民進党は“政界の日産自動車”になれるか

トヨタもライバルを必要とする

民主党と維新の党が合流し、民進党が発足しました。保守層はもちろん、応援団になりそうな朝日新聞でさえ、「党名以外にどこが変わったかとの批判もある」(社説)と、冷めています。今、大切なのは、ライバルのいない1強体制の危うさにもっと危機意識を持つことです。

競争社会では、ライバルの存在が不可欠であることを、政界を離れて、自動車業界で観察しましょう。日産自動車の経営危機を救ったのは仏ルノーとの資本提携(1999年)であり、凄腕の経営者・ゴーン氏でしたね。日産は当時、有利子負債が2兆円もあり、ひん死の状態でした。

日産の経営危機の原因は、バブル経済の崩壊、高級車の販売減、ヒット車種の不足などに加え、過激な組合運動に足を引っ張られ、思い切ったコスト削減ができなかったなど様々でしょう。1時はホンダにも抜かれ、3位に転落しました。ゴーン氏を迎えて、日本型の取引慣行を革命的に改革し、危機を脱しました。

「日本を変える」とまでいわれたトヨタ

ゴーン氏が乗り込んできたころ、トヨタは絶頂期に入り、カンバン、カイゼン、ジャズトインタイムなどの経営方式が、改めて注目されていました。トヨタの人材は各方面から引く手あまたで、内紛状態のNHKの再建にと、理事に広報経験者が派遣されるほどでした。「トヨタが日本を変える」とまでいわれたのは、このころです。

最高経営責任者の豊田章一郎氏(名誉会長)とお話する機会がありました。私が出向していた出版社の雑誌(中央公論)で、「トヨタ特集を組ませていただきました。トヨタなら低迷する日本を変えうる」と、申し上げました。10何年か前です。「ありがとう」と感謝されると思っていると、逆でした。

「そんなにトヨタをほめないでくださいよ。持ち上げられると、社員がその気になってしまうのです。士気が緩むのです。それが困るのです。油断させないでください。外部からみて、今のトヨタのどこに問題点があるのかを指摘してほしいのです」。一本とられましたね。

日産の健闘がトヨタを強くする

さらにゴーン氏に対する感想を聞きました。ゴーン流の合理主義的な経営手法は日本に合わず、失敗するだろう、トヨタ1強体制が結局、確立されようとの声が強かったころです。ルノー主導の企業再建の挫折を、トヨタも期待しているに違いないと、大部分の日本人は思っていました。

豊田氏は違っていました。「ゴーン氏には、日本で成功してもらわないと困るのです。競争相手がいないと、われわれの緊張感がなくなるのです」。これにも意表をつかれました。楽になりたいと願う一般社員と違い、経営者の意識はそういうものなのかと、教わりましたね。

こんな話を思い出したのは、自民1強体制、安倍1強体制がどこか「トヨタ1強」に似ているからです。安倍政権に1強体制に対する危機感がどこまであるのだろうか。最近、ぼろぼろ出始めているのは、議員のスキャンダル、放言、失言の数々です。ブログ「保育園落ちた」騒動で、首相自身が「実名を確認しようがない。これ以上、議論のしようがない」と、高飛車な答弁をして、失敗しました。

1強体制は自らを危うくする 

「1強体制に慢心するな」と、ベテラン議員などから党内を引き締める声がしきりです。注意したところで、簡単には直らないでしょう。野党が強力なライバルに成長して、与党をけん制するしかありません。民進党は「頼りにならない」、「寄り合いの選挙互助組織だ」と批判に精を出すより、どうしたら強力な対立軸に成長させられるかです。1強体制には国益を害する危うさがあります。

岡田代表は「政権交代可能な政治を実現するラストチャンスだ」と、結党大会で挨拶しました。おかしな発言です。結党した直後にもう「ラストチャンス」とは、あきれます。「選挙に敗北したら辞任する」も気の早い場違いな発言です。5年や10年は、かけていく覚悟が必要です。

首相は「民主党政権時代より企業倒産件数は3割減った」とか、税収がいくら増えたとか、いいますね。2008年のリーマンショックで、日本株も暴落しました。経済が低迷していた時に民主党政権が登場しましたので、その後の経済の反動増でいろいろな指標が上向くのは当然です。与党にいいようにあしらわれています。民進党は論客をそろえて、まともな経済論戦を、です。

格差社会の是正に焦点を

新党の綱領には「自由、共生、未来への責任を結党の理念とする」と、あります。なぜもっとストレートに、「格差社会の是正を」と、叫ばないのでしょうか。「格差」が日本の最大かつ深刻な問題でしょう。同一労働同一賃金にしろ、待機児童対策にしろ、野党のいいそうなことの多くが安倍政権のスローガンに横取りされています。政策立案能力の向上を望みます。

アメリカ大統領選の予備選では、激論が交わされ、日本の新聞は大々的にスペースを割いています。どこの国の選挙なのと、思うほどです。夏の国政選挙は大統領選の大詰めと重なります。政権の広報紙化が目立つメディアもあわてるような国内政治の展開を期待していますよ。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年3月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。