セントルイス連銀総裁の発言、市場を揺るがす

2016年03月27日 20:00

yasuda0327

バロンズ誌、今週のカバーは日本語で言う別荘つまりセカンドハウスです。米連邦公開市場委員会(FOMC)が年末に利上げ開始に踏み切った2015年、セカンドハウス市場は大いに沸きました。不動産情報大手リアルティトラックによると、人気リゾート地20ヵ所にある100万ドル以上の物件は前年比11%上昇したといいます。どのリゾート地で上昇が顕著だったのか、詳細は本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週はFOMCで今年の投票メンバーであるセントルイス地区連銀のブラード総裁に焦点を当てます。抄訳は、以下の通り。

果たして、足元の状況はブル・マーケットと言えるのか?あるいは、ブラード・マーケットなのか?

セントルイス地区連銀のブラード総裁はFOMCの今年の投票メンバーであるだけでなく、最も声高に意見を述べる参加者の一人だろう。いわば、Fed版のチャック・シューマー(米上院議員、NY州)のような存在だ。そのブラード総裁は、4月26〜27日に開催される次回FOMCでの利上げを促した

4月FOMCでは同議長の記者会見を予定しないものの、3月FOMC後の記者会見でイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長いわくFOMCは常に利上げの「可能性がある(ライブ、live)会合」と明言済みだ。以前に報じられたように、メディアとのカンファレンス・コールを行う手段もある。問題は、FOMCメンバーが説明責任を果たしづらい会合で利上げを決定できるのか。経済指標が利上げを正当化させられるかも、不透明だ。

しかも、ブラード総裁の見解は2月17日時点と相反する。当時、同総裁はインフレが低下する局面で金利を正常化させることは「賢明ではない(unwise)」と発言していた。つまり、たった5週間でブラード総裁は利上げ先送り派から利上げ促進派に転じたこととなる。この間に、何が起こったのだろうか?

S&P500、ブラード発言を受け200日移動平均線が視野に。

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(出所:stockcharts)

マーケット・ベースのインフレ見通しは、確かに上昇した。セントルイス連銀のチャートでは、ブラード総裁が4月利上げ示唆を与えた日に5年物5年先ブレーク・イーブン・インフレ率は1.72%へ上昇し、同総裁が据え置き支持した当時の2月17日の1.52%から上向いた。2月17日から20bp、最低をつけた2月11日からは30bpの上昇にとどまるが、最も変化したのは米株だろう。ブラード総裁の2月17日の緩和寄り発言に加え、欧州中央銀行(ECB)が追加緩和に踏み切り、3月FOMCでの利上げ示唆が年内4回から2回へ修正されるなか、S&P500は2月の安値から12%も急伸した。逆にブラード総裁が利上げ示唆を与えると、原油先物がドル高に耐えきれず続伸記録を5週で止めたように、腰折れした。

ブラード総裁の見方が風見鶏のようにコロコロと変わるのは、今回が最悪のパターンではない。2014年10月、FOMCが事前に発表したように量的緩和(QE)を終了させた時期、米株は下落した。当時ブラード総裁は、QE継続の可能性に言及していたものである。S&P500は2014年10月16日に安値をつけ、その後2015年5月までに14%高のラリーを演じた。

今回のブラード総裁による4月利上げ示唆で大いに影響を受けたのは、ドルをはじめ原油を含むの商品先物だけではない。イールドカーブのフラット化を招きディスインフレの兆候を表すと同時に、高利回り債の売りにもつながった。

FF先物動向は、年内25bpの利上げしか織り込んでいない。ブルームバーグによると9月FOMCで60%、12月FOMCで73%となる。ブラード総裁が言及した4月FOMCに至っては、たった6%という状況だ。これは成長見通しによるところが大きく、アトランタ地区連銀の試算では1−3月期GDP予想は1.4%増程度にとどまる。ブラード総裁はFOMC参加者の見通しの風向きの変化を捉える内通者のようだが、市場はこうした荒波をくぐり抜けるしかない。

中国の株式市場や人民元も、当局の協力を得て回復しつつある。しかし、Jキャピタル・リサーチのアン・スティーブンソン—ヤン氏に言わせれば「死んだパンダの跳ね返り(dead panda bounce=通常の英語表現にあたるdead cat bounceにかけたもの)」すなわち、下落局面での小幅回復に過ぎない。

中国当局は、2015年に断行した信用取引やショート取引の抑制を緩和させた。今年に入って、中国人民銀行は同年8月の切り下げに反し人民元を高めに誘導している。不動産市場も、投機的な熱が戻って来た。当局による中小銀行及びノンバンクへの貸出は、年初のたった2ヵ月間で2015年の中国GDPの半分に相当する36兆元、即ち5兆ドル(約560兆円)以上に及んだ。おかげで、過去4ヵ月間での金融機関による貸出は昨年のGDPを20兆元も上回るまでに膨らんでいる。スティーブン—ヤン氏に言わせれば「レバレッジこそ中国政府に残された手段であり、自殺行為と呼べる水準に達しつつある」。人民元は対ドルで6.50元にあるものの、同氏は6.80元まで下落してもおかしくないと考えており、必要な調整を遅らせれば潜在的なコストが悪化すると見込む。

一方で、資本流出は止まらない。シンジェンタ(SYT)やスターウッド・ホテルズ・リゾーツ・ワールドワイド(HOT)など、中国企業による米企業買収の動きが加速しており、人民銀行を困難な状況に陥れている。国内の流動性を高める必要がある半面、人民元の下落に歯止めを掛けるためドルを売却せねばならず、国内の流動性を引き締めている状況だ。

ジレンマを解決するためには、人民元の通貨防衛を断念すれば良い。ヘッジファンドの人民元ショートに対抗する必要もなくなる。スティーブン—ヤン氏にしてみれば、中国の外貨準備高が1〜2月に約1300億ドル減少したという数字の信憑性すら、怪しい。中国当局が数字を操作できなくなったタイミングこそ、人民元が音を立てて値崩れする時かもしれない。

米株市場のコラム、ストリートワイズは利益に潜む乖離に注目し米株高が継続しない可能性を指摘する。抄訳は、以下の通り。

米国の会計基準(GAAP)ベースの利益と非GAAPベースの利益に、乖離が生じている。この乖離が拡大こそ、米株が下落する兆候だ。S&P500構成銘柄の2015年10−12月期利益は、GAAPベースの利益を24%上回り、金融危機以来で最大を示す。こうしたサインが点灯するように、足元の株高が継続する公算は小さい。

2000年や2008年当時も、GAAPベースと非GAAPベースの利益差が拡大していた。RBCキャピタル・マーケッツのストラテジスト、ジョナサン・ゴラブ氏によると、2000年当時はITセクターを除いた場合でも28%もの乖離が生じ、2008年は金融セクターを除いても46%に拡大していた。足元はエネルギー関連を除くと24%から15%へ縮小するものの、楽観は禁物だろう。

——今回のアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートの見解に、筆者も同意を禁じ得ません。セントルイス連銀のブラード総裁といえば、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙で指折りのFed番記者であるジョン・ヒルゼンラス氏本人が太鼓判を押す某著名エコノミストですら、数年前から「風見鶏」と言い切っていました。セントルイス連銀のブラード総裁の華麗なるタカハト変遷の歴史は、以下の通りです。

・2010年、「危機が持つ7つの顔」と題し日本型デフレ突入のリスクに警鐘
2013年6月FOMC、テーパリングの開始を示唆した決定に反対票を投じる
・2014年3月6月9月など一貫して2015年1−3月期の利上げを主張
・2014年10月、QE終了に合わせ「論理的な政策対応はQEの先送り」と発言
・2015年3月、利上げで市場が強烈に反応するリスクに警戒
・2016年2月、金利正常化は「賢明ではない」と発言
・2016年3月 4月利上げの可能性を点灯、利上げ自体「そう遠くない」とも明言

テレビ出演や講演が他の地区連銀総裁より格段に多く、目立ちだかりな点も否めません。イエレンFRB議長をはじめとした参加者からは、マーケットを混乱させる困ったちゃん扱いなのではと勘繰ってしまいます。

ストリートワイズは、珍しく弱気寄りなコラムとなりました。以前にも指摘させて頂いた通り、筆者も足元の下落は想定内です。RSIやMACDなどテクニカルでも買われ過ぎサインが点灯し、年初からの下落も相殺しただけに、決算発表に合わせいったん下振れしてもおかしくありません。

(カバー写真:Federalreserve/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年3月27日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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