日銀の石田審議委員の後任候補 --- 久保田 博幸

3月15日の金融政策決定会合では、三次元緩和の現状維持を決定した。このうち「量」と「質」に関してはマイナス金利付き量的・質的緩和を導入した1月29日の会合時と同様に8対1の賛成多数で決定した。反対したのはいずれも木内委員である。

これに対して「金利」の部分については1月29日には、木内委員に加え佐藤委員、白井委員、石田委員が反対したため5対4の僅差での決定となった。ところが3月15日の決定においては白井委員と石田委員は賛成に回ったため、7対2の賛成多数での決定となった。

2014年10月の量的・質的緩和の拡大の際も、木内委員・佐藤委員に加え、森本委員と石田員が反対したが、次回11月の会合では反対は木内委員だけとなっている。

一度決定してしまったものに対しては、それを覆すことは難しい。ひとまずその効果を見定める必要もあり、導入には反対したものの、その政策の継続には賛成するということもわからないわけではない。しかし、反対した以上はそれなりの理由があったはずであり、その意見を貫くこともときには必要ではなかろうか。

1月のマイナス金利政策の導入に反対したものの、今回の現状維持に賛成した白井委員と石田委員はそれぞれまもなく任期満了を迎える。そのあたりの配慮もあったのかもしれない。

ちなみに3月末に任期満了となる白井委員の後任にはサクライ・アソシエイト国際金融研究センター代表の桜井真氏が政府から提示されている。桜井真氏はいわゆるリフレ派に近いとされており、今回のマイナス金利政策についても賛成に回るであろうと予想される。

そして石田委員は6月29日までの任期となっており、まだ政府からの後任の提示はなされてはいない。しかし、候補として新生銀行の政井貴子氏の名前が挙がっている。後任候補としては銀行出身で、できれば白井委員の後任が男性となったことで、女性が望ましいとの見方となっているのであろうか。

ただし、このポストの人選はなかなか難しいのではなかろうか。新日銀法が施行されてからは特に政策委員における産業枠や銀行枠など業界枠が明確になっているわけではない。しかし、石田委員までの前任者はすべて結果としてメガバンクからの出身者となっている。

果たしてメガバンク以外からの人選があるのであろうか。日銀は銀行の銀行であることで、当然ながら銀行との繋がりは強いはずである。ただし、この人選は政権が握っていることも確かであり、慣習に縛られないかたちでの人選もありうるのかもしれない。

それよりも注意したいのは、いずれにせよ銀行出身者となれば、マイナス金利政策については銀行の利ざや縮小や資金運用の困難さを招いたこともあり、素直には賛成できない面もあるのではなかろうか。銀行出身者でもマイナス金利を含めての日銀の異次元緩和に理解を示す人もいるかもしれないが、それはむしろ少数派ではなかろうか。それでもある程度、現在の黒田日銀の政策に理解を示す人選となることが予想される。

ただし、これが良い人選かといえばそうではなかろう。日銀の政策委員は多様な業種出身で専門分野を生かしながら金融政策という重要な決定を多数決で行うことになる。いまの日銀の金融政策に理解を示す人選というより、本来は公正で的確な判断を下せる人物を選ぶべきではなかろうか。石田委員の後任人事は、意見や枠にとらわれない人物を望みたいが、どうもそういうわけにも行かないようである。

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久保田博幸(くぼた ひろゆき)
1958年、神奈川県生まれ。慶応義塾大学法学部卒。
証券会社の債券部で14年間、国債を中心とする債券ディーリング業務に従事する傍ら、1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。専門は日本の債券市場の分析。特に日本国債の動向や日銀の金融政策について詳しい。現在、金融アナリストとしてQUICKなどにコラムを配信している。また、「牛さん熊さんの本日の債券」というメルマガを配信中。2015年まぐまぐ大賞で資産運用部門第2位を受賞。日本アナリスト協会検定会員。

主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓」すばる舎、「短期金融市場の基本がよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

「債券ディーリングルーム」http://fp.st23.arena.ne.jp/
「牛さん熊さんブログ」 http://bullbear.exblog.jp/

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年3月22日の記事を転載させていただきました。転載を快諾くだいました久保田氏に心より御礼いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。