ショーンK氏問題で考える、コンサルタントの学歴詐称 --- 川崎 隆夫

2016年03月17日 08:40
立ち話

テレビ朝日の「報道ステーション」など、いくつかの報道番組でコメンテータを務め、人気を博していた経営コンサルタントの「ショーンK」ことショーン・マクアードル・川上氏(以下川上氏)の学歴・経歴詐称疑惑が週刊文春で報じられ、騒ぎとなっています。 川上氏は一部疑惑を認め、急遽「報道ステーション」などのレギュラー番組を降板することになりました。

■7~8年前に感じた違和感
今回の川上氏の「学歴詐称」「職歴詐称」疑惑については、「ああ・・やはりこの人、想像した通りだったのか。」というのが、筆者の偽らざる感想です。今から7~8年ほど前のことになりますが、筆者は経営関連の教育事業会社からの依頼で、ビジネス関連のセミナーや講演会等をプロデュースする仕事に携わったことがありました。その際に、セミナーや講演会などの講師候補の一人として、川上氏をピックアップした経験を持っています。ただ今でも記憶に残っているのは、当時「川上氏の学歴・職歴には、少しおかしなところがあるな。」と感じたことでした。それは、川上氏の英語サイトのほうには、ハーバード大学のMBA取得者として記載されていたにも関わらず、日本語のサイトにその記載が一切なく、また当時川上氏のプロフィールが掲載されていた「コンサルタント紹介サイト」にも、学歴に関する記述が一切無かったことから生まれた疑念でした。その当時、「ハーバードMBA」という学歴はまだ希少価値があり、独立コンサルタントが大手企業や官公庁などのコンサルティング等を受注する上で相当有利に働くはずだったのに、「コンサルタント紹介サイト」に詳細に実績などを掲載し、自分自身をPRしていたにも関わらず、なぜか学歴だけは一切アピールされないことに、やや違和感を持ったのです。
そのことから、当時「この人、本当にハーバードMBAなのか?また若いのに、すでに600社以上のプロジェクト経験があるというのも多すぎる。少し盛っていないのかな?」という疑念が沸いたのでした。

■経営コンサルタントの職業倫理
今回の川上氏の「学歴・経歴詐称」については、一部の有識者からは、「学歴や経歴に誤りがあったとしても、実力があればよいではないか。」「コメンテータの学歴・経歴詐称など大した問題ではない。」などといった意見が散見されます。確かに、日頃TVに出演しているコメンテータや評論家などは、一種のタレントに属するとみなされるようので、少しくらい学歴・経歴に偽りがあったとしても、大きな問題ではないのかもしれません。しかし、経営コンサルタントという職業特性からこの問題を捉えた場合は、故意にせよ過失にせよ、学歴・経歴詐称が明らかになること自体、全く話にならないことだといわざるをえません。コンサルタントには弁護士や医師などと同じく、機密保持の面で高い職業倫理が求められます。コンサルタントは、日常的に顧客の機密に触れることが多く、いくらNDA(機密保持契約)を締結していたとしても、クライアント側に大きなリスクが伴うからです。よってコンサルタントには、プロフェッショナルとしての能力もさることながら、それ以上に「人間としての信用」が求められる、ということになります。

また今回の学歴・経歴詐称疑惑について、川上氏自身は以下のように釈明しています。

「文春の記事の発端になったのは、会社のホームページの記載です。これについては、コンサルタント業務では、ホームページから顧客が集まるということがほとんどないので、急ごしらえのβ版のまま、長い期間、誤りが存在するまま放置されてしまいました。この放置の責任は、私にあり、このような記事が掲載される端緒を作ってしまいました」と事情を説明。「皆様にご心配をおかけして大変申し訳ありません」と謝罪した。<2016.3.16 ハフィントンポスト>

しかしこの釈明にも違和感が残ります。川上氏は2008年に、TAC出版より「MBA講義生中継  経営戦略」というMBA関連の書籍を出版しています、通常は、MBAホルダー以外に、出版社からMBAと銘打った書籍執筆の依頼が来ることはまずありません。

仮に出版社が、川上氏の学歴詐称に気付かずに執筆を依頼していたとしても、川上氏のほうから事情を説明し執筆を断るか、あるいは、「MBA講義生中継」というタイトルを削除してもらうか、どちらかを選択するのが筋だったはずです。増してや週刊文春の報道によると、「経営学修士」どころか「学士」さえ取得していなかったようですので、なおさらのことです。

しかし川上氏は「MBA講義生中継 経営戦略」と銘打った書籍の執筆を引き受け、書籍は実際に出版されたわけですから、そこに学歴の記載が無かったとしても、多くの読者は川上氏がMBAを取得している、という前提で書籍を購入したはずです。よってMBAの学位を持たないのに、MBAと銘打った書籍を出版したことは、読者を欺く行為であったと言われても致し方ありません。

■コンサルティング業界の構造
経営コンサルティング業界は、ざっくりと分けると「上場企業、外資系企業等を対象としたコンサルティング」と「中小企業を対象としたコンサルティング」の2つに大別できます。一般的に、「高学歴・高収入のエリート」として描かれるのは、前者の「上場企業、外資系企業等を対象としたコンサルティング」に従事している人たちです。

上場企業等を対象としたコンサルティング業界の主たるプレイヤーは、外資系のコンサルティング会社です。確かに外資系コンサルティング会社の社員は、海外MBAを取得しているなどの高学歴の人が多く、またハードワークではあるものの、高収入のであるいう傾向もあります。この面からイメージが良く、大学生の就職人気も高くなっています。

一方で、中小企業を対象としたコンサルティング業界は、地味で泥臭い世界です。この業界の主たるプレイヤーは、フリーで活動する個人コンサルタントとなります。彼らの多くは、以前企業等に勤めていたものの、途中で退職して独立した人であり、企業勤めの際に習得した知見を活かして、中小企業の経営指導などに携わっています。一部で中小企業診断士などの国家資格を取得している人もいますが、その割合は総じて低く、個人の信用だけで成立している世界である、とも言えます。収入も一部の例外を除き、多いといえるレベルではありません。また職業イメージも、決して良いとはいえないでしょう。

今回川上氏は、自らのコンサルタントとしてのイメージを、外資系のコンサルティング会社の方向に持っていきたかったのだろう、と思います。その方が、メディア関連の仕事を行うために、断然有利だからです。

コンサルタントが、「セルフブランディング」を行うこと自体は悪いことではありませんが、「セルフブランディング」の領域を超えて、学歴や職歴までごまかすといった行為までは、当然ながら許されるものではありません。

■コンサルタントの「汚名返上策」
なお、「中小企業を対象としたコンサルティング」の世界では、学歴や資格などは全く意味を持たず、完全に実力勝負の世界となっています。一方で、この世界は玉石混交の世界でもあり、コンプライアンス意識に欠けた「胡散臭い人」が一部存在していることも事実です。経営者等に「おいしい儲け話」などを持ち込むのも、この類の人です。しかしながら、その割合は決して高いものではなく、個人コンサルタントの殆どは、日々顧客の問題解決のために、経営者と一緒になって汗を流しているのです。

今回の川上氏の件で残念なのは、ネット上で「コンサルタントには胡散くさい人が多い。」「コンサルタントなど信用してはならない。」といったコメントが、多数散見されることです。今回の川上氏の報道を見れば、多くの人がコンサルタントに胡散臭さを感じることは、至極当然なことだと思います。我々コンサルタントはその点を意識し、今後は自らの活動を通じて、多くの人が抱く懸念を払拭していかないとならないでしょう。

一方で日本の中小企業約380万社の生産性は総じて低く、その改善が急がれています。また、グローバル化の進展などの環境変化に対応できていない中小企業も多数存在します。
しかしながら、中小企業の多くは、自助努力だけでは経営革新や生産性の改善を進めることが難しいという現実もあります。

その解決策のひとつとして、経営支援機関等においては、中小企業診断士を初めとするコンサルタントをもっと活用して、経営改革などを前に進めよう、という機運が生まれつつあります。そのような状況の中で、「経営コンサルタントの学歴・経歴詐称問題」がクローズアップされることは、大変残念なことです。

経営コンサルタントは、資格がなくても誰でも名乗れる職業であるため、逆に一般の人以上に職業倫理に敏感になる必要があります。今回の件は、我々コンサルタントに職業倫理の面から警鐘を鳴らしたケースとして捉えて、日々の活動がコンサルタントとして相応しいものなのかどうか、再度検証してみる機会にするべきだろうと考えます。

【参考記事】
■中年世代になったら考える「キャリアのリスクマネジメント」
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-24.html
■65歳定年時代の「老害シニア対策」とは?
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-23.html
■世界最低レベルの「社会人の学び直し」比率
http://sharescafe.net/46989472-20151124.html
■「一億総活躍社会」実現のための「中高年転職市場」
http://sharescafe.net/46590587-20151016.html
■「失業なき労働移動促進政策」がもたらす、日本型終身雇用制度の終焉
http://sharescafe.net/45941690-20150816.html

株式会社デュアルイノベーション 代表取締役
経営コンサルタント 川崎隆夫


この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2016年3月17日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。

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