「同一労働・同一賃金」が実現しても賃金は上がらない

2016年03月09日 06:00
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最近、「同一労働・同一賃金」の議論が熱を帯びています。私はこれまでも「同一労働・同一賃金」の実現は困難であることを述べています。非正社員、正社員の環境を同一のものとして論じることはできないからです。

●同一賃金で起こりうること

民間給与実態統計調査(平成26年度)によれば、正社員と非正規の年収格差は約300万円と非常に大きくなっています。正社員と非正規の賃金格差是正を目的に「同一労働・同一賃金」の議論がはじまりました。同じ仕事内容であれば同じ賃金を支払うべきという考えがベースにありますが仕事の線引きは難しい問題です。

また、正社員と非正規は賃金支払い基準が異なります。正社員を除く、派遣、アルバイトなどは、職務(仕事内容)に対して賃金が支払われています。正社員は職務以外の部分に対価がついているので、「同一労働・同一賃金」を実現するには、正社員の職務以外の部分(役職、年功、各種手当て等)を廃止する以外にはありません。仮にそうなれば、正社員の賃金を非正規にすりあわせる作業が必要になるでしょう。しかし、これでは非正規の賃金は据え置きでアップすることはありません。

非正規の賃金を正社員並みにアップすべきとの意見もあります。ここで、民間給与実態統計調査データをもとにシミュレーションをします。A社という、売上高20億円、経常利益6000万円の架空の会社を想定し、組織構成員は、正社員100名、非正規20名という陣容です。

A社(正社員100名、非正規20名)
売上高20億円、経常利益6000万円
正社員460万円/1人(年額:4億6000万円)
非正規170万円/1人(年額:3400万円)
合計:4億9400万円

A社(正社員100名、非正規20名:賃金同額の場合)
正社員460万円/1人(年額4億6000万円)
非正規460万円/1人(年額9200万円)
合計5億5200万円

非正規の賃金を正社員にあわせると、単純計算で約11%の総人件費のアップになります。A社の場合、経常利益が6000万円ありますが、非正規の賃金を正社員にあわせた時点で、経常利益は実質ゼロになります。これでは経営がひっ迫します。また、経常利益6000万円を維持するには、非正規を13名減らさなくてはいけないという矛盾も生じます。

●非正規が成すべき方策とは

非正規はガマンを強いられなければいけないのでしょうか?いや、決してそうではありません。事業者に掛け合い労働局に相談する方法があります。通常の正社員と仕事が同じであるかは、幾つかの要素を正社員と照射し比較したうえで判断されます。例えば、仕事の種類、主たる仕事の内容、遂行するにあたっての知識や技術などがあげられます。

これらを比較検討したうえで、同じであると判断されれば損害賠償請求が認められる可能性があります。事業者には賃金格差について自主的に解決を図る努力義務が課せられているからです。

また、労働局に「紛争調停委員会の調停」をおこなうことも可能です。正当な賃金を主張することは労働者の権利であり支援する多くの制度が存在します。しかし、会社組織という場においてこれらの権利を行使して、マイナス影響がないとも限りません。だから対応が難しいのです。

企業は正社員の数を増やしたいと思っても、正社員を登用する余力が無い場合は非正規を採用します。非正規の能力が正社員と同一であっても、正社員より賃金が安くてすむから採用するのです。賃金に差があることで採用しているものが差がなくなるなら採用するメリットは消失します。

また、非正規の賃金を正社員にあわせるには既存の労働力を減らさなくてはいけません。人件費を削減しなければいけないからです。そうなると、一人辺りの抱える業務量が増えて過重労働に陥ります。過重労働を容認すれば、次々にブラック企業が増えることと同じになってしまいます。

同様に、解雇規制緩和の議論が熱いですが、解雇規制が緩和されれば、例外なく人材は流動化するでしょう。多くの正社員が非正規になることで総人件費は圧縮されますが、企業力が維持できるかは疑問です。

人事コンサルタントの立場で申し上げるなら、人員削減などのリストラを実施して企業力が増すとは考えにくいのです。有能な人材が辞めて、ノウハウも流失するでしょう。採用も凍結せざるを得ませんから企業文化の伝承も断絶します。DNAが維持できなくなり組織構成員のモチベーションは減退し企業力は低下していきます。

また、これらの問題を解決する施策としてベーシックインカムという考え方があります。物価の安い地方に生活する動機付けになるので有効とする意見もあります。この点は次回に述べたいと思います。

尾藤克之
コラムニスト
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尾藤 克之
コラムニスト/経営コンサルタント

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