月面探査レースに挑む若き技術者と話して思ったこと

田原 総一朗

先日、僕をとてもワクワクさせるニュースがあった。「人工知能」対「プロの棋士」による、囲碁対戦がおこなわれたというのだ。結果は、人工知能の4勝、プロの棋士は1勝だった。人間が人工知能に負けたということでおおいに話題になった。「衝撃」という報道もあった。

ロボットが、話し相手になったり、介助の手伝いをしたりする日が、遠からず来るであろう。十数年後には、1人1台のロボットを持つ時代になるかもしれない。最近、暗い話題が多い。そのなかで、こうしたイノベーションに僕は明るい希望を感じる。

技術革新に燃える若者たちに話を聞くのも大好きだ。月面探査レースに挑む袴田武史さん(36歳)にインタビューしたときもおおいに興奮した。「google Lunar XPRIZE」という月面探査レースがある。簡単にいえば、月面にロボットを送り込み、500メートル以上走らせ、月面の映像を地球に送り返すというレースだ。レースの実施の背景には、月の資源利用や月面基地の建設という目標がある。

最初にこのミッションを成し遂げたチームは、賞金2000万ドルがもらえるという。なんと夢のあるレースではないか。世界から18チームが参加、日本からは袴田さんが代表を務める「HAKUTO」が名乗りを上げた。

映画「スター・ウォーズ」を見て、たくさんの子どもたちが宇宙に憧れを抱いた。袴田さんも、そんな子どもたちのひとりだった。宇宙を夢見る袴田少年は、やがて名古屋大学とアメリカのジョージア工科大学で宇宙工学を学んだ。さらに、技術面だけでなく、「経営の面から宇宙開発に関わりたい」と、コンサルティング会社に勤務する。

袴田さんが月面レースに誘われたのは偶然だった。そして、コンサルティング会社を辞め、「HAKUTO」の代表として働くことにしたという。会社を辞めてレースに専念するというのは、定収入がなくなるということだ。僕も若いころ、会社を辞めてフリーランスになったからわかるが、よほどの決断である。「夢に賭けた」といえるだろう。いま、フルタイムのメンバー5名、そしてボランティア20~30人で、彼は宇宙を目指している。

月面探査レースに臨むには、何よりもまず資金を集めなければならない。しかし、スポンサー探しは容易なことではない。昨年1月、「HAKUTO」は参加チームの中で技術が進んでいるチームに対して贈られる中間賞を受賞した。こちらの賞金は50万ドル。資金面で大きな助けになったそうだ。

袴田さんのゴールは、レースの優勝ではない。ゆくゆくは、この技術を生かし、月面での資源開発ビジネスを展開することだ。穏やかな笑顔で語る袴田さんだが、その目は凛とした自信で燃えていた。

袴田さんのような若者と話をするたびに、強く感じることがある。日本の未来に希望はある、ということだ。彼らのロボットを乗せたロケット打ち上げは、今年後半の予定だという。日本代表「HAKUTO」の優勝を心から祈っている。


編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2016年4月1日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。