミサイルを発射した北側として弁解の余地がない、国際社会のルールを破れば、制裁を受けるのは当然だ。

同時に、制裁一般は指導者層にはまったく影響がない。制裁で最も被害を受けるのは独裁者から弾圧されている一般国民だ。「制裁は彼らにはダブルパンチだ」という意見をよく聞く。

知人のイラン記者からも、「国連の制裁下にあったイランでは薬も買えなかった」という話を聞いたし、航空機の部品交換も制裁の為に出来ない。その結果、イラン航空は過去、考えられないほどの事故や墜落のアクシデントが起きたというのだ。

当方は先日、国際的な人権問題専門家、ウィーン大学法学部のマンフレッド・ノバク教授(国際法、国際人権専門)にインタビューを申し込んだが、最大の理由は「制裁と人権」の関係について聞いてみたかったからだ。

ノバク教授は、「制裁は安保理が国連憲章第41条に基づいて人権を蹂躙している国家に対して実施する。制裁は経済制裁だけではない。口座の凍結、特定人物の渡航禁止、旅券発行禁止など他の国々もその遵守を義務付けられる。特に、世界の平和が脅かされた時、制裁を実施するのは国連安保理の課題だ。自国民の保護という国家の基本的な義務を果たす能力のない、あるいは果たす意思のない国家に対し、国際社会が当該国家の保護を受けるはずの人々について『保護する責任』(Responsibility to Protect)を有する。北朝鮮の現状に該当する内容だ。安保理は時には国連憲章第42条に基づく軍事的対応を容認する例もある。国際社会の『保護する責任』は2005年の国連総会で全会一致で採択されたものだ」という。

すなわち、北朝鮮は「自国民の保護という国家の基本的義務を果たせない、あるいは果たす意思のない国家」というわけだ。「保護する責任」能力のない未成熟国家という刻印を押されてしまったのだ。

金正恩氏は国連安保理決議第2270号を再度、読み直すべきだろう。国際社会は国民の基本的人権すら守れない国に対して軍事力を行使しても国民を困窮から解放できる権利を有しているという事実だ。もはや「主権国家への内政干渉」という古典的な反論は通用しない。国連制裁決議第2270号は北朝鮮の政権交代を暗に要求しているからだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年3月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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