鴻海に食われるシャープ

2016年03月22日 10:38

シャープの鴻海への売却交渉が延びています。本来であればもうすでに契約済みであるべきところでしたが、2月25日にシャープより開示された偶発債務リストが波紋を呼び、鴻海側がそれを精査、売買条件の再交渉に入っているとしばしば報道されています。更に3月21日には一部報道で買い取り価格の1000億円減額を含む大幅な条件見直しを迫る可能性があることも示唆されています。

私の2月26日のブログでは次の様に指摘しています。「シャープがもしも意図的に偶発債務の内容を伏せた状態でディールに臨みその結果、鴻海が知りうる企業価値に重大なる瑕疵が存在するならば①ディールの解消②ディール内容の大幅な変更(含む減額)③鴻海によるシャープへの損害賠償請求訴訟が考えられます」。

更に「鴻海はこの重要な内容につき精査するとする期間をひと月以上かければよいのでしょう。その時困るのはシャープに融資している銀行団であります。銀行団は3月末までに一定の決着をつけることを要求されており、それが交渉継続により出来なくなると大変な不都合が生じます」とも指摘していました。

正にこのような結果に陥っているわけで一部報道からは3月中の契約、クロージングはなく、4月に流れ込むだろうとされています。重要なのは現時点で契約すら締結していないわけですから決済を含むクロージングはもっと先になる点であります。それが6月でも半年後でも契約内容次第でどうにでもなるわけで鴻海は好きに交渉できる完全なワンサイドゲームになっています。

私は確かに産業革新機構と比べれば鴻海に売却した方がよいと主張してきました。それについては今でもそう思っていますが、シャープにディールぐらいうまく進めるぐらいの能力はあるだろうと思っていました。が、あまりにも下手を打ちすぎて金額を含むあらゆる条件がどうにでもなってしまう状態に陥らせたのはシャープと銀行団の責任でありましょう。銀行団は3月末期限の融資に対してブリッジファイナンス(つなぎ融資)をするようですが、つなぎで終わればよいと願っています。追い銭にならなければと思いますが。

ビジネスディールとは一種の戦争であります。勝つか負けるか、全てのステップに勝負がかかっています。通常、私はLOI(Letter of Intent)で優先交渉権を得たのち、がりがりと交渉し、条件付き契約に入ります。その際、デューデリジェンス次第で契約条件が変わるようにすることが最重要なポイントであります。契約しても契約額の通りクロージングすることはあまりなく、その後、あれやこれやで費用を差し引いてクロージングの際にはそれなりの追加値引が出ることも多いものです。但し、今回のような大幅な見直しはあまり例をみないでしょう。

特に鴻海の郭台銘董事長はカリスマ性を持つワンマン経営者であります。この人とのディールは一筋縄には行きません。想像するに郭董事長との交渉に高橋社長のみならず、銀行も同席したのではないでしょうか?銀行は微に入り細に入り確認、確約を取り付けようとします。が、このようなディールは大きいところをバサッと抑え込み、小さいところはくれてやるぐらいに取引をしないと失敗します。高橋社長は手足を縛られた傀儡のような状態になっている中での交渉だったとしたらそれは戦略ミス以外の何ものでもありません。

この売却劇、どのような結論になるか分かりませんが、私がシャープ側なら、白紙撤回をちらつかせるぐらいの度胸を持つべきだと思います。エンドデートも決めてその日までに交渉、契約成立しない暁には交渉はなかったことにする、という条文は絶対不可欠であります。

このシャープのドタバタは多くの日本企業が抱えるであろう問題でもあります。今まではディールとは日本と日本の関係が多かったと思います。が、今後、海外企業との取引が飛躍的に増えてくる中で国際商取引の基本とディール巧者という点では日本は立ち遅れています。例えば中国に進出した日本企業が引き上げられないという事態に陥っているとか、瑕疵物件を購入し、将来の発生するかもしれない環境問題に対して永久に責任を負わなくてはいけないといった話はごろごろしています。

英語が読めなかった、そんなこと書いてあるとは知らなかった、契約書の解釈を間違えていたなど酷いレベルの話は良く聞こえてきます。日本人は買う方はそのリスク調査もせずにどんどん買い進めていきますが、世界レベルではそのリスクヘッジをどう契約に盛り込むか非常にうまいと思います。ライアビリティと称する項目で、私も昔はこの言葉に悩まされ、究極の責任を取らされたことも度々ありました。

そんなのは弁護士にやらせればいいだろう、という経営者がいればその時点で失格です。弁護士は法律上のアドバイスはしますが、経営、ディール上のリスク判断は経営者が考え、決めなくてはいけないのです。

そんな意味からも今回のシャープの売却劇は全ての日本人経営者がケーススタディとしてよく勉強すべき内容でこんな下手は二度と打ってもらいたくないと思います。郭董事長は今頃、笑いが止まらないはずです。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 3月22日付より

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