バロンズ誌:円高は、世界景気減速の前兆か

2016年04月11日 09:00

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バロンズ誌、今週はカバーに債券王のビル・グロス氏を掲げています。PIMCOを去りジャナス・キャピタルに移籍してから、1年半が経過しました。グロス氏が運用を任されるファンドは一時2930億ドルにのぼったPIMCOトータル・リターン(PTTAX)から、13億ドルのファンド(JUCAX)に変わり、2015年にJUCAXはマイナス0.72%に過ぎませんでした。しかし今年は1−3月期に2.04%であり、モーニングスターでの非伝統的債券ファンド別ランキングでトップ15%に食い込んでいます。そのグロス氏、米連邦公開市場委員会(FOMC)は年内利上げすると予想。ただし「株式市場が許す限り」と付け加えていました。米国にとっての金利正常化はFF金利誘導目標が2%、米10年債利回りが3.5%、30年物住宅ローン金利は4.5%とし、その水準になれば住宅価格の下落など「痛みを伴う」と想定していました。

米10年債利回りは足元の水準を維持する見通しですが、Fedが利上げすれば円とユーロが下落するため、欧州中央銀行(ECB)と日本銀行の金利がマイナスに突っ込まずにすむ、マイナス幅拡大が防げるといいます。成長率は米国で2%を、ユーロ圏で1%付近、日本はゼロ%以上を予想しますが、景気後退を見込んでいません。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測しているアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートは、円高がテーマです。抄訳は、以下の通り。

円高は株式市場にどのような影響を与えるのか—How the Yen’s Rise Could Affect the Stock Market.

映画「カサブランカ」でルノー署長が”リックス”での賭博行為に衝撃を受けていたが、富裕層が地球の裏側で租税回避にいそしんでいたとしてもおかしくはない。法律所のモサック・フォンセカから流出した2.6テラバイトものデータを有するパナパ文書で唯一驚くべき点は、そこに登場する人物だろう。アイスランドのグンロイグソン首相を辞任に追い込んだほか、キャメロン英首相の父親、アルゼンチンのマクリ大統領、中国からは習近平主席の親族の名前が連なる。プーチン露大統領の側近も関与していた記述があったものの否定し、米国によるロシアの弱体化を狙った試みと一刀両断する状況だ。

米国では、租税回避への規制が強化されつつある。製薬大手ファイザー(PFE)は、アイルランドのアラガン(AGN)の買収断念を余儀なくされた。最高経営責任者(CEO)は、政治的に槍玉に上げられている。ゼネラル・エレクトリック(GE)が「道徳の骨組みを破壊している」とする民主党のバーニー・サンダース候補による糾弾は、ジェフリー・イメルトCEOを批判したようなものだ。

米大統領選は、米国だけでなく世界でもナンバーワンの話題として取り上げられている。投資会社ルーミス・セイレスのダン・ファス副会長が最近日本を訪れた折には、米大統領選のトピックで会合が始まったという。

米大統領選とその影響に関する予想が困難である一方、その他に複雑な要因が銀行株の売りを招き7日の株式相場下落を演出したのだろう。同時に、米債利回りが低下し円高が進んだ。安全資産である米債への資金流入は、納得できる。米10年債利回りは1.72%で、独10年債利回りの0.1%、本邦10年債利回りのマイナス0.08%である事実を踏まえれば、尚更だ。

しかし、なぜ円高が進行したのか。ドル円は1月にマイナス金利を導入した後で121円をつけたが、その後は下落に転じ112〜114円のレンジまでドル安・円高へ転じた。そこからドル円は108円まで円高が加速、日本株の大幅安を招いた。直近の日銀短観ではドル円の想定レンジが117.5円であり、円高は企業の競争性を妨げる。麻生財務相の介入示唆は円高を食い止めたが、一時的である可能性も考えられよう。

日興アセット・マネジメントのジョン・バリ主席グローバル・ストレテジストは、円高・ドル安は投機的な資金フローを反映していると説明しつつ、「通貨戦争の緊張緩和を示唆しているのかもしれない」とも論じた。シカゴ先物取引ブローカーのR.J.オブライエンのディレクターであるジョン・ブレイディー氏も、2月26日に上海で開催された20ヵ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で「さらなる近隣窮乏策、通貨切り下げをもたらす金融政策の停止で合意したのだろう」と指摘する。

上海G20、財政政策発動での成長促進で合意。
上海G20、市場安定へ政策総動員 通貨安競争の回避確認
(出所:Reuters

ECBは3月に追加緩和を導入し、マイナス金利幅を引き下げた。しかし、ブレイディ氏いわく銀行のバランスシートにあるペトロブラス(PBR)やグレンコア(GLEN)といった企業の社債を支援するものでもある。日銀はマイナス金利を導入したが、4月27日の会合で一段の利下げを行う気配はない。まさに上海G20裏合意が囁かれるにふさわしい。

問題は、人民元だ。対ドルでは1月の6.60元から6.47元まで元高へ転じたものの、2015年8月に切り下げを断行した当時の水準6.20元より元安にある。円が対ドルで上昇すれば対元で16.5%以上の円高に進むことになり、日本の輸出企業にとっては厳しい状況を意味する。その間、TOPIXがドルベースで16.8%下落した理由が理解できるというものだ。

1日の取引額が5兆ドルもの巨大な市場である為替相場は、他の市場に示唆を与えている。BCAのデイリー・インサイトに言わせれば、円高は「グローバル・リスク資産にとって、炭坑のカナリア」だ。つまり円相場と日本株は米株の先行指標であり、2000〜2007年にはS&P500より先にピークアウトしていた。理由のひとつとして、円キャリーという言葉が飛び交ったように「円が調達通貨」だったことが挙げられる。

JPモルガンのエコノミスト、ニコラス・パニグリゾグロウ氏は、海外投資家による日本株買いに絡んだ「円ヘッジの巻き戻し」と説明する。米国の上場投資信託(ETF)でも人気のストラテジーであり、一説によれば2880億ドルに及んだ。BCAは、少子高齢化に注目。日本経済は内需により支えられるのではなく海外でのビジネスに影響されやすくなるため、「日本株の下落は世界経済減速の前触れ」と分析する。

世界経済の減速という言葉は、米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長が3人の前任者であるポール・ボルカー氏、アラン・グリーンスパン氏、ベン・バーナンキ氏との議論で口にした言葉である。世界景気の減速こそ、最大限の雇用とインフレ2%という目標がほぼ達成されるなかで、追加利上げを見送った要因だ。

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙のエコノミスト調査では、69人中1人しか次回4月26〜27日会合の利上げを予想せず、6月の利上げが有力視されている。ただし、ブルームバーグによるとFF金利先物は6月利上げ織り込み度につき16%、12月にして漸く50%という状況だ。仮にFF先もの動向が正しければ、中銀がいかに世界景気に対し敏感に反応しているかが読み取れる。日銀とECBが利下げを行う過程でFedが利上げを見送れば、上海G20裏合意に信憑性を与えるようなものだ。全ては、状況証拠である。ただし、市場により大きな影響を行使しているのは政治ではなく中央銀行当局者で間違いないだろう。

マーケットに重点を置いたコラム、ストリートワイズは年金運用関連の規制についてで抄訳は以下の通り。

新たな退職金口座規制の勝者と敗者とは—New Retirement Rules: Winners and Losers.

米国で2018年に導入される退職金口座の新規制は、恐れていたより悪くない内容だ。手数料の低いインデックス・ファンドの運用を推奨するようなものではなく、先物やオプション、プライベート不動産投資信託(REITs)への投資を厳格化させていない。業界が問題視していた手数料の取り扱いやコンプライアンスに関する規制強化も、見送られた。推奨する投資向け商品が不適切でなく受託者水準を満たせば、あらゆる商品の販売が可能になる。ただし販売する商品は顧客にとって最大の利益をもたらすものであらねばならない。こうしたニュースを受け、保険会社や運用会社のほか個人向けブローカー業者の株価はまちまちだった。一時は急騰したものの、割高でパフォーマンスの鈍い資産からの資金流出が止まらないと判断したからだろう。

——アップ・アンド・ダウン・ウォールストリートが取り上げた上海G20裏合意は数々のストラテジストが以前から指摘していたので、今さら感は拭えません。人民元での円高は日本の輸出競争力を低下させ日本株の下落につながり世界景気減速の前触れになる、という論理展開もいささかアクロバッティックです。円ヘッジの巻き戻しも、何がきっかけになったかを明確に紐解いておらず、消化不良は否めず。個人的に円高・株安は、米国の決算発表を控えたリスク資産の巻き戻しの結果ではないかと推察しています。1−3月期決算では1株当たり利益が9.1%減と4期連続、売上も1.2%減と5期連続という業績リセッションが予想されているだけに、4月11日引け後のアルコアから開幕を告げる決算発表前にアセット・アロケーションを変更してもおかしくないでしょう。

(カバー写真:Japanexperterna.se/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年4月10日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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