【映画評】アーロと少年

渡 まち子

地球に隕石が衝突せず、恐竜が絶滅を免れた世界。恐竜のアーロは、兄弟と比べて体が小さく、怖がりの甘えん坊だ。ある日、激しい嵐に遭い、大好きな父親を亡くした上、濁流にのまれて見知らぬ土地にたどり着いてしまう。ひとりぼっちのアーロを助けたのは、言葉を話せない人間の少年スポットだった。体は小さいが勇気があり、懸命にアーロを守ろうとするスポットに、アーロは次第に心を開いていく。正反対の二人は、アーロの家族のもとへ戻る旅に出るが、そこには数々の試練が待ちうけていた…。

ディズニー/ピクサーの新作アニメ「アーロと少年」で描かれるのは、恐竜が生き延び文明と言葉を持つ一方、人間は話すこともできないという架空の地球。つまり世界を支配しているのは人間ではなく恐竜(動物)なのだが、その“もしも…”の世界は、なんと美しく輝いていることか!その美しさを表現するのに、最高レベルのCGが使われている。ITやCGの難しい技術はわからなくても、実写と見紛うほどの映像の美しさは一目瞭然だ。濁流や清流のリアルな水の表現、草原に輝く蛍の光、幻想的な雲、一斉に飛び立つ鳥の群れ。リアルにしてファンタジックな映像美は、この物語のもうひとつの主人公が自然そのものであることを教えてくれる。

物語はディズニーが得意とする、正反対の二人による絆と勇気のバディ・ムービーだ。言葉や種族の違いを超えて、人生初の友達になるアーロとスポットは、互いに家族の不在という悲しみを抱えている。この喪失感を埋めるのが、友情であり、自分自身の成長なのだ。旅の途中で出会い、アーロたちに本当の強さと優しさの意味を指南するTレックス一家のキャラが、これまた最高。同時上映の「ボクのスーパーチーム」はヒンドゥー教のヒーローものというエキゾチックな短編で、こちらも味があって良い。
【75点】
(原題「THE GOOD DINOSAUR」)
(アメリカ/ ピーター・ソーン監督/(声)安田成美、松重豊、八嶋智人、他)
(友情度:★★★★★)

この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年3月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。