「ショーンK騒動」と「STAP騒動」に共通する法則 --- 筒井 冨美

2016年03月25日 06:00

科学史に残る捏造事件は数々あるが、人々の記憶に残る捏造事件といえばダントツで小保方晴子氏のSTAP騒動だろう。2014年1月に彗星の如く現れて「リケジョの星」と崇められるも、2月には論文捏造疑惑が発覚する。その後も「博士論文にも盗用」「らくがきのような実験ノート」が次々と発覚し、7月には論文を正式撤回し、8月には共同研究者が衝撃の自殺を遂げる。そして12月、理化学研究所は「STAP細胞は作成できなかった」ことを公式発表して本人は依願退職し、これで騒動は収束したか…と思いきや、2016年1月に手記「あの日」を出版して…もう少し騒動が続きそうな気配である。

 

この事件のクライマックスが、2014年4月の釈明記者会見だろう。プロの手による完璧なヘアメイクの小保方氏は、押しかけた報道陣の前で「STAP細胞はありまぁす」と甘ったるい声で宣言し、シクシク泣きながら「私の不注意がぁ」「申し訳ない~」と繰り返し、アイロンばっちりの白ハンカチで涙をぬぐった。

 

この記者会見では「STAP現象を目撃した第三者は? 」「ES細胞の混入では? 」といった実験上の疑問点には明確に回答せず、科学者コミュニティは完全に彼女を見放した。一方、多くの一般人は、泣きじゃくる姿や甘ったるいしゃべりに魅了され、町村信孝元官房長官のように「一生懸命やっているじゃないか」と擁護するオヤジが多数出現した。この後、STAP騒動は科学ニュースから芸能バラエティ系にジャンルを移したように思う。

 

スピーチ教室などでよく取り上げられる「メラビアンの法則」というものがある。感情や態度について矛盾したメッセージが発せられたときの受けとめ方について、「話の内容などの言語情報が7%、口調や話の早さなどの聴覚情報が38%、見た目などの視覚情報が55%」というものである。別名、「言語情報=Verbal」「聴覚情報=Vocal」「視覚情報=Visual」の頭文字を取って「3Vの法則」ともいわれる。この記者会見は「回答内容がおざなりでも、優れたルックスと声のトーン次第では、一般視聴者の心をつかむことができる」ということを証明した。

 

「デート商法」というビジネスがある。典型的には、ミニスカートのおねえちゃんが草食系男子にさりげなく近づいて、デートを装って高価な宝石や版画の購入を促してローンを組ませる。客観的な第三者がみれば「単なる押し売り」なのだが、体を寄せて甘い声で囁かれると、ついつい契約してしまう男性は後を絶たず…この法則はこんなところでも生きている。

 

小保方氏の手記「あの日」を読んだ。自分に手のひらを返した(と小保方氏が思っている)若山氏への批判が多い。だが、世間は、もはや小保方氏の味方ではなく、本の記述どおり「事件の真犯人は若山氏だ」と信じる者はわずかだろう。小保方氏が人気を集めたのは、あの容姿と甘ったるい声である。論理的に活字で他人を説得する能力(科学者には必須の能力だが)は、あまりない。もしも告白本で流れを変えようと思っていたならば、出版社も売り方を完全に間違えている。私が担当編集者ならば、本はフォトブックっぽく編集して、活字量は抑えて「真摯に実験する姿」「マスコミに追い回されて涙ぐむ姿」「ボストンの街を散歩する姿」のような未公開写真を中心にまとめただろう。

 

2016年3月、ハーフ顔イケメンかつ美声で人気のコメンテーターの「ショーンK」が純日本人であり、ハーバード大学院卒は単なる高卒であることが、週刊文春によってスクープされた。彼のコメントについて堀江貴文氏は「無難だが、傾聴に値しない」と断言したが「テレビ的には安心」とも述べた。彼の人気も「話す内容が凡庸でも、非凡なルックスと美声があれば名言に聞こえる」という証明でもある。小保方氏はプロの科学者を納得させることはできなかったが、ショーンKには一般人のみならずテレビ局プロデューサーやら大企業重役やら大学教授も夢中になった。ここらへんが、単なる「オヤジころがしの上手い女子」と「テレビ番組のメインキャスターになれる人材」の違いなのだろう。あるいは、文系インテリの欺瞞なのだろうか。「メラビアンの法則」は、ここでも生きている。

 

筒井冨美

フリーランス麻酔科医、医学博士

1966年生まれ。フリーランス麻酔科医。地方の非医師家庭に生まれ、某国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、2012年から、「ドクターX~外科医・大門未知子~」「医師たちの恋愛事情」など医療ドラマの制作協力に携わる。2013年から、東洋経済オンライン「ノマドドクターは見た!」で論壇デビューし、執筆活動も行う。近著の「フリーランス女医が教える 「名医」と「迷医」の見分け方」では、「STAP騒動」を「オバサン系リケジョ」として分析している。

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